ep299 雪月花(Tiger flute)
――豚骨と白湯が「シン・蟲族」ノーブス・アリディフォリアと激戦を繰り広げている頃……
「気配がする。テーバメ!余達の出番だ、付いて参れ」
「ハッ!チッカ様、御意に」
……チッカとテーバメもまた、新たな敵を迎え撃つべく空を駆け出していた。そう、オリゴチャエタである――
今、アルテ大隊は残ったマントデアを迎え撃っているが、多勢に無勢な事に変わりはない。だがここで、オリゴチャエタが再び地中から現れればマントデアのヘイトはそちらに向き、再びあの「竜巻」が巻き起こる可能性は否めない。
そうなれば「立体的」且つ「面」で戦える状況だからこそ、白兵戦でも容易に狩れるマントデア達が密集する事になる。
密集すれば白兵戦は戦術から外され、射撃のみでの戦闘を強いられる事になり、残弾が尽きた段階で殲滅は難しくなる。
……であれば、オリゴチャエタが地中から湧き出る前に、迅速に一匹ずつ討伐しなければならなかった。当初の予想ではあと数匹は地中に潜み、機会を窺っているとされている。それを出来るだけ早く摘み取る事が、チッカ達鳥人族に課せられた使命と言っても過言ではない。
また、いくらチッカやテーバメが強くても、オリゴチャエタを複数体同時に相手にするのは難しい。二人掛かりでやっと倒せる程度の強敵が複数体同時に現れたら、如何に鳥人族とは言えど、捕食されてしまうだろう。
故に「迅速に」なのである。
――ッ!!
「あそこだテーバメ、速攻で決めるぞッ!余に遅れを取ってくれるなよ?」
「チッカ様に遅れを取るような怠慢、某には有り得ませぬ」
「期待しているぞ、テーバメ」
チッカとテーバメは地表付近で察知した違和感に向けて全速力で向かうべく、側頭部の翼を羽ばたかせていた。二人が二人共に抜刀の構えで力を溜め、その技を放つ瞬間を見極めている様子だった。
そう、それは偏に捕食者が獲物を一撃で仕留める機会を窺っている光景とも言える。
「余が先行する!テーバメは合わせよ!」
「はッ!」
――ずもももも
灼けた大地が盛り上がり、何かが出て来ようとしているのは明白だった。
オリゴチャエタが捕食の為に喰らい付く場合と、大いに違いがあるその挙動は、未だチッカ達に狙いを定めていない証拠と言えるだろう。
「見様見真似!鳥獣伎楽・闇夜の烏に鷹の爪!」
――ずばばッ
シャッシャッシャッ
「今だッ!鳥獣伎楽・雁が帰れば燕が通う!」
————ざざ——ざんッ
チッカは目標物に対して暗幕を張り気配察知を喪失させるのと同時におまけ程度の斬撃を放つ技……“元”部下であるキーラス・ウーノマーネの技の見様見真似版を使い、オリゴチャエタの感覚器官の機能を奪うのと同時に一撃を見舞った。
そしてこれには意味がある。オリゴチャエタは視覚が発達しておらず、他の感覚器官に頼っている。だから暗幕にこそ意味はないが、視覚以外の感覚器官を奪えるこの技を使う事で、自分達という存在を発見させないようにしたのである。
一方のテーバメは、技の中で最も得意とする「ツバメガエシ」ではなく、亜音速から音速の域に達した「モガリブエ」を放った。
これはかつてピンクから受けた“性技”に因って特性が変化し、速度がそのまま威力に上乗せされる仕様になっている。拠って、速度が高い今だからこそ、その真価が発揮出来る技になっているとも言える。
ちなみに以前は「目にも映らない亜音速の斬撃」だったが、自称「ナニからナニまで天才」のピンクによって破られその後、「秘密の特訓」によって進化した事になっていると言っている。
えっ?誰が言ってるかって?うん、誰だろうね?よくワカラナイナァ……。
――ざしゅあぁぁぁ
「ちぃッ、浅いかッ!ならばこれで仕留めるッ!壱の太刀・淡雪、肆の太刀・朧月、玖の太刀・艷花。さぁ、全部貰って逝け!大盤振る舞いだッ!拾の太刀・雪月花」
これがチッカの本領発揮と言わんばかりに、持てるばかりの連続攻撃で畳み掛けた瞬間だった。「剛」の太刀シリーズの「雪」、「速」の太刀シリーズの「月」、そしてそれらを併せ持つ「花」の太刀シリーズ。本来であれば、「壱の太刀」から「玖の太刀」全てを使った後でこそ真価を発揮する「拾の太刀」だが、それぞれのシリーズを一回でも使った後であれば発動条件は満たされる。
※過去にウラノに対して使った時はこの条件を満たしていないので不完全な「拾の太刀」となっている。また、ウラノは「速」の太刀シリーズを「柔」と言っていたがその時は無手であった事からウラノが本質を見誤ったと推測される
斯くして以前は不完全だった「拾の太刀」は、今回こそ完全なる姿を以ってオリゴチャエタへと襲い掛かったのである。
それは格子状に九つの斬撃を放つ技。更に今回は三つの斬撃も加わっているので、計12連撃と言っても過言ではない。
テーバメの「モガリブエ」が付けた大傷を更に抉る形で格子の斬撃を喰らったオリゴチャエタは、登場からものの数秒で絶命するに至る――




