第03話 After ~久堂透のトランスセクシャル~
時間は少し進んで6月も半ば。
「いや、思ったほど進んでねぇな!」
「??? 一体何の話なのさ?」
もちろんこっちの話である。
「ということで」
「人の話ちゃんと聞いて?」
俺の暮らしてた日本の都市部だったら、そろそろ熱帯夜でクーラー無しには生きられない季節。
幸いと言って良いのか、こっちだと世界人口があちらよりも少ないこと、化石燃料ではなく魔石を使っていることなどもあり、そこまで暑くもない6月のある日。
「少し前に久堂の昔の話を聞いたじゃん?
それから魔道具関連の師匠に弟子入したんだけどさ」
「いきなり情報量の多い話だね!?
そんな先生がいるとか聞いたこともないんだけど……。
えっと、僕のためにありがとうでいいのかな?」
「まぁお前のためっていうか、お前のおっぱいのためなんだけどな?」
「それに関しては触らせる契約はしてないけどね?」
そう。
あれからのんびりとではあるが、魔道具職人の経験値を上げて久堂の玉を外す吸着器が作れないか頑張ってみた――んだけど。
「結果、残念ながら……。
今の段階では俺の手でそれを作ることはまだ出来なかった」
「逆に、ダンジョンで見つかるようなアイテムを作れた方がおかしいんだけどね?
ていうか、その言い方だと『そのうち作れるようになる』みたいに聞こえるんだけど」
「みたいに聞こえるんじゃなくて、魔道具職人のジョブのランクがもう少し上がれば作れそうなんだけどね?
てことでこれ。
俺の師匠に作ってもらった吸着器モドキ」
「えっ? あっ? えっ? ……ええっ!?
さっきまでの前フリだと『何の成果も得られませんでした!』って流れだと思ったんだけど、いきなり現物があるんだ!?
ていうかその師匠って君から話を又聞きしただけなんだよね!?
それだけで、そんなものが作れちゃうって一体何者なのさ!?」
本人曰く、手先が器用なだけの『少女』とのことなんだけどな。
「まぁそんな合法ロリのことはどうでもいいとして。
せっかくこうして用意してきたんだから早く脱いで?」
「いや、もっとこう情緒というか前置きというか落語の枕というかさ!?
えっと、それって……それを使えば僕が元に、女の子に戻れる道具ってことで合ってるんだよね?」
んー、そのあたりはほら。
動物実験すらしてないから……『たぶん』としか言えないけどな?
「てことでハリー! ハリー! ハリー!」
「君はどこの国の人なのさ!
だからちょっと落ち着いてってば!
僕にとっては物凄い大事なんだからね!」
「だってお前、冷静になったら脱がないじゃん。
あれだ、それが無くなるまでお盆で隠してくれるなら、半裸じゃなくて全裸になってもいいからな?」
「君が構わなくとも僕は構うんだけどね!?
ていうか、ホントにちょっとだけ待って!
ていうか、どうして呼び出す時に前もって教えてくれなかったのさ!
ていうか、電話くらい自分で掛けてきてよ!」
「相変わらず連絡手段を持たない人間にそんな無理を言われても。
あと、何も伝えないほうが素の反応が出て面白いじゃん?」
「普段の生活にそんなドッキリはいらないんだけどね!?」
そこから10分ほど。
借りてきた猫のように落ち着き無く部屋の中をソワソワと歩き回ったり、床にペタンと座り込んだりと不審な行動を繰り返す久堂。
「うう……。五年越しの悲願なのに。
嬉しくて嬉しくて仕方がないはずなのに。
こうしていざとなると、いろいろと考えちゃって踏ん切りがつかないんだけど。
えっと……君は僕が女の子に戻っても……これまで通り友達でいてくれる?」
「何だよ、そんなこと心配してるのかよ。
でぇじょうぶだ。
これまでも、これからも遠慮なくシモの話に付き合ってやるから」
「別にそんな事を求めてるわけじゃないんだけどね?」
そんな俺の一言で『スンッ』とした顔になる久堂。
勢いよくアウターと中に着ていた白いシャツをまくり上げ。
「いやお前、どうして今日も乳首に絆創膏を貼ってるんだよ!!」
「こういうこともあろうかと念の為だよ!!」
「……いいか久堂。常識で考えろ。
普通の人間は男同士で遊ぶ時乳首を見られることなんて無いんだ。
つまり、それは必要のないものなんだ」
「そうだね、普通なら必要ないよね?
