ep84 不器用(The harem)
「鳥竜リソグラフィカが出た。そして今、ギルドにリソグラフィカを討伐出来る冒険者はいない」
「だからエレを貸せってのかい?」
「そうだ。エレを貸せ」
ギルマスのアルカディアは高圧的な態度で「おかみ」に接している。……が、アルカディアはこれが素なのでそれくらいで腹を立てる「おかみ」ではない。
恐らく、不器用な女なのだろう。齢27歳でギルマスという要職に就いているのだから実力は相当のモノなのだろうが、未だに嫁の貰い手は現れてくれないと、もっぱらの噂がこの「魔の酒場亭」にまで流れる来るほどだ。
過去にはその端麗な容姿に惹かれ、求婚が絶えなかったと……いや、この話しはやめておこう。誰かが来てしまうのでね……。
「エレは今、クライス山脈に行ってるから、暫くは戻らないだろうさ?」
「まったく、どいつもこいつも地下迷宮か……」
「それで?リソグラフィカはどこに出たんだい?それと数は単品かい?」
「南のセーリアス森林の中だ。小規模の群れが出来てるらしい。たまたま薬草採取に出た新人が発見し、飛んで帰って来た。まったく、最近の新人は使えん……」
「リソグラフィカの群れ?あぁ、時期的にハーレムかいね?それと、新人にそこまで期待すんじゃあないよ。アンタとは違うんだ」
龍種は番と幼齢の子共以外に群れる事はない。
竜種は基本的には一部の種以外に於いて、番を含む血筋以外のモノ達との群れを作らない。それは陸獣に分類される種の方が顕著と言える。
空獣に分類される竜種の方が総じて群れを作りやすい傾向にあるが、陸獣、空獣共に強力な上位個体が群れを率いている事が多い。
だが、今回のケースは少し異なる。
番と添い遂げない竜種に於ける通常の群れは、老若問わない雄雌混合だが、繁殖期になると適齢期の雄一匹に対して複数の雌で群れを作る。適齢期に入った雄がハーレムを作る為に上位個体が率いていた群れから離れ、その際に適齢期を迎えた雌を引き抜く。こうして出来上がったハーレムだが、その主導権は卵が産まれるのと同時に切り替わるとされる。
そして子共が卵から孵り独り立ちするとハーレムは解散し、各々が探し出した群れに参入するといったサイクルを採るのである。
今回はそのハーレムが近隣の森林地帯で発見されたという事だ。
またこれは別の話しになるが、アルカディアは新人も新人……ド新人のデビュー戦でたまたま遭遇した飛竜種を狩っている。だからこそギルマスになった現在、「新人でも竜種は狩れる」と考えているのだろう。それに付き合わされる者の立場など考えはしない。なにせ不器用な女だもの。
「そうさね……エレが帰って来るまで待てないんだろぅ?それならそこにいるアホウはどうだい?」
「「なッ?!」」
「正気か?気でも狂ったのか?コイツだぞ?アホウだぞ?」
「……もう俺……泣きたい……」
「まぁまぁ、話しは最後まで聞くモンさね」
アコウ苛め再び。もう既に反論する元気を失くし、心がズタボロに折れてるメンタル弱々なアコウは、本当に涙目になり可愛らしくアルカディアを見詰めていた。だがいくら可愛らしく見詰めたところで、アルカディアが靡くコトなど無い。
「アルカディアは新人が竜種を討伐出来ると思ってるんだろぅ?だがそれは甘い甘〜い幻想さね。しかし……だ。そんな大物新人がこの「魔の酒場亭」に二人いる。って言ったらどうするね?」
「問答無用で借りていく」
そうである。「おかみ」はアルカディアが来た事で先程、頭の隅の更に奥へと追いやった案を引っ張り出したと言える。二人をアコウパーティに貸し出すつもりは毛頭ないが、恩を売れるアルカディアになら貸し出すのもやぶさかではないと言う意味だ。しかし、どうせ恩を売るなら、アコウパーティに対してついでに売っておいても損は無い。まぁ、見返りは無いかもしれないが……。
よって、イシュとアマテラの二人を貸し出す条件として、アコウパーティもついでに参戦させ、少しでも経験値を稼がせて恩を売る作戦に切り替えたと言えよう――
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「紹介するさね。大物新人のイシュとアマテラさね」
「ギルドに来る連中から話しは聞いている。この店の給仕だろ?それにしてもこれまた大きいな。確かに大物に間違いはない」
「おかみさん、このギルマスなんか目付きが怪しいんだけど……本当に大丈夫か?」
「おかみ」は夜営業の為に仕込みをしていた二人を呼び付けると、アルカディアと顔合わせをさせた。貧乏で頻繁に「魔の酒場亭」に来れないアコウは二人とは初対面であり、噂話に聞く程度には名前と容姿は知っていた……ので、特にイシュの容姿に眼をギラ付かせていたが、その矢先にアルカディアの発言があったのである。
まぁ、イシュとしてはアルカディアから客の男共と同じニオイを敏感に感じ取ったと言えるのかも知れない……。




