第05話 鷹司邸 その5
本来なら、鷹司家と合同で正式な発表をするはずだったみたいなんだけど……六条隆文氏の口からポロリと出た、
『妹さんと俺とのフライング婚約発表』
いや、この人の胡散臭さから考えればわざとだったとしか思えないんだけどさ。
葛葉さんからしてみれば「お前、何を予定に無かったことしてくれとんねん……」って話なわけで。
もっとも、一度口に出されてしまった以上はもう止められない。
その流れで、鷹司家との縁組までその場でリリースされることに。
まぁこちらは会場に入る時俺がショウコさんをエスコートしていたわけだし?
その後も騒ぎを起こした哀れな豚さん、中務某氏がドナドナされたばかりだから『さもあらん』って感じで。
正直、そこまでの衝撃にはならない……はずだったんだけど。
葛葉さんの挨拶が終わったあと、カズラさんが俺の腕を取って満面の笑顔で寄りかかってきたものだから――
「なっ……六条家だけではなく、鷹司家まで本家の娘が婚約するというのか!?」
「本家も何も、葛嬢は次期当主がほぼ確定していただろう!!」
大きく会場が揺れることに。
「まさか侯爵家に入り婿だと!?
あの男……柏木夕霧と言ったか?
柏木家とは一体どのような家なのだ!?」
「少なくとも東の社交界ではこれまで聞いたことのない家名だと思うが……」
「では東ではなく西の人間なのではないか?
いや、それにしてもまさか鷹司がそのような思い切った縁談を……」
「縁談どころか分家の娘も出すというのだろう?
鷹司ほどの家が二人も嫁がせて、本家に囲い込むとはいったいどれほどの男なのだ!?」
驚愕そして困惑が入り混じった声があちこちで上がる。
……もっとも、そうして騒いでいるのは下級の貴族や『鷹司・六条』の両家と縁の薄い家の人間たち。
噂話や流れてくる情報を処理しきれていない、あるいは上からの信用もなく、最初から何も伝えられないような二流・三流の連中だけ。
長年貴族の世界で揉まれてきた老獪な者たちは声を荒げることもなく、静かに様子を伺う。
(……なるほど。
あれが、鷹司葛が『桜花爛漫』を切り捨ててまで育てているという男か)
(ほう……まさかこんなところで……。
いや、今回のことは六条の独断専行と見るべきか)
(おそらくあの男が鷹司の薬品部門が急成長している理由……。
そして最近、六条の周りまで妙に騒がしい原因か)
(最初に縁を結んだのは鷹司――中務の娘と聞いているが。
それにしても六条め。
落ち目の男爵家を潰し、『傾国』とまで呼ばれた娘を手駒にしてまで取り入るとは……なかなか上手くやったものだ)
(ふむ、見たところ中学生か高校生くらい……。
いや、不老長寿を可能とすると言われる秘薬の数々。
その出所があの男だというなら、その見た目だけで歳を判断するのは愚かなことだろうな)
(鷹司や六条の娘の様子を見る限り、ただの政略結婚でもなさそうだが……)
(……男の周りに集まっている五人の娘。
血筋も年齢もその立場もバラバラ、共通点があるようにも見えないな)
(もしかしてあの男、とんでもない好色家なのか?
……それなら話は早いのだが)
(うちからも何人か差し出して様子を見るとするか)
……なんていうか、会場のあちこちから向けられる視線がさ。
ねちっこいというか、ぬるっとしてるというか……むっちゃ気持ち悪いんだけど?
* * *
最終的には知らない紳士と年齢不詳の淑女の方々に囲まれて祝福され続けるという、TV版エ○ァの最終回みたいな状況だった俺。
あんな状況で自己紹介とかされても、名前なんて一人も覚えられねぇよ……。
「疲れた……ただただ疲れた……」
「確かに、あれならゴブリンとかオークの集団に囲まれてる方が気楽だったよね」
グッタリしてる俺に答えたのはアテナ。
ていうかこいつ、しれっとした感じで俺たちの輪の中に混ざってたんだけど……。
「お前は婚約者じゃないよね?」
「君、さらっと酷いこというね!?」
いや、酷いも何もただの事実だろうが……。
まぁそんなこんなでやっと終わった俺たちの歓迎(?)パーティ。
今日はお開き、そのまま解散――かと言えば、この後さらなる刺客というか、
『むしろそっちがメインイベントじゃね?』
という集まりが待ち構えているわけで。
そうだね!
彼女のご両親にご挨拶まわりだね!
「……ていうか、いまさらあれな話になりますけど」
自分で言うのもなんだけど俺の女性関係。
すでに認知されているのは分かってるとはいえ……ねぇ?
いや、もちろん現状では誰にも手を出してない……とも言い切れないところがあるけれども!
少なくとも『交渉(性的な意味で)』はしてないけど、それにしてもいきなり四人「五人! 僕も含めて五人いるから!」の美女、美少女の婚約者だよ?
「もしこれが逆の立場――俺がお義父さんの立場だったら。
娘がそんな男を連れてきたらぶち○すと思うんだけど?」
そんな俺の言葉に吹き出したのはカズラさん。
「本当にいまさらだねぇ。
鷹司にしても六条にしても後から無理やり押し付けたみたいなモノなんだからそんなことまったく気にしなくて大丈夫だよ?」
その満面の笑顔を真顔にして、
「……お兄ちゃんがちゃんと全員愛してくれるならね?」
「怖いのでいきなり瞳孔を開くの止めてもらっていいですかね?」
カズラさん、たまにヤンデレる――いや、それを言えばこの場にいるアテナ以外の全員がそうだったわ……。
そんなカズラさんの様子を見て、次に声を上げたのはショウコさん。
「葛、それに関してはその……夕霧さんはとてもお上手だから心配しなくとも良いわよ?」
うん、この人はこの人で頬を赤らめながら一体何を言い出してるのかな?
あれはただのマッサージだからね?
エッチな行為じゃないからね?
「確かに、むしろ一人でお相手するのは体が持たないかも……」
何かを思い出したように、こちらも耳まで赤く染めながら続いたのはアヤカさん。
「夕霧くん? 私とはすでに数カ月、毎日同衾しているわよね?
それなのに私が一方的に寝ているあなたにイタズラしている以上の進展は何も無いのだけれど?」
「シズカさん、頬を膨らませながら可愛らしく告白したそれは世間一般では『○犯罪』と呼ばれるものだからね?」
「そうなの? 僕とは頻繁にお医者さんご」
「あれはお前が『ちょっと胸が痛いんだけど……』とか言いながら上着を捲ったからそれを見ちゃっただけだから!!
お前のことが心配でちょこっとだけ触診したのは認めるが俺は無実のはずだ!!」
「お兄ちゃん、頻繁にやってればそれはもうそういう『プレイ』なんだよ……」




