ep75 想定外(Beast festival)
「ヘスティ、アテシの招集に応じてくれた事、感謝する」
「いえ……女神ウラノ・スィンゲルさまの招集……この不肖ヘスティ・アーベルンゲン、応じない訳には参りません。――ただ、今回の件、ウラノさまに一つだけお願いしたい儀が御座います」
「そなたは今回の作戦の要……そのそなたが必要とするのであるならば、何なりと申すが良い」
「わたくしの護衛として、一人雇って頂きたいと考えております」
「ほう?アテシの配下では不服……と?」
「滅相も御座いません。ただ……」
「ただ?いや、良い。アテシはそなたの権能が必要なのだ。そなたが必要とする人材ならば、言い値で雇おう。それが「魔の酒場亭」の者であってもな」
ヘスティはウラノの最後の一言に度肝を抜かれた。ここに至るまでウラノや側近に対して、ディアの事は漏らしていない。更に今回の護衛の件は「おかみ」以外には告げていない。
それなのに「何故?」と疑問と驚愕が入り混じった表情をヘスティは浮かべていた。
「ヘスティ、アテシも悩んだ。金額が金額なので……な。よもやティアからアテシ宛に見積もりが来るとは思わなんだ」
「えっ?!」
「見てみるか?よもや、獣車一台と御者一人にこのような値段を吹っ掛けて来るとは、ティアも耄碌したものと最初は思ったモノだ。為替相場を鑑みても大層な金額よ」
ヘスティはこれまで為替相場など意識していなかったが、よくよく考えてみれば、為替レートはこちらの方が高く、「おかみ」達のいる惑星の方が安い。と……いう事は「今まで大損していた」事になるが、それはそれ。これはこれ。
しかし議論の余地はそこじゃあない。何故「おかみ」がウラノに直接「見積もり」を送ったか……である。
「何故、ウラノさまの元へ?」
「さてな。だが……ティアがここまでの金額を吹っ掛けるんだ。そして、ヘスティが求める者であるのなら相応の対価なのだろうよ。それに獣車如きが脅威深度“8”に対応するのも謎だ。拠って……アテシも興味が湧いた。アテシが直接戦場に乗り込むつもりはなかったが、初日だけでも視察に行くさ」
「えっ?!戦地での指揮は、ウラノさまが為さるのではない……?」
ちなみに「脅威深度」とは獣の脅威度の指標として使われる目安である。獣の最上位にあたる龍種を10とした時の脅威度を示しているが、幅広い惑星で使われている目安ではない。拠って、深堀りするつもりもない。
しかしながらランデスはこの国の魔導工学の粋を集めても達成出来無い程の技術。それをウラノが見初めた場合、一悶着起こるかも知れない。だが、ヘスティはその事よりも、指揮官の方に思考を奪われていたようだ。
「アテシが総指揮官に任命したのは「アルテ」だ。副官には「ツクヨ」を任命した」
「アルテ……さま?それはもしや、女神アルテ・ミステリアスさまで御座いますか?しかし、ツクヨさまと仰る方は存じ上げませんが、そんな方がウラノさまの旗下に……」
「うむ。アルテはそのアルテで間違いない。そしてツクヨは最近拾った者だから知る由もないだろう。だが優秀故に副官とした。しかし、コヤツは有機生命体の依り代なのでな……」
「有機生命体……はッ!そうだッ!ウラノさま、更にお願いが御座います――」
斯くして「魔の酒場亭」からの見積もりがウラノに送り付けられた理由は不明のままだが、「他人の金で〜作戦」は無事に達成出来たと言える。
そして、最後にヘスティがウラノに上申した願いとは、先のハイヤード契約の際にヘスティがやらかしたあの件である。
_____
「うわぁ。立派な砦ですねッ」
「ふむ。そなたが御者か?あの時、ティアの店で見掛けた顔だが、名はなんと言ったかな?」
「わたしはディアです。おかみさんから話しは聞いています。宜しくお願い致します、ウラノさん」
「そして、そちらが獣車……いやしかし、獣がいないようだが。この獣車はどんな獣に牽かせるのだ?確かにこの大きさ……対応脅威深度も納得出来る……か」
初めて見るランデスの姿にウラノは興味津々という感じだ。今回ディアとランデスは、「魔の酒場亭」から転移門を経由して砦内に直接やって来ている。それは外が非常に危険だからだ。
砦の周辺には結界が張られているが、一歩でも外に出るとそこは足の踏み場もない程に獣祭りである。
だがこれは今に始まったコトではない。
ここに砦を建設している時から既に獣達はジワジワと集まって来ていた。今となってはそれこそ枚挙にいとまがないほどで、かつてクロック峡谷を埋め尽くしていたワイバーン大隊どころの騒ぎではない。防衛の為に張られている、球体状の強力な結界にも所狭しとびっしり張り付いており、空は昼間であっても大地は夜の帳が降りているかのような暗さである。
そんな中、悠々と談笑出来る胆力もなかなかだと思うが、一切の戦闘が出来ないヘスティだけは戦々恐々としている様子であり、ランデスの中で一人外の様子から目を背けていた――




