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第04話 東京駅と傷痍探索者。

 電車に揺られること――いや、揺れまくる高速鉄道とかジェットコースターの比じゃないくらい怖いわ。

 てことで、大阪を出発して二時間半。


 ようやく到着した東京駅は近代的な機能美を備えながらも、どこか大正や昭和を感じさせる赤煉瓦の重厚さを纏っていた。

 ドーム状の高い天井、幾何学模様の装飾、磨き上げられた石床。


 俺の知っている令和の駅舎よりも上品でどこか格がある、便利さよりも威厳を優先したようなその佇まい。

 もっとも、大都市圏を少し離れた車窓の景色はまるで別世界で。


 走る電車の車窓から見えたのは舗装すら怪しい道と低い木造の家々。

 下手をすれば江戸時代と言われても違和感のない集落。

 電信柱すら見当たらない。


 もっとも、この世界では魔石発電機が普及しているので電気が使えないわけじゃないんだろうけどさ。

 けど『文明の形』が俺の知るそれとはあまりにも違うんだよ。


 その最たるモノが、


「大阪でも、ウメダやナンバでたまに見かけましたけど」


 ……視線の先、駅前広場の片隅で。

 人通りから一歩外れた場所に、


 膝から下のない男。

 片腕に粗末な義肢のようなモノを着けている女。

 包帯で目元を覆い俯くだけの俺と同年代の青年。


 声を張り上げるでもなく、泣きつくでもなく、その視線を上げて辺りを見回すこともなく。

 微動だにせず、まるでそこに置かれた物のように座り込んでいる。


「……傷痍探索者ですね」


 俺の視線に気付いたショウコさんが一言。


「地方から一攫千金を夢見て出てきたものの、何も掴めないまま大怪我を負った者たちです。

 今さら帰郷もできず、こうして都市部に留まるしかないんですよ」


 傷痍探索者。

 言葉としては軽いがその実態は……重い。

 ダンジョンで失ったのは手足だけじゃない。

 その将来も、尊厳も、時には家族との縁すらも失う。


「……もしもあなたと出会っていなければ。

 私だって近い将来あのようになっていたでしょうね」


 感情のないシズカさんの声。

 それを言うなら俺だって……いや、俺の場合はすでに異世界で死にかけてるんだけどさ。


「それにしても、ダンジョンで一攫千金ねぇ。

 浅い階層を多人数でウロウロしてる分にはロクな稼ぎにはならないと思いますけど」


「それでも、田舎の閉塞した空気の中で一生を終えるよりは夢のある仕事なんだよ?

 もっとも、それにベットするのは自分の体、自分の命になるんだけど」


 俺以外の面々は『どうしてそんな当たり前のことを今さら?』みたいな表情になってるんだけど……いや、確かに?

 異世界の冒険者だって同じ条件、むしろこっちの探索者よりも劣悪な条件で魔物と戦ってたんだしその通りの話なんだけどさ。


 でもほら、現代の風景とそんな傷痍探索者の存在のギャップが……ね?


「ちなみに、ああいう人たちを支援する制度とかは?」


 俺の問いに答えたのはカズラさん。


「そんなものあるはずないじゃない。

 栄光も挫折も自分自身の力次第!

 探索者なんて昔からそんなものだって相場が決まってるじゃない?」


 その隣で肩をすくめるアテナ。


「探索者じゃなくても、どんな仕事にだってリスクはあるからね。

 そもそも身内の面倒は家族がみるのが普通でしょ?」


 たとえばこれから表彰される俺たちのように。

 成功すればそれなりの富と名声、英雄扱いもされるが……失敗すれば何もかも失う。

 挑戦した全員が成功できるはずもないのは当然のことで。


 でも、ああして座り込んでいる人間たち。

 そちらに、ちらりとも目を向けず早足で通り過ぎてゆく通行人の姿。

 俺が教えられた道徳や人権の感覚とは少し違って、ちょっとだけ引っかかるっていうかさ。


 ……もちろん、どちらが正しいとは言えないんだけどね?


 アヤカさんに先導され、迎えの黒塗りの高級車へと乗り込む俺たち。

 ドアが閉まると、外の喧騒と街の匂いが一瞬で遮断される。

 柔らかなシート、静かな車内、隔絶された空間。

 さっきまで視界に入っていた『彼ら』はもうガラス越しの小さな点でしかない。


 ほんの少しだけ、胸の奥に澱のようなものを残したまま静かに車は走り『東都ホテル』へと到着。

 入り口にずらりと並んだホテルの従業員の中、一歩前に出て。


「柏木さん、ようこそいらっしゃいました」


 出迎えてくれたのはアヤカさん。


「本当なら六条の屋敷でお迎えしたかったのですが。

 六条にせよ鷹司にせよ本宅ではあまり気が休まらないと思いまして、こちらに部屋を取らせていただきました」


「アヤカさんのお気遣いとお出迎えに感謝します」


 落ち着いた雰囲気のホテルのエントランスはとても煌びやかで、天井で輝くシャンデリアの光は、駅前の影とは別世界のものだった。



 そんな、短い旅の途中でも到着してからも、いろいろと考えさせられる光景を見せられ、少しだけモヤモヤした気持ちになった俺。

 もちろん、それで何か行動を起こそうなんてことは思わないんだけどな?


 政治に関する責任なんて貴族や政治家が負うものだし?

 つい最近まで無一文だった余所者の俺がこの世界の仕組みに口を出すなんて、それこそおこがましい話だし。


 てことで、気を取り直して今後の予定。

 さすがに移動直後ということで、今日はこれといった予定はなし。

 これから一日というか半日ほどのんびり。

 ……もっとも、明日からは結構過密なスケジュールになってるんだけどさ。


 まず最初は鷹司家にご招待。

 そこで歓迎会のようなものを開いてもらえるらしい。

 ……らしいのだが。


「いやー、孫娘がやっと婚約者を見つけたって『葛葉くずのは』おばあちゃんが張り切っちゃって!」


 鷹司葛葉。鷹司家の現在の当主。

 もちろん俺にとっては名前を聞くのすら初めての存在である。


「ふふっ、ちょこーっとだけクセが強い人だけど。

 有能な人間とっては害のある人じゃ無いからあんまり気にしないで大丈夫だよ?」


 ちょっと待って!!

 『あの』カズラさんが、わざわざクセが強いなんて前置きする人って一体何!?


「えっと、ショウコさん。

 鷹司のご当主様ってどんな方なんです?」


 恐る恐る尋ねる俺に、いつもの柔らかな笑みを浮かべたショウコさん。

 ……が、そっと目を逸らしながら。


「そうですね。

 一言で申し上げるなら『黒幕フィクサー』でしょうか」


「何それ怖い」


 政財界、そして貴族のまとめ役。

 直接表に出ることはほとんどないが、国の決め事、重要な局面には必ず関わっているらしい。


「……ちなみに、とても孫想いの優しい方ですよ?」


 それっていつも通り、カズラさんのことを邪険に扱ってたらシメられるってことだよね!?

 ビックリするくらい、会いたくないんだけど!?

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― 新着の感想 ―
若返ったおばあちゃんは夕霧のストライクゾーンに入るのかな。
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