ep308 木像(The phenomenon)
「よもやそんな事が可能なのか?」
――ビクッ
「可能なハズなのでち。ねぇ?」
――ビビクゥッ
何やら「アテクシは木像。アテクシは木像。ただの木像」とブツブツと聞こえるかのようなビビり方をしている木像が一つ。
そして、その木像に対して熱い視線を送っているのは、アルテとヘスティである。まぁ、ランデスの車内にいる全員が二人に釣られて視線を送っているので、木像でありながら汗などを垂らしている。
うん、車内が熱いのかな?いや、この場合は「暑いのかな?」が正解かな?(どうでもいい)
※運転中のディアも木像に視線を送っていますが、ディアは高度な訓練を積んだドライバーであり、運転は全て「自動運転」でランデスが行っているため、支障はありません。尚、良い子は免許を取ってもマネをしてはいけません
要するにヘスティの策の要となるのは木像であり、その木像に宿る駄女神こと、女神ラ・メンこそがカギを握るのである。
しかし、女神ラ・メンは頼まれてもそんな危険な事をする気はさらさらなかった――
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「策……だと?この状況を打開する策が本当にあるのか?」
「はい。恐らくですが、可能なのでち。――先ず、わたくしの「秩序」を反転させ、質量を持つ光……メロペさまの「崩玉」の奔流の速度を遅らせるのでち」
「うむ、速度が遅くなれば、その分メロペの魔力は消費され被害は減る……が、それでは打開策とは言えんぞ?」
「そこで、ここからがこの作戦の要なのでちが、そこの木像を使うのでち」
ヘスティはビシっと木像を指差した。ちなみにこの中で唯一アルテは木像の事を理解していない。だから当然ながら頭に“?”を浮かべていた。
逆に、木像の事を理解している他のメンバーであったとしても、ヘスティの言いたい事を理解している者は誰もいなかったと言えるし、白湯に至っては「駄女神に何が出来るの?」と言いたそうな表情をしていた。
いや、むしろ小声でボソボソと呟いていた。
「アルテさま、わたくしの「秩序」は現象であり、「現象」には「崩玉」の光が効力を為さないのなら、存在そのモノが「現象」であるモノがメロペさまに近付き、その吸い上げられた魔力を「崩玉」から奪い取れば万事解決するのでち」
「待て待て待てヘスティ。存在そのモノが「現象」?そんなモノは存在しないだろ?そもそも、そんな存在は「創造神」かそれに準ずる「神」以外には有り得ない。そしてそんな存在は「箱庭」内に於いて確認されていないハズだ。――ま、まさか、そこの木像が「神」だとでも言うのか?」
――ビク
ランデスの車内にいるアルテを除く誰しもが「その木像こそが「神」だ」と言いたかった。だがそれと同時にラ・メンを「神」と認めていいモノか悩ましかったとも言える。
まぁ皆が皆、あの時の惨事を体験しているからこそ、認めたくないと言うのは大いに頷けるだろう。そう、開いた口が塞がらなくなる程の自己中心的な主張を聞かされた、あの最悪の「ファーストインプレッション」である。
「アルテさま、大変申し上げにくいのですが、そうなのでち。この木像は、豚骨さま達の惑星で発生した「神」であって、「人間」の信仰によって産まれた存在なのでち。故に精神体の身体を持ち、存在そのモノが「現象」である事は間違いがないのでち」
ヘスティは断言した。誰しもが「神」と認めたくない程の駄女神を「神」と認めた。だがその一方で……
「女神ラ・メンさまって、そこにいたんだぁ。うち、すっかり忘れてたよぉ」
……と、付け加えるように話した豚骨の一言で、アルテはそれが真実だと知った。
ちなみに女神ラ・メンは豚骨のセリフの後で、泣いていた――
「しかし仮にその木像が女神だとして、その女神が魔力を奪い取る力を持っているか否かは別だろう?――よもやそんな事が可能なのか?」
斯くして冒頭に至る。ヘスティは女神ラ・メンの事を全く知らない。知ってるのは「やかましい」という事だけだ。
※白湯からさらっと聞いてはいるが、「右から来たものを左に受け流す」の某ソング並にどうでも良かったので既に覚えていない
そして、「神」という存在についてもそこまでは詳しくない。他の惑星で現れたという「異界の神」という存在をディアからさらっと聞いたくらいであり、本人は今までに「神」と出会った事も会話した事もない。それに養殖系とはいえ天然娘である、ディアフィルターが噛んでいるのでその信憑性すら怪しく感じている。
だからこそ、「ヤマ」を張ったに過ぎない。
だが、例えその「ヤマ」がハズレたとしても、メロペに近付ける事が出来るのであれば、やりようはいくらでも考え付く。問題は近付けるか否かであって、近付く事が出来なければ何も始まらない。始められない。
従って今は、なんとしてでも女神ラ・メンの首を縦に振らせ、メロペに近付いてもらうしかない。
ヘスティとはそういう、良い意味でも悪い意味でも知恵が働く高位高次元生命体なのである――