ep73 メモ(Deadly sins)
ディアブロ……それは即ち「悪魔」という意味である。悪魔は神と敵対する災いそのものであり、その発生に於いては謎に包まれている。
ただし、神が「正義」に対して悪魔が「邪悪」というのは多少なりとも誤解がある。神ですら「正義」を司る善神と「邪悪」を司る悪神がいるのに対し、悪魔が「邪悪」だけというのは些か設定上問題があると言わざるを得ない。
しかし、今ここで行う議論の余地はそこには無い。
何故ならば、この箱庭は一人の創造神が暇つぶしの果てに途中まで完成させたモノ。その中で創造神は、人間と獣、そして高位高次元生命体しか配置していない。その上で多様性と言う名の自己研鑽を積み重ねた結果、今の姿がある。また、その多様性の中で「悪魔」という存在が発明され産み落とされないように創造神は徹底的に統制を掛けていた。よってその中に「悪魔」は概念的にもいないのである――
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「それで、ヘスティ……この手紙は一体どういう事さね?「ディアが悪しき存在で「魔の酒場亭」に危険が迫っているの可能性がある」これだけ書かれた手紙……というか、メモを受け取ったところで、こちとらなぁんにも分からないじゃないさね」
それはディアがハイヤード契約から帰って来た翌日の事。エレはまだ帰って来る気配すらないが、「魔の酒場亭」は相変わらずである。そして、相変わらずのように唐突に転移門からやって来るヘスティが今日もいる。
ハイヤード契約が終わった翌日にまで来るのだから、よっぽど暇かそれとも……であろう。
「おかみさまは、ディアさまの種族を知っているのでちて?」
「ディア■■って言うんだろぅ?ディアの身体を一度調べてみたが、耳以外で特にヒト種と異なる部分はないさね」
「ディアさまの種族は、「ディアブロ」と申しますでち」
「ディアブロ?ヘスティ、アンタ……ディアから直接聞いたのかい?」
「おかみ」は少なからず動揺している様子にも伺える。それが何故なのか、ヘスティには分からない。
「ディアさまの発音は難しく、わたくしなりに解釈した結果、「ディアブロ」という発音が最も近しいモノと思ったのでち」
「それで、その「ディアブロ」と言うのが、メモにあった「悪しき存在」って言うのかい?」
「はい……仰る通りなのでち……」
ヘスティから明かされた「ディアブロ」=「悪しき存在」という内容を聞いても、「おかみ」の動揺が更に広がったようには感じられない。それよりかはむしろ、「やれやれ」と言った表情に取って代わられた感さえある。
「おかみさまは、驚かれないのでちて?創造神が恐れ、徹底して完全に排斥した「悪魔」という存在。「ディアブロ」はその「悪魔」そのものなのでち。おかみさまは、「悪魔」を驚異には感じないのでちて?」
「なぁ、ヘスティ……アレが危ないヤツにアンタには見えるのかい?まぁ、危なっかしいヤツって事に変わりないってのは認めるがねぇ」
「おかみ」とヘスティの視線の先には、フロアの掃除をしているディアが映っているが、先程二人が視線を移した時に、タイミングよく水の入ったバケツに躓き盛大に転んでいた。確かに危なっかしい感じの演出ではある。
先程の「おかみ」の動揺はコレだったのかもしれない。まぁ、違う可能性も多々あるが……。
「おかみさま、これはここ数百年の間に確認されている事象なのでちが、大罪の因子が暗躍してるようなのでち。それは人間だけでなく、獣や高位高次元生命体ですら虜にするようなのでち。それにも「悪魔」が関与してる可能性を感じないでちて?」
「確かに大罪の因子が暗躍しているのは気にしてるところさね。だが、例えそれが「悪魔」の仕業でも、それをディアがやってると思うのかい?そもそもディアは、ヒト種からそのディアブロってヤツに変化させられた形跡がある。あの娘は元々ヒト種の人間で、生きてた時代は今から百年も前の話しさね。――で?この百年の間、大罪因子の暗躍は鳴りを潜めていたかい?」
「い……いえ、それは……」
「おかみ」はこの場でこそ言わないが、イシュが大罪因子の一つである「憤怒」に囚われていた事を知っている。だが今はその「憤怒」が休眠状態にある事から放置していると言ってもいい。更に付け加えると、あちらこちらの惑星にある情報網を通じて、その手の話題は尽きる事なく頻繁に入って来ていると言っても過言ではない。
だからこそ……「ディアが箱庭の中で存在している唯一の「悪魔」であり、暗躍している因子持ちの原因とは言えない」と、「おかみ」は結論に至っていたが、ヘスティに対してその全てを開示するつもりは毛頭なかったのである。しかし、「魔の酒場亭」の従業員としてのディアを守るつもりはひしひしと感じられるのであった――




