第02話 「……二度と柏木くんに話しかけてこないで貰えるかしら。 勘違い女の前カノさん?」
担任にどうしてもと頼み込まれ――まぁある意味、使い道がありそうなイベントでもあったし? 『翌週の月曜日なら』と表彰会の出席を受けることにした俺と明石さん。
……うん、まぁ学校に来たのは良いんだけどさ。
タイミングが良いと言うか、悪いと言うか……朝っぱらから学校の校門前で、
「ユウっ! 久しぶりっ!」
「うわぁ……」
いきなり目の前に『ピョン』と飛び出してきた山口と遭遇。
……ていうかこいつ、絶対に門柱の後ろに隠れてタイミングを見計らったうえで出て来たよな?
「もう! どうして学校に来れないなら来れないでちゃんと連絡してくれないの?
あなたが隣に居なくて……私がどれだけ寂しかったか……」
「今日もお前の隣にはこの世のすべての不幸を背負ったような顔をした宇良が居るだろうが」
「あっ! あれかな?
もしかして、離れてる時間が愛を育むとかそういう風に思ってた?
ふふっ、残念だけど私はあなたが入院してるあいだ!
ずっと、ずーっと待ち続けてたんだからねっ?
すでに恋しさも愛しさもカンスト状態なんだからっ☆」
いやお前、俺が入院してた時『松山のオバサン』の勘違いで、俺が死んだと思いこんですぐに他の男に乗り換えてたよな?
「宇良、ヤク中のこけしを放し飼いにするのはどうかと思うぞ?」
「おっ、おう、なんかいろいろとすまん……」
色々とヤバい方向に吹っ切れてそうな山口から目を逸らし、やつれて今にも倒れそうな元友人に苦情を入れる。
「誰がヤク中よっ!!
もう、ユウは昔からそうやってすぐ私に意地悪をするんだから……。
でも、そんなところも可愛いぞっ☆」
今日の……今日も、お前はいつもの数倍気持ち悪いけどな!
「あっ、そういえば今日! たまたま! 通学中に聞いたことなんだけど!
ユウってセンニチダンジョンの10層を制覇したんですって?
もうもうもうっ! 一人でそんな危ないことをするなんて!
一声掛けてくれれば彼女である私が一緒について行ってあげたのにっ!!」
通学中に聞いた人間がどうして校門で待ち伏せしてるんだよ……。
なんかもう、いろいろとツッコミどころ満載だけど関わるのも面倒なのでそのまま無視して通り過ぎようとする俺の腕を、
「ちょっと待っ――痛っ! あんた、いきなり何するのよ!?」
掴もうとした山口の手を明石さんが掴む。
「長々とした独り言までは許してあげるけど、赤の他人が彼の体に触れるのは許可できないわね」
「……なにこの鉄仮面! 彼氏の体に触ることの何が悪いって言うの!?
そもそもあんたの方こそ馴れ馴れしくユウの隣に立つんじゃないわよ!
彼は幼馴染みで中学時代からステディな関係のっ!
彼女である私と仲睦まじく話してるんだからね!?」
「あなた、『話してる』という言葉の意味を一度辞書で調べてきなさい。
私たちはこれから職員室に寄ったりいろいろと用があるのよ。
わかったらあなたも自分の巣にお帰りなさい」
「何よあんたムカつくわね!
ユウ! あなたがみんなに優しくてカッコよくてお金を持ってそうな男の子だってことは昔から知ってるけど!」
「セイコちゃん、そこでお金の話をしちゃうからユウギリにも引かれるんじゃないかな?」
「大丈夫よ! マサシと違ってユウは私の全部を受け止めてくれる度量があるんだからっ!!」
いや、受け止めねぇよ?
「ていうか、ユウは誰にでもかれにでも優しくしちゃうからそういう勘違い女が出てくるんだからね?
だ・か・ら!
これからはもっと注意して、ちゃんと彼女である私にだけ愛情を注がないとダメだぞっ☆」
「柏木くん、口から精○を注ぎそうな顔をして何を言っているのかしらこの女は?」
「明石さん、今はお外だからドギツ目の下ネタは控えようね?」
ほら、怒りで山口の顔が赤黒くなってきて、もう発射寸前の『ソレ』にしか見えないから!
「というか本当になんなのよあんた?
さっきから黙って聞いてあげてれば調子に乗って!!」
「何と言われても困るのだけれど……そうね、私は彼の婚約者。
あなたのその茹で上がったナマコのような顔でも婚約者の意味は理解できるわよね?」
「はぁっ!? ユウっ! これは一体どういう事なの!?
私という彼女が居ながら、勝手に婚約者を作るとか……いや、違うわね。
そんなのこの女の勝手な思い込みだよね?
……あんた、明石っていう女よね? いろいろと噂は聞いてるわよ?」
「あら、そうなの? それは興味深いわね。
良ければ詳しく教えてもらえるかしら?」
「ふっ、ふざけるんじゃないわよっ!
どうせあんたなんて同情だけでユウの隣に居るだけのくせにっ!
あははっ! たしか小学校の時だっけ? 治らない皮膚病に掛かって顔も出せないような化け物に」
「セイコちゃん!! さすがに言って良いことと悪いことが」
「何よ! 人の財布に手を突っ込むような真似をしたのはその泥棒猫でしょうが!
あいつの方から喧嘩を売ってきたのよ!
それなのにマサシはあの女の味方をするっていうの!?」
いや、喧嘩をしてるっていうか、一人でから廻ってるのはお前の方だけどな?
ていうか、運良く明石さんの治療が終わってるから罵詈雑言を黙って聞いてやってるけど、もしも彼女が治る前の状態だったら三回くらいぶち殺してるぞ?
「あなたは宇良くんだったかしら? 気を使って貰わなくとも大丈夫よ?
確かにその女の言う通り、私は二目と見れない顔になっていたのは事実だもの。
そうよね、こんな醜い女、彼の隣に立つのに相応しくないわよね?」
「な、何よ、わかってるじゃない!
ならあんたも身の程をわきまえて二度とユウに近づくなっ!!」
「ええ、そうね。あなたの性格、ルックス。
全てにおいて身の程を知って――」
ゆっくりと仮面を脱ぐ明石さんに、その場にいた、登校中の学生全員の注目が集まる。
「……二度と柏木くんに話しかけてこないで貰えるかしら。
勘違い女の前カノさん?」




