第04話 スポブラの似合いそうな短髪ボーイッシュ。
部屋に残された俺達にとてつもなくいたたまれない空気を残し、まるで子泣きじじいのようにギャン泣きしながら廊下の向こうへと走り去っていった仁王院。
「夕霧くん。私たちは彼が傷心で気が動転しているのを知ってるけれど。
あんな思い詰めた顔で大声を出しながら、ダンジョンモール内を走り回って大丈夫かしら?」
「あー、確かに。顔が濃いからテロリスト――とまでは言わないけど、不審者だと思われちゃうかも?」
「……出来るだけ穏便に取り押さえるよう、警備の者に連絡を入れておきますね?」
「そこは取り押さえるんじゃなくて優しく補導してあげて?」
まぁ俺や明石さん、久堂からすればちょっと面白い同級生だけど、一般の人から見ればただのヤベェ奴だから仕方ないね?
「ということで続きまして、二番の久堂さん。どうぞ」
「えっ? まさかの何も無かったていで話を進めるんだ!?」
いや、だってさ。
「仮に? もしもここで、俺があいつを追いかけたとするじゃん?
それで『ちょ、待てよ!!』とか言いながら捕まえたとするじゃん?
切ないラブソングをBGMで流しながら」
「どうして同級生を追いかけるのにそんなドラマみたいな演出が必要なのさ……」
「仁王院の腕を掴む俺、振り返るあいつ。
シズカさん、このあとどうなると思う?」
「そうね。私なら、
『馬鹿っ! どうして……どうしてそんなに必死に走って追いかけてくるのよ!!』
ってあなたを睨みつけたあと、そのまま腕の中に飛び込むわね」
「正解! シズカさんに10ポイント追加。
ちなみにこれを仁王院ライズすると」
『ば、馬鹿者がっ!
どうして……どうしてそこまで必死になって我を追いかけてくるのだ!
や、やめろ……やめてくれ……これ以上、我の心を乱すな……っ!』
「……となるわけだ」
「君の仁王院くんに対する解像度の高さにビックリなんだけど……いやでも、さすがに彼でもそんなことは言わない」
『異議あり!!』と、久堂の前に手を突き出す俺。
「いいか? あいつは奇行で定評のある仁王院だぞ?」
「なんなのさその相手を分かってるふりをしたただの罵倒は。
でも、そう言われると……君の腕の中に飛び込んで泣きじゃくる彼の姿が思い浮かぶよ」
そうなんだよ。
普通の男なら、男に胸筋に顔を押し付けて泣いたりはしない。
「でも、あいつは良くも悪くも男女の区別をしないタイプの人間だからな。
そんな奴の心が弱ってる時、もしも手を差し出したりすれば……ショウコさん、この続きはどうなると思います?」
「そうですね。
あなたの腕の中、おもいきり泣いて、泣いて、泣いて、泣き止んだら……きっとその行為が恥ずかしくなり、
『……ごめんなさい。カッコ悪いところを見せてしまいましたね……でも、私がこんな恥ずかしい自分をさらけ出せるのは……あなただけなんですよ?』
という感じで照れるんじゃないでしょうか」
「正解! ショウコさんにも10ポイントです。
ちなみに今のも仁王院ライズすると」
『……許せ。
我がかくも無様に取り乱すなど、本来あってはならぬことだ。
だが貴様の……好敵手である、貴様の前だからこそ我は……この醜い弱さを隠さずにいられるのだ。
だから勘違いするなよ?
……我がこのような姿を見せるのは、貴様『だけ』なのだからな?』
「となります」
「なんだろう、ドラマみたいなことを言ってるように聞こえるけど……。
その相手が『大好きな女の子を寝取った男』だと考えると、まったく意味がわからないんだけど」
俺もそう思う。
「てことで。
どうしても奴のことが気になるなら二番さんが追いかければいいと思うよ?」
「とりあえず『二番さん』って呼ぶのやめてもらえるかな?
あと彼を泣かせたのは僕じゃなくて君と鷹司さんだからね?
……ていうか、今さらだけどさ!
どうしてこんな初心者用ダンジョンに、鷹司さんみたいな金級探索者がいるのさ!?
まさか本当に……彼女は君の婚約者だったりするの?」
「あー、その辺を詳しく語ると命に関わるかもしれないから気にすんな」
「何それ怖い。
まぁ僕には関係ないからいいけどさ。
……ほんと、君って妙な男の子だよね?」
そう言いながら、久堂は呆れたように小首を傾げながら息を吐く。
「なんていうか、久堂って何気ない仕草とか話し方にいちいち色気があるよな?
下手したらカズラさんよりエロく見える時があるから止めて?」
「お兄ちゃん?
それはいったいどういうことなのかな? かな?」
いや、別に変な意味じゃなくてさ。
カズラさんってお姫様じゃなくて王子様みたいじゃん?
もっとも、それを言うなら久堂だって王子様なんだけどさ。
「……ねぇ。どうしてお兄ちゃんは、そんな優しい目をしながらカズの頭を撫でてるのかな?」
じっと見上げてくるカズラさんに、俺は無言のままで『ぽんぽん』を追加する。
「がんばれ、カズラさん」
「それは何に対する応援なのかな!?」
……いや、今は仁王院が乙女ゲーの攻略対象みたいな奴だとか、カズラさんが女の子じゃなくてガキ大将みたいだとかどうでもいいんだよ。
「それで、久堂はどうして魔力酔いに挫けることもなく二ヶ月も頑張ってるんだ?」
「そう……だね。話せば長くなる」
「あっ、じゃあいいや」
「君の方から質問したんだからちゃんと最後まで聞いて欲しいんだけどね!?
もう! ほんっとにもう! なんなのさ君は!!
仁王院くんじゃないけど、僕の心をこれ以上振り回さないで欲しいんだけど!?」
「その仁王院はあくまでも俺達の想像の中の仁王院だからな?」
ということで、久堂の長い長い話が始まる――のかと思ったら、いきなり端末に表示された画像を差し出してきた。
「……ふむ。スポブラの似合いそうな短髪ボーイッシュ。
歳は……11、12ってところかな?
小悪魔系というかメスガキ系。
生意気そうな、それでいてこっちのツボを抑えたその瞳……俺は嫌いじゃないぞ。
顔つきとか雰囲気が似てるし、もしかしてお前の妹さんの写真か?」
「……そこまでのプロファイリングは求めてなかったんだけどね?」
なんだろう、室内の全員から向けられる視線が『クソゴミペド野郎』に向けられるそれになってる気がするんだけど?
「それで、誰かに見られたら通報されそうな、その写真がどうかしたのか?」
「えっとね、実はこれ……僕なんだ」




