第07話 表彰式と他校の面々。
(婚約者の)身内での顔見せ――内輪のパーティを無事に乗り越え。
一息ついたと思えば、今度はまったく面識のない人間が主催する表彰式――外向けのパーティが待ち受ける。
「非常に面倒くさいから代表にアテナだけ残して帰っちゃ駄目かな?」
「聞くまでもなく駄目にきまってるよね?」
「そもそも、一人だけ残るというならあなたが一人残されると思うのだけれど?」
「クッ……なら全員参加にするしかないか」
まぁ式典まではそれなりに時間的な余裕もあるし。
お上りさんらしく東京見物でもしておこうと、管理局のなんやかやで忙しいアヤカさん以外の全員でお出かけ。
あれ? ショウコさんも職員……いえ、なんでもないです。
「……ていうか、別に御朱印帳を集めてるわけでもないんだからさ!」
観光で回る場所が神社仏閣、景勝地ばっかりってなんだよ!!
「さすがに俺達みたいな、ナウでヤングな高校生としてはもう少し――あっ」
「お兄ちゃんはどうしてカズのことを見て言い淀んだのかな? かな?」
「夕霧さん、その攻撃は私にも効きます……」
いや、そこまでの他意は無いんだけどね?
ていうかこの世界、文明レベル自体はそれなりに発展してるんだけど。
こと娯楽や行楽に関しては、びっくりするくらい地味でさ。
もちろんカラオケとか映画館、ボウリングやプールバーなどなど。
お手軽に遊べる施設はそれなりにあるんだよ。
でも、『ユニバース・スタディオ』とか『ネズミーワールド』。
大規模な遊園地は無いし、水族館や動物園……世界的にほぼ鎖国状態だから、多様な動物や魚を集めることも出来ない。
「これはもう鷹司資本で新しい娯楽施設を計画するべきでは?
いや、その前に食の多様性を広げるべきか?
そういえば、駅前で大衆娯楽店をみた記憶もないな」
ぶつぶつと呟く俺の隣。
シズカさんが、
「夕霧くん。さすがにこんな明るい時間から、お○ん○んの話をするのはどうかと思うのだけれど?
そういうのは二人きりの時に……ね?」
「『ね?』って何だよ……。
そもそもそんないかがわしい話はしてないからね?」
まぁ寺社巡りをしながら、団子やまんじゅうをつまむのも悪くはなかったんだけどさ。
でもそれ、『関西』でも出来るんだよなぁ……。
* * *
——そんなこんなで、時間は流れて八月某日。
「なんだよ。パーティっていうからホテルかどこかでやるのかと思えば」
「僕的にはホテルより迷宮管理局の本部施設に入れるほうが嬉しいけどね?」
「施設と言っても、ただの大きな体育館にしか見えないのだけれど」
重厚なコンクリートの外壁と無機質な照明。
壁に掛けられた巨大な白い膜はプロジェクターで何かを上映するためか?
シズカさんの言う通り、体育館のような広いホールの中には人が溢れる。
「なんていうか、カズラさんが物凄く目だってるみたいなんですけど……。
どっか行ってもらえます?」
「何気に酷っ!?
確かに美しすぎる探索者代表のカズはどこに居ても目立つけど!
あっちの人相の悪い連中が見てるのはお兄ちゃんだからね?」
「あー……もしかして、前に言ってた大手ギルドの人達です?」
もちろん俺達だけが視線を集めているわけではなく。
あちらこちらの集団で談笑……というか牽制と値踏み?
視線をぶつけたり逸らしたり。
そんな連中を見てると、笑顔は威嚇行為だということが非常によく分かる。
「ていうかパーティを名乗っておいて食べ物どころかたいした飲み物無いとか何なの?」
入り口でペットボトルを一本渡されるだけのパーティとかボッタクリ通り越して詐欺だろ! 金は払ってないけど!
「夕霧さん。今回はあくまでも表彰式がメインですから」
困ったような顔をするショウコさんと、
「まぁこれだけの人数を集めるとなると外ではねぇ?」
いつも通り、のほほんとした雰囲気のカズラさん。
「確かに。葛の言う通り、今回は普段以上に人を集めているようですので。
さすがにこの人数となりますと、こういった施設でないと警備しきれませんので」
ちなみにここでいう警備とは、外からの脅威――たとえばテロリスト対策などではなく、中にいる探索者が暴れる可能性を警戒してのものだったりする。
「まぁ大まかな括りではただの暴力集団ですもんね。
でも、さすがにこんな場所で他人に絡むようなお猿さんはいない――」
『なんだとコラァ!! 四国の山猿がよォ!!
オメェ、誰に向かってその口利いてやがる!!』
『テメェこそ東北のボンクラボンボンがァ!!
ブサイクヅラ晒して上から見下ろしてんじゃねぇぞゴラァ!!』
……いたわー……。
呆れながらため息一つ、そちらに視線を向ける。
一人は日に焼けた短髪の男。
筋肉質で、丸出しになった腕にはいかにもな傷跡。
もう一人は色白で細身。
整った顔立ちだが、神経質そうな他人を見下したような目。
肩をぶつけ合うようにして睨み合う二人。
……見ようによってはキスしようとしてるようにも。
周囲も止めに入るどころか、面白がるように距離を取って囲んでいる。
「まさかこんなところに動物園ていうか猿山?
ていうか周りの学生。全員ピリピリしすぎじゃないですかね?」
「探索者なんてもともと自分が一番の強者だと思ってるしねぇ。
それも今回集まってるのは迷宮科の学生が大多数だしさ」
「本日この場に呼ばれている学生——付き添いの教員も含めてですが。
全員『学校代表』『地域代表』という肩書きを背負って集まっておりますので」
こちらでの作業が一段落ついたのだろう。
肩をすくめるカズラさんの後ろからニッコリと笑いながら声を掛けてきたのはアヤカさん。
「あー、言われてみれば。
桜凛の入学式の日、クラスで最初に会った仁王院もあんな感じだったか」
「そういえばあの男は新学期早々クラス全員の前で上半身半裸になる変質者だったわね」
「今ではそれなりに症状も落ち着いて真面目に勉強してるけどね?」
仁王院が心に病を背負っていたみたいな言い方はやめて差し上げろ。
いや、心に病というか闇を抱えてそうなのは豪俵の方なんだけどさ。
クッ、俺もあんなおっぱいに挟んだりとか挟まったりとか——
「何故でしょうか。
キリッと引き締まった顔をされているのに、夕霧さんがろくなことを考えてない気配が」
「どうせお兄ちゃんのことだから、この場にいる全員ぶん殴ってやろうとしてるんだと思うよ?」
「カズラさんは俺のことを山賊だとでも思ってるんですかね?
ていうかそんな連中の集まりで。
シズカさん、ショウコさんを筆頭にカズラさん、アテナ、アヤカさんと多種多様な美少女、女神、美女を侍らせてるように見える俺に誰も絡んでこないのはどうしてだろう?」
「お兄ちゃんはたまに……頻繁に忘れるみたいだけど、カズは超有名人だからね?」
「ああ……なるほど。
写真集の自費出版が効いてるわけですね?」
「ちゃんとした大手出版社から出てるよっ!」
その看板だけで、普通の学生が絡んでくるようなことは無い——
「葛お姉様の近くにいる、そこの男」
俺の背後から透き通った女性の声。
振り返るよりも早く言葉が続く。
「もしかしてあなたが『三十層を越えた』などと嘯いている、例の大ボラ吹きかしら?」
……いたわー……。




