第07話 とある学生の体力測定。その1
俺の名前は――いや、今はそんなことはどうでもいい。
そう。
俺がさっき表彰された連中と同じ、大阪で迷宮科に通っていることも。
あいつらが男一人で女子数人のハーレムパーティであることも。
そのメンバーが全員、今まで見たこともない美女であることも。
にもかかわらず、俺のパーティメンバーが全員男であることも。
おそらくこの場のモテない男全員が心のなかで——「死ねばいいのに」「呪われろ呪われろ呪われろ呪われろ」……中には声に出してる連中もいるようだが!
それも全て! 今はどうでもいいことなのだ!
(それにしてもあいつら……)
男の名前は柏木だったか?
表彰式での紹介では俺と同じ迷宮科の一年。
普通の学生ならば二層。
三層まで進んでいればとんでもない無茶をしていると言われるこの時期に、三十層の迷宮主を討伐。
(とても信じられることじゃないけど……さすがにあんな動画をみせられちゃな)
もっとも。回りにいた連中の話ではそれも全部新しく出回り始めた、とても学生では買えないような装備品のおかげだらしいが。
(……確かに、あいつの近くには鷹司葛様——カカカズ様がいるんだからさもあらんってところか)
俺と比べても、これといって見た目が優れているとも思えない男。
どうやって取り入ったのかはわからないが、運だけでその地位を手に入れた人間。
カカカズ様のおかげで強くなれただけの柏木にその場の男全員から突き刺すような視線——反対に女からは恋する乙女のような視線が集まる。
(チッ……まぁそれもダンジョン限定の強さだろうがな!)
そう、あいつが強いのはカカカズ様、おそらくその後ろに控えている鷹司家のゴリ押しがあったから。
そんな男が! 俺たちのように日々真面目に鍛えてる人間に地上で勝てるはずなどないのだ!
誰も彼もが表彰式の後に開催される『倒亡面人』で目にもの見せてやると口角を上げ、虎視眈々と狙っていたのだが——
「いや、なんでだよ!?」
「あいつ、恥も外聞もなく逃げやがったぞ!?」
柏木が向かったのは『真・対力速帝』。
本人たちの会話を聞けば『さすがに死人を出せば問題になるから』などと強がってはいたが……もちろんそんな話を信用する人間なんて誰一人おらず。
「……まぁそれならそれで。
そっちで恥をかかせてやればいいだけだしな!」
「むしろ、全部の項目で凹ませてやろうぜ!!」
普段なら絶対にトーナメントに行くような、ガラの悪い連中まで引き連れ、柏木たちが向かったのは探索者能力測定場。
……まぁ見た目はただのデカい体育館なのだが。
その中を見た連中の誰も彼もが、
「おお……さすが管理局の施設!」
「写真でしか見たことのない道具がやまほどあるじゃん!」
歴史も言われもある器具の数々に、思わず感嘆の声を漏らす。
この時点で最初の目的であった、奴らに恥をかかせることなどどうでも良くなっていた俺たち。
興奮が抑えられる、思い思いの測定器めがけて散らばってゆく。
……男子高校生だからそれもしかたないよな?
そんな中、俺が最初に足を向けたのは体育館の中央。
ドンと鎮座する巨大な四角錐の形をした『不動如山』という名の、三十秒でどれだけ動かせるかを測る装置だ。
早くも十人以上が並ぶそこ——『バチーーーーーン!!!』……なんだ今の?
バネか何かが弾け飛んだみたい『バチーーーーーン!!!』……いや、マジで何なんだよ!!
思わずそちらに顔を向受けるも、『ザワッ……』とした空気が伝わって来るだけで何があったかまではわからず。
たぶん握力計とか、通常の測定器具が置いてあったと思うんだけど……まぁそんな普通の道具のことはどうでもいいよな!
俺たちの並ぶ列を担当していた職員さんの「記録の記入をいたしますので、学校名とお名前を名乗ってから前に進んでくださいねー」というのんびりとした声に促され。
先に並んでいた学生が次々と『不動如山』での力試しに挑戦するが——
「ふんぬっ……!!」
「うおおおおっ!!」
威勢が良いのは気合の声だけ。
動かない。
ただの一ミリも動かない。
「いやこれ、地面と一体化してるだろ!?」
そんな誰かの叫び超えに乾いた笑いが起きる中、
「ふっ、お前たちみたいな軟弱なやつらが動かせるモノかよ」
いよいよ真打ち登場。
今日集められている、迷宮科の学生でも名を知られた重量級。
2m近い巨漢である八甲田剛が握りこぶしをパンパンと手に叩きつけながら前に出ていく。
「ふんがぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
……三十秒どころか五分くらい押し続けてもビクともしなかったわけだが。
「……マジかよ」
「八甲田で無理ならどうにもならんやろ……」
その場に広がる諦めの空気。
「えっと、ちょっと試しに複数人で押してみてもいいですかね?」
「ご自由にどうぞー」
担当職員さんの許可を得て二人、そして三人と交代交代で押してみるも、
「まったく動かせる気がしねぇ……」
その結果はこれまでと何一つ変わらず。
「いやもうこれ、実は地面から先っぽだけ突き出してる岩だろ」
まだ一つ目の測定道具なのにとてつもない疲労感で座り込む俺たちの後ろから聞こえてきたのは。
「そこまで重そうにも見えませんけど、アレって動かすだけでそんなに大変なんです?」
のほほんとした雰囲気の声。
ていうか柏木……失敗続きの俺たちのことを煽ってるのか?
その場の数人が額に血管をピキリを浮かばせるが、
「そうだね。カズも昔やったけど、その時は全然動かなかったからなぁ」
カカカズ様のその言葉で安堵のため息。
そうだよな、葛様に無理だったことが俺たちに出来るはずが——
「なるほど。だったらここは我がパーティのパワー担当の出番だな。
……アテナ! 行け!」
「そんなモノになった覚えはないけどね?」
ぶつぶつ呟きつつも前に出てきたのは『男装の麗人』とも言えそうな、それでいて奴の取り巻きの中でも一番に肉感的な美少女。
「ていうかこれ、もしも動かせなかったら凄い恥ずかしいじゃん!」
恨めしそうに柏木を見つめた後、両手を添えて軽く——
ズッ……ズズズッ……
「なんだよ、結構簡単に動いたじゃん」
「そうだね。重いは重いけど、これくらいなら普通に動かせるね」
結果は『4m32cm』。
……いやいや。
いやいやいやいや!!
えっ? 動くのか? あれって動くものなのか!?
「クッ、なんか悔しいから次はカズの番ね!」
「ゴリラさんはプロなんですから自重してください」
「『ラ』しか合ってないよ!?
ていうか、カズだってゴリラがなんかこう、力の強いお猿さんだってことくらいは知ってるんだからね!?」




