第18話 「私の今日のビックリポイントカードはすでに満タンなんです!」
ダンジョン内でメルちゃんから牧師の詳しい説明をうけていたこともあり、時刻はすでに14時30分。
さすがに腹もへったので、早足で二人のところに――
「って、そういえば待ち合わせの約束とかしてなかったよな」
いきなり知らない同士でほったらかしにしてしまった彼女たちに多少の罪悪感を感じながらもその姿を探す俺。
「インフォメーション……中務さんは戻ってないみたいだな」
もしかして相談室でいるかもと、二階へ移動。
ドアをノックしながら声をかけると、中から『どうぞ』という返事が返ってきた。
部屋の扉を開き中を覗き込むと、
「おかえりなさい、柏木さん」
「あら、遅かったのね」
知り合い二人が、『威嚇するアライグマ』の姿勢で手押し相撲をしてるんだけど……。
「いや、それはいったいどういう状況なんだよ……」
「柏木さん。
女には負けられない戦いというものがあるのです」
「柏木くん。
この戦争が終わったら一緒にお昼ご飯を食べましょう」
マジで腹が減ってるから、茶番は後にして先にご飯にして欲しいんだけどな?
明石さんのこともあるので、お昼ご飯は外食ではなくテイクアウト。
おっ、KKYがあるじゃん!
棒ヒレカツ弁当と、大エビフライ単品二本追加で!
* * *
「それで明石さんの試験結果はどうだった?
ちゃんと探索者証は発行してもらえたのかな?」
「柏木くん、あれは試験というより 『常日頃から常識的な行動を心がけましょう』という講習のようなモノよ。
まともな人間なら不合格になりようが無いと思うのだけれど?」
そうなの?
俺、中務さんに自分の力では通らないと思われて、替え玉受験されたんだけど?
思わず恨めしげな目を彼女に向けるも、とても良い笑顔を返されただけだった。
……たしかに、俺には常識に欠けるところが少しだけ! リルビットあるかもしれないけれどもっ!
「中務さん、今の俺はご立腹です。
プンプンスコティッシュフォールドです」
「なんですかその可愛い生き物は!?
是非ともうちで飼いたいのですが!?」
「残念ながら野生のプンプンスコティッシュフォールドは危険動物なので飼うことは出来ません。
……と、そんなことはどうでもいいとして」
「よくありませんが?
帰りに車のトランクに詰め込んで連れて帰りますが?」
「拉致監禁宣言は犯罪です。
明石さんも許可証が取れたってことで、さっそくこれからダンジョンに入ってもらおうと思ってるんだけど大丈夫かな?」
「ええ。あなたも知っての通り、私は一人暮らしだから。
これといって時間は気にしなくていいわよ?」
そういうと立ち上がる明石さんと、
「はいはいはい! 私も大丈夫です!」
元気に右手を上げて返事をする幼稚園児のような中務さん。
「いや、中務さんには聞いてない……といいますかお仕事がありますよね?
すでにかなりの時間持ち場を離れてると」
「私もっ! 大丈夫ですっ!!」
「瞬きもせず無表情でグイッと上半身だけでにじり寄ってくるのは止めてください」
いつも無理をさせてる俺が言えたことじゃないけど……それでいいのか迷宮管理局職員。
「明石さんも『どうして自分がダンジョンになんて入らないといけないのかしら?』って疑問を感じてると思うけど」
「別に何も疑問なんて無いわよ?
あなたにも話したことだけれど、この春から迷宮科に通う予定だったのだし。
むしろ先に経験者しているあなたに先導までしてもらえるのだから、幸運だと感じているくらいね」
この世界の女子中学生適応力たけぇな!
異世界の新人冒険者だってもう少し悲壮感持ってたと思うんだけど?
もっとも、明石さんの事情も俺と似たようなもんだし、他に選択肢が無いってのもあるんだろうけどさ。
……まぁそんな家庭環境はさておき。
「一応最初は、使ったポーション代、魔石を自分で稼げるようになってもらうのが目的だったんだけどさ。
それに追加で、闇魔法――呪いに耐性、抵抗力を保つ方法が見つかってさ」
「柏木さん。『魔石でポーションが買える』とかいう極秘情報をサラッと流さないでください。あと、闇魔法とかいう聞き慣れない単語が出てきたのですがそれは」
「魔法は俺も今日使えるようになっただけなので無実です。セーフです。
ということで! 今回ご用意させて頂いたこちらのクラス・スクロール!」
「でもお高いんでしょう?」
(どうしてこの小娘はことの重大さを無視して話に乗っているのですか)
(深く考えても理解できないからよ)
「ちなみにお値段は……聞いたらドン引きすると思いますので秘密です。
そこのかさぶたみたいな封蝋を外して、二人とも開いてもらえる?」
それぞれに一本ずつ牧師のスクロールを手渡す。
てかこのスクロール、俺にしか使えない疑惑もちょっとだけあったんだけど、二人とも『クラス:無し』の表示があったし?
さすがに大丈夫……だと思いたい。
明石さんはあいかわらすの即開封。
中務さんはおっかなびっくり封を剥がして巻物を広げる。
俺のときと同じように、それぞれの持つスクロールからあたたかな光が漏れ――しばらくしてそれも消える。
「か、柏木さん!? いきなり巻物が光ったと思ったら手元から消えてしまったのですが!?」
「……これといって何の変化も起こらなかったと思うのだけれど?」
「あなたは……いきなり紙が光っただけで十分な超常現象だと理解しなさい!」
「まぁ今のところは 『牧師になれますよ』っていう待機状態だからね?
じゃあさっそくだけど二人のステータスを開いて、職業欄ちょっと触らせてもらうね?」
「そんな、こんなところで花弁を開いて雌しべをいじるなんて」
「言ってない言ってない」
ていうかこの子、昨日からそこそこドギツイ下ネタを挟んでくるんだけど……。
「あっと、その前に明石さん。
今から破魔の魔法を掛けるけど大丈夫?」
「あなたは……本当にあなたは……。
私の今日のビックリポイントカードはすでに満タンなんです!」
「それはもちろん構わないけれど魔法……。
いえ、あなたが魔法を使えるくらい今さらのことよね」
――てことで【破魔】の結果。
残念ながら【蠱毒】そのものを消す、呪い返しするほどの効果は無かった。
言うて最初に覚えられる光魔法だから仕方ないっちゃ仕方ないな。
もっとも、その効果は【聖水】よりは強力だったようで。
引き続き【下級状態異常回復薬】を使い続ける必要はあるが、その効果時間が『12時間 → 24時間』まで延びた。
まぁ明石さんに渡すポーションが足りなくなる事態を回避できたんだから今は最良の結果だと思っておこう。