……どうしてなのか、前回に続いて今回も出さされてるけど」
「てかこれってさ。パッと見『乳パット』みたいな?
地味な見た目のカップにしか見えないけど?
その実、希少金属とか希少魔宝石とかふんだんに使ってる、超高性能な『アンチマジック』が付与されたマジックアイテムなんだよ」
そう、ロリ師匠の命令で素材の入手に東奔西走――はしてないな。
全部鉱山都市で仕入れられたし。
「えっと、希少金属まではギリギリ理解できるけど……希少マホウセキって何なのさ?
ていうかマジックって魔法のことだよね?
付与って『力を込める』的な意味合いだよね?」
だいたいそんな感じであってると思う。
「……君、僕のためにそこまで……そんなに……頑張ってくれたんだ?
ていうかそれ、僕に渡してくれれば、使い方を教えてくれれば脱ぐ必要無かった気がするんだけど」
「お前……俺がこれを作るためにどれだけ……。
メスガキのおっぱいが見たいがためだけに!
家一軒どころかビル一棟建てられるほどの金を使ったと知っててそんな無体なことを言ってるのか!?」
「そんなこと知らないよ!
ていうかそれってそんな高いものだったの!?
はぁ。前の魔力酔いの時といい――」
ていうかこいつ。
この前もそうだったけど、脱いでからやたらと話が長いのはもしかして『露出狂』性癖の持ち主なんじゃ?
「えい」
残念ながら俺は、いつまでも自分の部屋で男の半裸を眺め続けるような趣味は持ち合わせていないので隙を突いて久堂の青い宝石にカップを被せる。
「ちょっ、いきなりっ!?
もっとタイミングとか、カウントダウンとか――眩しっ!?」
途端に光りだす久堂の体。
「んっ……んんっ!?
なにこれ、なんだか体がムズムズ……あっ、おち……その部分が変な感じに……うっ……」
「おまっ、何だ今の『うっ』は!?」
大丈夫だよね!?
液体とか撒き散らしてないよね!?
「あっ……あっ……あんっ……はぁ……」
本当に大丈夫だよね!?
光ってるのを良いことにセルフバーニングとかしてないよね!?
……ていうか、声の高さというか質が男のそれから変わってる気がするんだけど。
時間にしておおよそ10分ほど。
いかがわしいというか艶めかしい声を上げ続けていた久堂の体の光が消え去ったあと。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
そこに立って――は居ないな。
知らない人間が見れば完全に『事後』。
床にペタンと座り込んでいたのは、見慣れた男の久堂でも、写真で見たメスガキアテナちゃんでも無く。
「えっ? 何?
お前……一体何なの?」
「はぁ……はぁ……。
待っ……て。
ちょっとだけ待って……」
なんということでしょう。
170cm以上あったはずの背丈は見ただけで分かる程に小さくなり。
スッキリと引き締まっていた上半身――細マッチョな体は柔らかそうなムッチリ体型。
クール系で中性的だったイケメン顔だって人懐っこそうなショートカット生意気系ボーイッシュ美少女に大変身。
もちろん男性から女性になったことにより大きな変化。
乳首の直径の変化により、とても小さな絆創膏では隠すことの出来なくなったその乳頭。
……いや、駄目だろ!?
さすがにそれはエロすぎだろ!?
「ふう……ふう……。
えっと、君はどうしてそんな前かがみに……って胸!?
僕の胸に胸があるんだけど!?」
少し落ち着いたのか、両手で自分の全身をペタペタと確認する久堂改め『原西亜帝奈』。
あっ、絆創膏が剥がれた。
「うむ。あればあるで情緒深かったけど、なければないでそれもまた良し」
「いったい君は何を言って……言ってって……??……??……!?
ど、ど、ど、どこ見てるのさ!? あっちむいてよ!!」
「もちろん嫌だが?」
「君、人のハダカを盗み見てる人間にしてはちょっと堂々としすぎじゃないかな!?」




