第07話 クラス担任『美波茜』。
なかばアヤカさんの顔を立てるためだけに参加した迷宮管理局の表彰式。
そこは他校の優秀な探索者との交流の場——と言えば聞こえはいいんだけどね?
その実態は……。
「どう見ても『全国ヤンキー選手権(昭和風味)』なんだよなぁ」
まぁ昭和風味もさもあらん。
そもそも迷宮科の入学式からして『殺死愛夢』とかいう、○塾名物みたいな儀式(?)をやってるくらいだし。
「ていうか殺死愛夢ってカズラさんが始めたんですよね?」
「お兄ちゃんは大きく勘違いをしてるみたいだけど、カズは名前を付けただけだからね?」
「つまりあちこちでガンを飛ばし合ってる連中も、俺に絡んできたポニーテール剣士も全部カズラさんのせいってことでオーケィ?」
「それはさすがに風評被害がすぎるんじゃないかな!?」
……しらんけど。
ていうか、そのポニーテールのお姉ちゃんなんだけどさ。
「改まりまして、夕霧さん!
わたくし、生まれも育ちも千葉は松戸でございます。
姓は維雲、名は霞と申します」
なにやら前かがみになって。
「幼少の頃より影流を学び、いつの間にか付いた二つ名が血塗れの暴走半島。
そちらにいらっしゃいます鷹司葛お姉様に憧れ、日々迷宮にて腕を磨いております」
「アッ、ハイ」
おかしな啖呵を切り出したんだけど……。
ていうかこの子。ついさっきまで、
『どうせあんたなんて、お姉様にキャリーされて三十層まで行った金魚のフンなんでしょ! フンッ!』
みたいなテンションで絡んできてたんだよ?
「それにしても、先程の映像!
飛竜の首を一刀のもとに斬り落とすあの勇姿!!」
「まぁ、それなりの武器があればあれくらいは」
それが、会場の壁に掛かってたデカいスクリーンでうちのパーティによるボス攻略。
十層ではアテナが巨大モグラを粉砕。
二十層ではシズカさんが四本腕の熊とタイマン。
そして三十層。二人が撃ち落としたワイバーンを、俺が一太刀で仕留める映像(すべてショウコさん編集)が流れた途端。
「いえいえイエイ! 何をご謙遜を!
少しでも剣の道に身を置いた者であればあの身のこなし――そして太刀筋が常軌を逸したモノであることが一目で分かります!!」
「何そのおかしなテンション」
その態度の切り替え、掌返しどころか牙を向いて狂ったように吠えていたドーベルマンが腹天で尻尾を振り回すが如く。
「チッ、これだから後ろの穴が弱そうな女は」
ゴミを見るような目でそう呟いたのはシズカさん。
「それ、明石さんが言うんだ……」
「そもそも夕霧さんの回りに集まる女性はみんな……」
「つまりお兄ちゃんは……」
「まるで俺が意識的に精鋭を集めたみたいな言い方止めて?」
……確かに全員そんな雰囲気は漂わせてるけれども!!
上映会の後は、迷宮管理局のお偉いさんが登壇。
いつの間に会場に来ていたのか、桜凛の校長の顔も見える。
『傾注!』の声で壇上に集まる会場内のしらけた視線。
『諸君。本日はこのような晴れの場において――』
鷹司家のパーティで見たような見なかったような面々&校長。
入れ代わり立ち代わりのありがたい話が続く。
『我が国における迷宮探索の歴史は古く――』
『人材育成こそが未来への礎であり――』
『諸君ら若き探索者の不断の研鑽こそが――』
「……分かってたことだけど、無駄に話が長いんだよなぁ。
あと演説の内容が全部ふわっとしてて、まったく頭に入ってこないんだけど」
それでなくとも集められてる人間が探索者の集団なのだ。
もう少しわかりやすくと言うか噛み砕いてと言うか。
「そもそも式典の挨拶なんて定型文を適当に弄って読み上げてるだけだし。
理解する必要なんて無いと思うよ?」
身も蓋もないことを言うカズラさん。
時に縦揺れ横揺れ。
あくびを噛み殺そうともしない連中を横目に絶え続けること小一時間。
『――以上をもちまして、私からの祝辞とさせていただきます』
どこぞのオバサンの挨拶で偉いさんの演説もようやく終わり——
『続きまして、桜凛学園校長よりご挨拶を――』
……まだ続くのかよ!!
『えー、ご紹介に預かりました大阪、桜凛学園校長の——』
『あー、本校といたしましても――』
『うー、日頃より、生徒諸君の自主性を重んじ――』
『おー、個々の資質を最大限に引き出す教育を――』
『んー、地域社会との連携を通じて――』
さらに続く二十分のむだ話の後。
ようやく始まる賞状と勲章の授与式。
「面倒だから代表はアテナでよくね?」
「隙あらば僕を犠牲にしようとするの良くないと思うよ?」
仕方なく壇上に登ることになった俺を大量のフラッシュが祝福——って眩しいわ!!
受け取りの際コメントを求められたので当たり障り無く、
「そうですね。
このような栄誉を得ることが出来たのもすべて(登校しなくても問題がないという)桜凛学園の校風。
そして、自分、明石さん、原西さんの所属する一年三組のクラス担任である美波茜先生のご教授の賜物で――」
日頃から迷惑を掛けて……掛けられている担任をべた褒めしておくことに。
これであの人の冬のボーナスも、ほんの少しは上がることだろう。
~少し時間は前後してその日の夕方~
疲れた顔でカップうどんにお湯を注ぐ一人の美女……というか私。
つけっぱなしのテレビ、ニュース番組では誰かの表彰式の様子——
「って、この声……もしかして校長?」
無駄に聞き覚えのあるオジサンの声に目を向ければ見覚えのある上司の顔。
「あー、そう言えば柏木くんたちの表彰式って今日だったのか」
本当なら私もあの会場に参加出来るはずだったのに、あのドケチハゲの教頭が
『いや、うちからは校長先生も参加されますし、管理局から六条支部長もいかれるのですから三好先生まで行かれる必要はないのでは?』
とか言い出しやがったせいで……。
「ていうか校長、この日のために背広を新調したって言ってたけど、全然似合ってない……あっ、話の途中でカットされた」
次に映されたのは今回表彰される三人の学生。
うちのクラスの生徒である原西さん、明石さん、そして柏木くん。
「原西さんにしても明石さんにしても無駄に顔が良いからテレビ映えするなぁ。
それにしても柏木くん。相変わらず物怖じしないというかなんというか」
緊張感など一切無く賞状を受け取る彼。
そのあとのコメントでは、
「あなた、学校になんて全然来てないわよね?
それが校風って何の冗談よ」
相変わらずの適当な返事に苦笑い。
「一年三組って何よ。
うちの学校のクラスはA・B・Cなんだけど?
……っていうか、美波茜って誰よ!!」
まさかの名前すら覚えられていない現実に、顔を引き攣らせる『三好梓』だった。




