第05話 鷹司邸 その2
「ご案内いたします」
そろそろ俺のお付のメイドさんと言っても過言ではない奥女中さんに案内され、入場したのは綺羅びやかな、立食形式のパーティ会場。
「……もっと緊張されるかと思っていましたが。
相変わらず夕霧さんは大物ですね?」
「ははっ。隣にいる『妖精女王』と比べれば、会場内のほとんどの女性はカカシが立ってるようなものですし」
「もう! あなたはまたそういうことを……」
と怒ったようなフリをするが、嬉しそうな目をするショウコさん。
俺だって、お貴族様主催のパーティくらい『異世界』で何度か参加したことがあるし?
そもそものところ、顔を見てもどちら様かすらわからない人たちに緊張も何も……ねぇ?
あちらこちらですでにグループに別れて歓談中のパーティ会場。
その中でも、(金髪美女的な意味で)圧倒的な輝きを放つのは俺がエスコートしているショウコさんなんだけど……入場したとたんに場をざわめかせ、老若男女問わずその注目を一身に集めているのは彼女ではなくシズカさん。
もちろん俺だって、シズカさんが美少女だってことは理解してたけど……。
まるで夏の誘蛾灯のように、あっという間に青年貴族――だけではなくおっさん、爺さんにまで囲まれる彼女。
そんな連中をシズカさんの隣りにいるカズラさんとアヤカさんが上手に捌いてくれてるけど……その中に一人。
『男』だった頃のアテナレベルの物凄い男前が。
「……えらく馴れ馴れしい態度でシズカさんに話しかけてる奴がいるんですけど」
「あれは上杉伯爵家の勝虎さんですね」
上杉。シズカさんが蠱毒の呪いを掛けられる前の彼女の婚約者。
久しぶりに会った知人が懐かしさに話しかけてくるのはおかしなことでもない……あれ?
「ていうかあの人って何歳なんです?」
そう、俺が気になったのはそいつの年齢。
見た感じ、ショウコさんやカズラさんと同年代に見えるんだけど?
「確か今年で24歳だったと思いますが。
何か気になるところでもありましたか?」
いや、今の二人がああして話してるのは気分が悪いだけで?
とても! 気分が! 悪い! だけで?
おかしなところはまったく無いんだけどさ。
「……それってつまりあいつが『16~17歳』の時。
『当時9歳』だったシズカさんに結婚を申し込んだってことですよね?
それもう絶対にロリコンじゃん!
それも紳士じゃないタイプの悪いロリコンじゃん!!」
「夕霧さん、声が大きいです……。
といいますか、あくまでも婚約ですから。
その年齢で閨に入るなどということは……ほとんどありませんから」
いや、稀にでもあったらヤベェだろ……。
「ちょっとド変態を処しに行ってきますね?」
「夕霧さん、さすがに鷹司のパーティで刃傷沙汰は不味いです」
顔を引き攣らせながら質の悪い変態を成敗に向かおうとしていた俺と、『まったく、しょうがない人ですね』みたいな顔をしながら着いてくるショウコさんに、
「これはこれは姉上、お久しぶりですね。
しばらくお会いしておりませんでしたが相も変わらず……せめて髪を黒く染めるくらいのことをされればまだ見れぬことはないものを」
いきなり絡んできたのは神経質そうな顔をした幽鬼のように痩せた一人の男。
イメージとしては、一昔前の石田三成というところだろうか?
「それにしても、いくら同年代の男に相手にされぬからと。
恥ずかしげもなくそのような子供を連れ歩くとは。
まぁあなたのような混ざり者にはお似合いなのでしょうが……鷹司の分家である中務の品位を貶めるような行為は止めていただきたいものですね」
ショウコさんのことを『姉上』なんて呼んでるくらいだから、こいつが『噂の』弟なんだろうけど。
いきなりの、こちらを小馬鹿にしたその物言いに、とたんにショウコさんの顔が『無』の表情に。
……さて、どうしよう?
その物言いにイラッとはするけど、言ってることはそこまで間違ってないから下手な反論をしちゃうとこっちが恥をかいちゃうし、一応相手は彼女の弟とかいう微妙な立ち位置の人間だし。
……もちろんその程度のことで、未来の奥さんに恥をかかせた人間に対する俺の怒りは抑えられないんだけどな?
そうだね! こんな時は
「よし! 面倒だからとりあえず『はい』と『YES』しか答えられなくなるまで殴って心を壊し」
「君は裏社会の親玉か何かなのかな!?」
腕力で解決だね!!
と相手の胸倉を掴もうとしたら、いつの間にかこちらに来ていたアテナに止められた。
……まぁ近づいてきてたのはアテナだけじゃないんだけどさ。




