第04話 「婚約者(フィアンセ)だけど?」
「カズラさんの心ない一言で知人――というほど親しくもない二人が、
『出勤初日にセクハラ親父に当たったキャバ嬢』みたいな顔になってしまいました」
「カズは悪くないもん!!」
「というかそれはいったいどんな顔なのよ……」
もちろん、今まさに目の前の二人が実演してるような顔である。
「それで、そちらのお二人は夕霧さんのご友人なのでしょうか?」
「友達……ではないかな?
顔見知り以上、挨拶くらいはする存在。
『お菓子食べる』って差し出されても『あっ、大丈夫』って答えるクラスメイトみたいな?」
「えっ? 君……学校では僕のことをあれだけ便利使いしておいて、友人だとすら思ってなかっ……おえぇぇ……」
「我は貴様の永遠の好敵手っ!!!
と言いたいところだが、この不甲斐ない姿を見られてはそうも言えん……うっぷ……」
言い切る前に盛大にえずく久堂と、青白い顔でイマイチ台詞にキレのない仁王院。
二人とも、苦しいなら無理につっこもうとしなくていいからね?
「てことで。
なんとなく知った顔があったから声を掛けただけだしまたな?」
そう言って踵を返そうとした瞬間、
「いや君、本当にそのまま行っちゃうつもりなの!?
ほら、愛しの僕がこんなに苦しんでるんだよ!?
なにかこう、役に立つアドバイスとか無いのかな!?」
「どうして俺が友人でもない野郎を『愛しい』と思ってると勘違いしてしまったのか……」
必死な久堂の声が飛んできた。
「それにしてもアドバイスねぇ……。
『今のお前の姿を動画に撮っておけば、そういう性癖のお姉さんに刺さりそうだぞ!』とか?」
「何さ、その役に立たないどころか知りたくもない情報は……」
だって、自分で経験したことのない体調不良(魔力酔い)をどうすれば良いのかなんて聞かれても答えようがないじゃん?
むしろ、探索者に向いてないことに早めに気づけて良かったんじゃないか? と思うけど……さすがにそれは大きなお世話だろう。
もちろんこれが、出会った頃のシズカさんみたいな?
切羽詰まった状況なら対応も変わってくるんだけどさ。
「だったら二人とも、これを機に地下メンズアイドルとか、ホストとか、ボーイズバーを目指してみたらどうだ?」
「具体性がある分さっきよりはマシだけど、僕が求めてるのはそういった答えじゃないんだよ!」
「そうか? 隣で転がってる仁王院は小声で、
『そういう場所で一番を目指すのも有りか……』って言ってるけど?」
「仁王院くんは見た目はアレだけど、物凄く打たれ弱いからねぇ」
本人がいる前で『アレ』とか言うのやめてやれよ……。
「迷宮科に入学してる奴に、いまさらこんな事を聞くのもおかしいと思うけど。
久堂も仁王院も、どうしても探索者にならなきゃいけない理由でもあるのか?」
そう尋ねた言葉に、二人とも少しだけ顔を険しくする。
「当たり前だ!!
我が探索者最強を目指すのは――ふっ、ここでは言えんな。
そういう柏木! お前はどうなのだ?」
「俺? 俺はほら、一文無しでボロアパートに放り込まれて他にどうしようもない状況に追い詰められたから?」
「いったい君に何があってそんな切羽詰まった状態に……」
「事細かく教えるとたぶんドン引きすると思うけど聞きたいか?」
「……止めとく」
まぁ生活が落ち着いてからは、異世界でできなかった『俺つえぇ!』をやって世間からチヤホヤされたいってのもあったけど……今は普通に『気の合うメンバーでダンジョンに潜るのが楽しいから』だけどな?
「っと、俺のことはどうでもいいとして久堂は?」
「もちろん僕にだってそれなりの理由はあるよ?
