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第02話 「たわわー、たわわー、たわわー……」

 登校時間の学校の正門という、スクランブル交差点レベルで人通りの多い場所で被っていた鉄仮面を脱ぎ捨てた明石さん。

 傾国とまで呼ばれたその美貌。

 山口に向けられた凍りつきそうなほどに鋭い、それでいて感情の無い視線。


 当然のように、それを目にした生徒たちが大きくざわめき。

 あちらでは女子生徒が、時が止まったようにポカンと口を開けたまま放心して。

 こちらでは『そういう』性癖を持った男子生徒の集団が真っ赤な顔で震えだす。


「ふふっ、懐かしい登校風景ね」


「懐かしいんだ!?」


 今の、女子高生の明石さんならともかく、小学生にあんな反応する連中がいたらさすがにドン引きなんだけど……。


「それにしても……あなたはよく今まで、あんなおかしな仮面を被った女と手を繋いで歩いていたわね」


「確かにちょっと尖ったデザインの兜だったもんね?」


 「そういう意味じゃないわよ……」と、ちょっとだけ呆れ顔の明石さん。

 いや、異世界ではもっとヤベェ仮面とか被った人間が大量にいたし。

 兜を被ってるくらい、そこまで気にするようなことでもなかったからね?


 そのまま彼女と腕を組み、一緒に教室に向かうも……お公家さん、イケメン、もちろんデビルマンも明石さんの変わりように呆然とした目を――って、仁王院がまた明石さんに絡みに、


「柏木っ!! 何故だ!?

 どうしてお前は我という漢が居るのに学校に来ない!?」


 ……来たと思ったら、抱きつかんばかりに俺に迫って来たんだけど?

 なんだろう。本来ならそこまでおかしなことは言ってないはずなのに、こいつの熱量が高すぎてなんとも言えない表情になる。


「いや、最初からほとんど通わないって言ってあったよな?

 ていうかお前らの方こそ、まったく『ダンジョン(あっち)』で見かけないけどいったい何をしてるんだ?」


 まぁ見かけない原因は俺の勤務時間が早ければ朝は6時、遅ければ夜は21時とかいうブラックなカラオケ屋社員の朝シフトみたいなことになってるからなんだけどさ。


「何をしてるんだと聞きたいのはこちらなのだが!?

 いや、今はそんなことよりもだ!

 柏木っ!! お前の最速の10層制覇の話を聞いた時の俺の……この俺の気持ちが分かるか!?」


「知らねぇよ……」


「そうだ!! 好敵手(ライバル)が打ち立てたあらたなる金字塔!!

 一歩出遅れている己の不甲斐なさに思わず我が顔を殴りつけ、しかし、押し寄せる興奮に思わずイチモツが」


 いや、『知らない』に『そうだ』は会話として成り立ってないからな?

 ていうか大勢の女子高生がいる教室内で○ン○ンの話を始めるとか、こいつは一体何を考えてるのかな?


 まぁそんな、初対面の入学式の時からキャラのぶれていない仁王院はどうでもいいとして。

 何かを求めるような、訴えかけるような、追い詰められたような目で俺のことを見つめ続ける久堂(イケメン)。


「仁王院はアレだから大丈夫だけど、お前のはマジっぽくて怖いんだけど?」


「マジっぽいって何がさ!?」


 もちろんベルサイユ宮殿の庭というか『裏門』に薔薇が咲いてそうって意味でだよ!



 さてそんな、担任に土下座する勢いで登校してくれと頼まれ、久々に学校に登校した俺と明石さんなんだけど、『臨時全校集会』が開かれるのは通常なら三限目の授業が始まる10時30分から。


「明石さん。俺、教科書とかノートとか持ってきてないんだけど?

 ていうか、そもそも教科書を受け取った記憶すらないんだけど?」


「柏木くん。通学カバンを持つどころか、あなたの腕にぶら下がって登校してきた私にそのようなことを言われても困るのだけれど?

 あと、教科書なんて過去の遺物はすでに使っていないわよ?

 ほら、みんなタブレットを机の上に出してるだけでしょう?」


 ……言われてみれば確かに。


「久堂、目の前にあるそれを寄越せ」


「君たちは学生としての自覚すら無いのかな?

 というか君は追い剥ぎなのかな?」


 なんだかんだ言いながらもソレを貸してくれた久堂。

 ……この時はまさかあんな裏切り方をされるなんて思ってもいなかったんだ。


 1限目の授業は『迷宮史』。


 奴が隣の席の女子……『驚異(スイカ)の胸囲(おっぱい)』なハイカラさんと机をくっつける。

 まぁ俺たちにタブレットを貸してくれたわけだし、あいつが誰かにソレを見せてもらうのは普通の事――ではあるんだけどさ。


「お前……っ! ふざけんなよっ!

 良いやつだと思ったのにっ!

 親切なふりをして……それがお前のやり方かっ!?」


「どうして君はいきなり僕のことを罵倒しはじめたのさ!?」


 だって! 今にもあいつの肘に!

 ハイカラさんの『さとうきび畑』ならぬ『スイカ畑』が当たりそうなんだぞ!?


「たわわー、たわわー、たわわー……」


「どうしてあなたは泣きながら不愉快な歌を口ずさみだしたのかしら?」


 ……三人揃って神経質そうな眼鏡の女性教諭に「静にしてください」と怒られた。


 2限目『数学』。


「って、迷宮科って普通の授業もあるんだ?」


「高校生なんだからあたりまえじゃない」


 いや、ほとんど登校しなくても卒業出来る時点で当たり前では無いと思うんだけど。


「ていうか久堂、マンガ読んでたらたまたま有料動画サイトに繋がっちゃったんだけど。とりあえずクレカ貸して?」


「貸さないけどね?

 ていうか君は僕のタブレットで何をしてくれてるのさ!?」


 ……三人揃って小太りジャージの男性教諭に「せめて授業の邪魔はしないでください」と怒られた。



「……いや、どうして毎回関係ない僕まで巻き込まれてるのさ!」


「だって責任の八割はお前に有ったじゃん」


「0:10で巻き込まれただけだよね!?」

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