ep49 対比(Acting instruction)
「狡猾なエンリの事だ。様子見が終わったなら、こちらの準備が終わる前に……こっちの援軍が来る前に攻めてくるハズだ……と考えてる。アイツとは長い付き合いだからね」
「でもそれなら……おかみさんはアイツらとどこで戦り合うつもりなんだ?いつ攻めて来ても可怪しくないヤツらが、この町へ侵入して来たら、ここが戦場になるんじゃ?」
「そうならない為に、この町に結界を張る。そして結界に触れた者に対して発動する転移陣を仕込んでおくとするさね。行き先は権能で創造する疑似惑星。そこへ強制位相転移させる。だが、エンリ達だけを閉じ込めてもアイツなら直ぐに出て来るから、アイツらが入ったら時を待たずしてこちらの戦力も同じ空間に送り込む寸法さね」
「おかみさん!それだと、人間さんの通行人とかもその「ふぇいくわぁるど」に飛ばされたりしませんかぁ?」
「ディア、そこら辺はフィルターを掛けて対象を決めておけばいいから心配ご無用さね」
「ふぃるたぁ?」
「魔の酒場亭」のフロアで、近い内に起こるであろう、エンリ達によるアーレ侵略防衛戦の作戦会議が慎ましく行われていた。エレは「おかみ」が話す内容にいちいちツッコミを入れないが、知らないコトが多いディアは聞き返す事も多い。拠って、話しが先に進まなくなる。
しかし今回は相手が相手だけに、ある程度のスピードは大事だが、それよりも綿密性が問われると言っても過言ではない。
斯くして、作戦会議は続き……
「なぁ、おかみさん、ディア……ちょっといいか?」
「エレさん、なんです?」
「アタシが相手をするのは、ニゴウとか呼ばれていたヤツで構わないか?ディアに前情報が無いヤツを押し付けるようで申し訳ないんだが……」
「ディアはどうなんだい?」
「わたしは一号さんも二号さんも知りませんから、エレさんは二号さんがいいって言うなら、わたしは構いませんよぉ」
「エレさんは二号がいい」この発言は少しばかり問題がある気がしなくもないが、それはそれ。これはこれ。
しかし、こうして作戦会議は大詰めになっていったワケだが、最後の最後に放ったディアの発言は、「おかみ」を多少なりとも困らせる事に繋がる……。
_____
「イチゴウおいで。ちゃんと調教で教えられたコトが出来るようになったか、見せてくれるかい?」
「は……い。エン……さ……ま。――お……おねぇ……ちゃ……ん、あた……し……の、ふし……ふし……だ……らで……はずはず……か……しい……す……す……すが……すが……」
――ぱんぱんッ
「はいはい、そこまでそこまで〜!そんなんじゃ、エレちゃんとの感動の再会にならないじゃないかぁ。まぁ、イシュの自我はほとんどが崩壊しちゃったから仕方ないのかなぁ……」
「こんなんじゃ、観客に感動を与えられない」と、監督が演技指導に熱を上げている。頭にはベレー帽。顔にはサングラス。手にはメガホン。身体の前にはカメラ。そんなイメージがぴったりと当て嵌まるような光景だが、演者は一糸も纏っていない。
更に付け加えると、セリフの内容からして、「全年齢向け」の青春トレンディ映画と言うよりは、「X指定」な、えちえちドロドロ劇場の想定となりそうだ。まぁ、それはそれ。これはこれで深堀りはしない。
「エン様、そのお戯れはいつまで続けるのでありんす?妾はこの前押し倒された事で疼くこのカラダを、早く慰めたいのでありんす。早くエン様の首輪で、あの女とイチゴウセンパイの姉妹どんぶりを早く実現して欲しいのでありんす」
「――あのさぁ、ニゴウ。キミ……最近調子に乗ってる?誰に対してモノを言ってるのさ。アーレにいつワタシが攻め込もうが、キミにそれを言われる筋合いはない。飼い主と飼い犬の立場の違いをもっと調教してあげないと分からない?」
「い、いえ、滅相もござりんせんッ!妾はこれ以上、エン様に調教されたら、何もかもが可怪しくなってしまいんす。どうか、どうか御慈悲を……」
「そぉ?そうだキミぃ、カラダが疼いてるんでしょ?それならイシュが完全に堕ちてるかどうか、キミのカラダで確かめてみてよ。そしたらキミの疼きも取れるし、様子を確かめる事も出来る。――ワタシがちゃあんと見守っていてあげるからさ。まぁ、観客がワタシだけってのが物寂しいなら何人か攫って来るけど?それとも参加型観客の方が悦べるかい?」
エンの嗜虐心は、「ここに極まれり」といった命令をニゴウに押し付けていった。ニゴウとしては、突如として始まろうとしているハードな百合展開に、何をしていいか分からなかったが、エンの命令に逆らう事は出来ない。
そして、「観客など言語道断」とニゴウが言う事など出来る筈もない……。
幸いにも目の前のイシュは無表情で顔色一つ変えず、「ちんちん」をしたままで鳴き声一つ上げずにエンの命令待ち状態……。
この後、この場で何が起きたのかはご想像に任せるとしよう。ただ、夜はその帳を降ろし始めたばかりだった――