……でも、僕もひと前では言いにくいかな?」
まぁこいつには『殺死愛夢』のクラス代表を押し付けたり、仁王院の世話を押し付けたりしてるからなぁ。
「えっと、ちょっとだけこいつらの話しを聞いてやってもいいですかね?」
「えっ? その子達って男の子だよ?」
マスクで口元は隠れているが、キョトンとした顔でこちらを見つめるカズラさん。
「あれ? もしかして俺って女の子以外は無視するタイプの人間だと思われてます?」
「違うの?」
……間違ってはいないけどさ!
* * *
場所は変わっていつもの相談室。
「ここって管理局の施設だよね?
許可も取らないで勝手に入って大丈夫なの?」
「うん? 職員さんだけじゃなく支部長さんの許可も出てるから何の問題もないぞ?」
「ただの迷宮科の学生……いや、君はその歳で10層制覇しちゃってるんだからただの学生ってわけでもないだろうけど!
それにしても、管理局の支部長さんの許可って……一体どういった繋がりがあるのさ?」
「婚約者だけど?」
「はい!? 婚約者!?」
素っ頓狂な声を出したかと思えば目を丸くして固まる久堂。
並んで椅子に座る二人の学生の向かい側、全員が鎧兜姿という、ある意味圧迫面接にしか見えない位置取りで席につく。
「今は僕のことより君と支部長さんの関係が気になってしょうがないんだけど……」
「……お前、もしかしてNTR性癖でもあるのか?
チッ、これだから面の良い野郎は……死ねば良いのに」
「そんなんじゃないけどね!?」
ということで久堂を睨みつけながら始まったプレゼン大会。
「では一番、仁王院さん。志望動機をご説明いただけますか?」
「おう!! ……おう?
そうだな、我が探索者を目指そうと思った理由!
それは……そうだな、柏木!! お前はカカカズという女神を知っているか?」
「ごふっ……」
「ぶふっ……」
「くっ……くくっ……」
「……そこ三人はどうして笑ってるのかな? かな?」
いやだって、言うに事欠いてカズラさんのことを女神って。
「そこまでで結構です。
いつもより強いお薬と変えておきますね?」
「いや、どういうことだそれは!?
柏木!! いいか? お前は知らないかもしれないがな!
この界隈にはカカカズ――鷹司葛様という美の女神がいらっしゃってな――」
そこから仁王院の『いかにカカカズが素晴らしいか』という演説が始まるのだが……時間の無駄「無駄じゃないよね!?」なのですべて割愛。
「……つまりお前はひと目でもカズラさんのことを見たくて探索者を目指していると?」
「柏木!! それは違うぞ!? 我は……そう、我は女神の隣で!!
これまで誰も達成できなかったダンジョンの最下層を攻略したのだ!!
……そ、そして、将来的には……その……じ、人生のパートナーとしてだな……」
仁王院、思った以上に熱い理由だった。
……でも。
「えっと、カズラさん。そういうことらしいんですけど……」
「平等院くんだっけ? ごめんね?
カズ、顔の濃い男の子はちょっと無理かも?」
「いや、我はどうして身も知らぬ女性にいきなり振られて……うん? カズ? カズラさん?」
ギ・ギ・ギ・ギと音の鳴りそうな、やたらと首に力を入れてこちらを向く仁王院。
「えっと……こちら、お前がさっき熱弁してた女神さん」
ゆっくりと、もったいぶりながら兜を脱ぎ、マスクを外すカズラさん。
「どうも! お兄ちゃんの婚約者、鷹司葛です♪」
「えっ? ちょっ、はあぁぁぁぁぁっ!?」
仁王院の視線がカズラさんの顔、そして俺の顔と高速で往復する。
「カッ……カカッ……カカカカカカカカカ……」
そのままゆっくりと席を立ち――
「うっ、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!」
どこかへ駆け出していった。
「……君は悪魔か何かなのかな?」
えっ? 今のって俺が悪いの!?




