ep293 選択肢(Novus aridifolia)
それは唐突だった。まぁ、この手の手合いは唐突こそが“正義”で、突然こそが“必然”で、突如として現れるのが“条理”であり、不利な戦況を覆そうとする究極の一手は“奇襲”である。
拠って、真っ先に狙われたのはマイアだった。だからこそ偶然ではなく“必然”だったと言えるだろう。
そう。「シン・蟲族」こと、ノーブス・アリディフォリアの登場である――
だがマイアはアステロペとは異なり近接戦闘特化型である。如何に奇襲とは言えど遅れを取る事はない。しかし一方で、妹を大破させた手柄首を「有機生命体如き」にくれてやる積もりもなかった。
拠ってこの慢心が招くのは幸か不幸か……と、問われれば後者である事は確実だろう――
「コココ、コワスコワスコワスコワスコワスーーーッ!」
――キンキンキンッ、ギギんッ、グギンッ
デギンッ、ギレンッ
ドズッル、ガッルマ、ミネッバ、キシッッッリアーーーッ――
――ざしゅ
ザしゅッ
しゅばばばばッ――
――ふぁさッ、ふぁさッ、ふぁさぁ――
「はぁ……はぁ……コイツ、強い。流石にヒートトマホークでは無理。アルテ様からは止められていますが、今はわたくし様が指揮官代理!遠慮なく使わせてもらいます! ――家宝兵装展開ッ!大鎌おいでませッ!」
先ず、何やら怪しいオノマトペだったような気がするが、まぁ、気にしてはいけない。うん。そうしようそうしよう♪いや、むしろそうして下さいッ!
げふんげふん。次にそのオノマトペだけでは何が起きていたのか分からないだろうから、解説する。
襲来したノーブス・アリディフォリアとマイアは今、一騎打ちをしている。初手は両手の鎌vs長物斧であり、マイアは手数が多く変則的なノーブス・アリディフォリアの攻撃を捌き切れず、そのドレスが切り裂かれるに至る――
苦戦を強いられたマイアは、躊躇する事なく「家宝兵装」である自慢の大鎌を呼び出したワケだが、この大鎌はヒートトマホークよりも長物である。
だからこそマイアは、リーチの長さを有利に使うべく間合いを取った――
「ククク、クルシメ、アアア、アンガウケタイタミ、アアア、アジワエ」
――しゅうぅぅぅぅぅぅん
ごおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ――
「えッ?!な、なんで?ズルいッ!」
――ぼわぁぁぁぁぁぁぁ
「う……そ……わたくし様が、こんなところ……で……」
ぷしゅぅぅぅ――
【異常加熱確認、緊急冷却システム稼働――】
さて、「近接戦闘特化型に対して有効な攻撃手段は何か?」と問われれば真っ先に出てくる答えを、「シン・蟲族」が示した事になる。
このノーブス・アリディフォリアだが、バカではない。そして戦闘狂でもない
その本能に寄り添いそうな見た目とは裏腹に、信条があるとするならば、「我、最大効率ヲ求ム」である。それは偏に、「シン・蟲族」を造ったモノが、そう教え、そうならなければ殺される運命にあったからだ。
だから行動原理を問えば先ず、相手の戦意を喪失させ手足を落とす。次に時間的余裕があれば連れ帰る。その際に襲われる可能性がある場合は、止めを刺さずに捨て置く。……となる。
その教えを忠実に守り行動し、戦闘に於いて遊ばず「敵」を学習し、最大効率で倒しているに等しい。
※止めを刺さない理由としては、全ての生物は繁殖用モルモットである事。モルモットとして使えない場合、新たなモルモットを探す必要があり、止めを刺す行為は「最大効率」に反する。その事から、通常の生物は四肢を落とせばそのまま死に至る事を踏まえ、放置となる。その原理に拠ってアステロペは死なずに済んだと言える
斯くしてアビリティとして保有している「龍人ブレス」を吐き、マイアの虚を衝いた行動で出鼻をくじいたノーブス・アリディフォリアの次なる行動は、マイアの四肢切断となる――
無機生命体は有機生命体に比べれば熱に強い。それはタンパク質を身体の組成物に組み込んでないからであり、熱変性を起こす事がないのが熱に対する強さの所以だ。
……が、過度な熱を加えられた場合、オーバーヒートを起こし、急激な機能低下は熱暴走を引き起こす。遅れて稼働を始める冷却装置がオーバーワーク気味にフル稼働しても、暫くは熱障害が自由を奪う事になる。
拠ってノーブス・アリディフォリアの「龍人ブレス」によって過度な熱を与えられたマイアは今、その身体を自由に動かす事が出来ず、辛うじて稼働しているスラスターで空中に浮かんでいるだけに過ぎない。
一方でブレスによる損傷自体は小破程度であり、戦闘続行に差し障りはない。……が、如何せん熱暴走している事から、スラスターがこのまま熱障害の影響で稼働を止めれば自由落下は免れず、地面に叩き付けられれば小破では済まなくなる。
その為、無事に冷却が済めば何事も無く戦闘続行となるが、その前にスラスターが稼働停止し自由落下するか、ノーブス・アリディフォリアの攻撃に因って四肢切断に至るかの二択しか選択肢がないのは明白だったと言えるだろう――




