第05話 鷹司邸 その4
屠殺場に引き出されていく豚のような泣き声を上げる男――中務某氏。
会場に控えていた数人の警備員に両脇を固められ、引き摺られるように退場していくその姿は金○先生の最終回の如く。
思わず中島み○きの世情を口ずさみそうになったが、会場は水を打ったような静寂。
さすがに視線という視線がこちらに突き刺さっている状況で鼻歌を歌うような根性は無ぇ……。
ショウコさんの両親だと思われる二人も、葛葉さんの方を向いて深々と頭を垂れたまま動かないし。
てか何この公開焼き土下座に執行側として強制参加させられてるみたいな状況。
さすがにこの空気のまま歓談を開始するとか不可能だろうし、このままパーティも自然解散――と、思ったんだけど。
「いやいや。さすが鷹司家主催のパーティ。
なかなかに趣のある一幕でしたね」
柔らかな声が、その静寂に割りこむ。
「そろそろ私もお話の輪に加えていただいても?」
こちら――精神的防壁張られていそうなほど張り詰めた俺たちの方に悠然と歩み寄って来たのは一人の男。
歳は三十代半ばから後半だろうか。
服に着られている俺とは違い、上質な燕尾服を優雅に着こなす柔らか系イケオジ。
何この人、ビックリするほど強心臓なんだけど!?
そんな見知らぬ……俺が知らないだけで、たぶん会場の人間は全員知った顔なんだろうけど、イケオジの挨拶? 嫌味? に答えたのは。
「喜劇というには少々役者の品が足りませんでしたわね」
もちろん葛葉さん。
腰に刺していた扇をパサリと開いて口元を軽く仰ぐその姿、どこからどうみても由緒正しき悪役令嬢。
……中身は(推定)七十過ぎのおばあちゃんだけどさ。
「せいぜいが茶番劇、といったところでしょう?」
「ははっ、確かに。
でも余興としては楽しめましたよ」
ていうか二人ともニコニコ顔なのはいいんだけど、目が笑ってないのがなんとも。
俺、このままフェイドアウト――
「柏木夕霧君、でいいのだよね?
私も挨拶をさせてもらっても?」
……しようと思ったのに!
イケオジの視線と会話の矛先がこちらへ向けられる。
「はい、柏木夕霧で合ってます。
えっと、失礼ですがどこかでお目にかかったことが?」
「いや、直接顔を合わせるのは初めてだよ。
随分と妹が世話になっているからね。名前くらいは知っているさ」
……妹?
ショウコさんは……さっきの弟だけ。
シズカさんもお姉さんが一人。
カズラさんは長女で跡取り候補だから上は居ないか。
ならアテナ……そもそもどうして今回してるのかすらわからないし、妹が居るとしか聞いてないな。
てことで、消去法で残ったのは。
「……アヤカさんのお兄さんです?」
「ぶふっ!? ……ははっ。いや、失礼」
不意を突かれたように、イケオジが素で吹き出した。
「とうの立った妹を名で呼んでくれる男性は久しぶりでね。
六条綾香の兄、六条隆文だ。
これからは明石静嬢の後見も務めさせてもらうことになっている」
先程葛葉さんと話していたときより、目力の抜けた隆文氏。
差し出された手を両手で受け止め、
「改めまして、柏木夕霧です」
シェイクハンドで挨拶を返す。
なんというか、非常に胡散臭いオヤジだなぁ。
……もちろんあちらはあちらで、俺に対してまったく同じ感想を持ってるだろうけどさ。
そんな腹のさぐりあいをしてる俺たちのところにシズカさんたち四人も合流。
それを見た隆文氏が目元を細めながら、
「それにしても……噂では聞いていたが、夕霧君はまだ高校生なのだろう?
それがどうして、あのような――」
「隆文兄さん。私に目を向けながら『あのような』とは一体どういう意味ですか?」
アヤカさんと見つめ合い、静かに微笑み合う。
……まぁ二人とも目は笑ってないわけだが。
「どういうも何も……いや、もちろん夕霧君に対して含むところなど何も無いし、むしろ六条にとってもお前にとっても彼以上の婚約者などいるとも思えないが。
それにしても年の差がだな。お前……すでに三十路だぞ?」
「何を言っているのですか? 私は二十二歳ですよ?」
「サバを読むにもほどがあるだろ!?」
……いや、そこでこっちに目を向けられても。
思わず視線を明後日の方向に向け――
「夕霧さん、何か言いたいことでも?」
「いえ、何も」
たらカズラさんと目があった。
ていうかあんた、普通に喋れるんだったら普段からそうしろよ!!
「というか夕霧君! いきなり妹と母親がまるで大学生の姉妹のように!
祖母ですら自分と同年代の見た目になった私は一体どうすればいいんだ!?」
「そうですね、お身内の女性が若々しくなったことを喜べばよろしいのでは?」
「なんだその優等生すぎる返事は……。
なんだろう、君は君で高校生と話してる気がしないな」
だって中身高校生じゃないし……。
ていうか、そんなこちらの会話が聞こえた周りの反応が。
「えっ? 六条のあのいきお……異性のより好みが激しい綾香嬢が婚約!?」
「いや、確かに見た目は若々しいが……隆文くんの言うようにあの子は三十二――」
「というか、お相手の彼と一緒に入ってきたのは鷹司の分家の――」
「そもそも彼は一体どういった男なんだ?」
ざわつき始める場内と顔を赤くしながら微妙な表情をするアヤカさん。
ていうか、葛葉さんが物凄く怖い顔で隆文氏のことを睨んでるんだけど?
「はぁ、まったくあなたは……そのお話はちゃんと式の手配まで済んでからということになっていたでしょうが……」
「ははっ。いやはや、不憫だった妹のこれからの幸せを思うとどうにもこうにも」
「別に私は不幸だったわけでは……いえ、もちろん今が幸せなのは確かですが」
俺の左に立つショウコさんの反対側、そっと右手を組んでくるアヤカさん。
「……まぁ遅いか早いかのお話ですのでかまいませんが。
さて皆様がお聞きになられました通り。
この度、こちらにいらっしゃる柏木夕霧さんと鷹司家、六条家は御縁を結ぶこととなりました」
葛葉さんが小さく頭を下げるその姿に、今日一ざわつくパーティ会場だった。
~ご報告~
この度、本作が『第6回ツギクル小説大賞』で『シーモアコミックス特別賞』を受賞いたしました♪




