第03話 After ~原西亜帝奈(トオル)のトランスセクシャル~
「それで、あなたはどうしてあのような暴挙に出ていたのかしら?」
「いや、こいつなら後腐れとかなさそうだと思いまして」
「胸を触って後腐れのない女性なんてこの世に存在しないからね!?」
――正座NOW。
いやほら、同じ部屋の中に半裸の女の子がいたら?
俺だって男の子だし……ねぇ?
そりゃガン○ンクみたいに、三本指をワキワキして摘もうとするじゃないですか?
何とは言わないけど。
そしてらその時、タイミング『良く』。
玄関から『ガチャリ』と鍵の開く音がしたんだよ。
ふつうなら聞き逃すような小さな音なんだけどね?
あの時の俺には、心臓が飛び跳ねるほどに大きく聞こえたんだ。
いきなり大きな音がなったら。
当然体がビクってするよね?
突起物を摘もうとしていたその時の俺。
その『ビクっ』で指が『キュッ』と……優しく摘んじゃったわけでさ。
「あんっ……」
喘ぎ声とも言えないような、小さく息の抜けるような、それでいて艶めかしい湿り気のある声をあげるアテナ。
音もなくゆっくりと開いていくリビングの扉。
指先から伝わってくる、柔らかいが確かな存在感を返してくる乳首の感覚。
離すべきか、離さざるべきか。
……まぁ離さなかったんだけどさ。
むしろ、さらに『クリッ』としちゃったんだけどさ。
部屋に入って来た時のシズカさんの表情と言ったらもうね……。
「ていうか、どうしてシズカさんは俺の部屋の合鍵を持ってるのかな?」
「もちろん私があなたと一緒に暮らしてるからだけど?」
いや、シズカさんの部屋は隣で、ここにいるのは勝手に転がり込んで
「……何か不都合でもあるのかしら?」
「もちろんまったくありませんです」
まぁそんな感じで。
ショウコさんとカズラさんと三人でショッピングに出かけていたシズカさん。
自由時間が出来たので、「じゃああいつの治療でもしておくか」と、ショウコさんに久堂を呼び出してもらっていた俺。
虫の知らせ的な嫌な気配を感じ、買い物を早々に済ませたシズカさん。
それみたことかとばかりに、『知らない女』の胸を触診している婚約者。
そりゃ、そんな顔にもなるよね?
「……ちゃうねん。
これは……ちゃうねん
ほら、久堂――アテナもちゃんと謝って?」
「僕は別に何も悪いことなんてしてないよね!?
ていうか、君はいつまで人の……あんっ……どうして今クリッてしたのかな!?」
「ちゃうねん!」
というようなことがあり。
まぁそのアテナにしても、その後掛かってきた、鳴り止まない奴の家からの電話で逃げるように撤退してしまったわけだが。
「夕霧くん。確かにあの泥棒猫と比べて、現状では私の胸はそれほど成長していないわ。
でも、それは一体どうしてなのかしら?」
何なのこの子?
『ガ○マがどうして死んだのか』を問いかけるギ○ンなの?
「そうね。それはあなたがちゃんと毎日、私の胸と誠心誠意向き合っていないからね」
「いや、それに関しましては式を挙げるなどして区切りを付けてからにしようと」
「ならどうしてよその女の胸を摘んでいたのかしら?」
『だって! あいつの格好とか仕草が不必要にエッチだったんだもん!!』
……などとふざけた開き直りなど出来るはずもなく。
そこから小一時間掛けて誠心誠意謝罪するはめになるのだった。
……まぁそんな。
何もやましいことなど無いのに、追い詰められた浮気男みたいな状況で冷や汗を流したことはどうでもいいとして。
それから3日後、シズカさんに睨まれながら俺の前でお茶を飲んでいるアテナ。
普段なら学校に行ってる時間のはずなんだけど……。
ほら、こいつっていきなり性別が変わっちゃったじゃん?
学校には小学校からの状況を説明、それがやっと回復したと伝えたらしいんだけど、さすがに同級生の性別がいきなり変わったとか言われても困るじゃん?
てことで。
生徒の混乱を回避するため、久堂は転校、そしてアテナが転入という流れで別人として扱うことになり。
週明けまでは自宅待機中のこいつなのだ。
「ていうか、あの日は帰ってからどうだったんだ?
さすがにご両親も、いきなり息子の息子が無くなったら困惑しただろ?」
「言い方っ!
いや、うちの方は別に……というか、妹以外。
パパもママも僕が元に戻れて大喜びだったよ? ……うちはね?」
何だよその含みのある言い方……と、思わなくもないが。
こいつの胸にくっついてた宝石というか魔道具。
『性別が変わる』ではなくて『性別が入れ替わる』アイテムだったわけで。
「問題は女の子になってた従兄(透)の方なんだけどさ。
あいつ、あの日は男友達と部屋でイチャイチャしてたみたいでね?
それがいきなり男の子に戻っちゃったものだから……」
美少女がいきなり光りだしたと思ったらイケメンに変身。
……何その相手にとってはとてつもない地獄絵図。
「透は透で、何を思って男とイチャイチャして……ああ、なるほど。そういうことか」
俺には理解できない話だけど……。
「そいつ、昔から自分の性差に悩んでたんだろ?
で、その結果『女の子になりたい』って想いが魔道具を発動させて――」
「透は昔から、普通に女の子大好きな小学生だったよ?」
「いや、だったらどうして男友達とイチャついてたんだよ!?」
「普段は女友達とユリユリしてたみたいなんだけどね?
その日はたまたま、違うものも食べてみたくなったんだって……」
「つまり、たまたまタマタマ……ってこと?」
「だから言い方っ! ……まぁその、そんな感じ」
その結果トラウマを植え付けられた、ないしは新しい扉を開いてしまった友人に合掌……。
「ちなみにだけど、お前も男の姿の時は女の子に興味があったりしたのか?」
「残念ながら……というのもおかしいか。
もともと女の酸いも甘いも知ってるからね?
女性にはまったく恋愛感情も性的興奮も感じ無かったよ。
というか男の子にも興味は無かったんだけどね?」
……女の方には随分と興味を持たれてたみたいだけどな。
「あっ、でも。
今はその……気になってるっていうか、責任を取ってもらわないといけない男の子が出来たんだけどね?」
「ほーん」
「君はどうして他人事みたいな顔をしてるのさ!?」
だって、俺には何も身に覚えがないもの。




