第03話 After ~三人娘 ……娘?~
騒がしかった会議室から場所は変わってダンジョンモール支部長室。
「あとは『事務的なお仕事』になりますので。
夕霧さんと明石さんは、先に引き上げていただいて大丈夫ですよ?」
「いつもショウコさんにだけ面倒事を押し付けてるみたいで。
でも下手に手伝って邪魔になるだけならまだしも、足を引っ張りかねないのがなんともかんとも」
「ふふっ、ありがとうございます。
あなたのそのお気遣いだけで、私には十分な報酬ですよ?」
そう言って素直に、申し訳なさそうに頭を下げる夕霧。
そして『この女、また何か企んでるのかしら?』と、彼女に怪訝そうな顔を向けている静。
そんな二人を見送るのは中務硝子、鷹司葛、六条綾香の三人娘。
……娘?
おっと、そこに疑問を持つのは命が危ない!!
扉が閉まり、足音が遠ざかっていくまでお茶を飲みながらゆっくりと待った後。
最初に口を開いたのは葛だった。
「あんな連中。急がなくとも放っておけば、そのうちボロを出して自滅したと思うんだけど?
わざわざこちらから突っつくなんて硝子らしくないわね」
「……そう、ですね」
そんな彼女の言葉に、テーブルの上に視線を落とす硝子。
「理屈では、確かに私もそう思っていました。
あの程度の人間、放置しておいても今の彼に害をなせるはずがないですから」
「だったらどうして?」
「彼からあの人達の話聞いていた時。
悔しいのに、それでも我慢して笑う彼の顔を見てしまったからでしょうか」
夕霧が、どんな気持ちで亡くなった両親のことを。
そして、柏木家の家族の想い出たる場所を奪ったあいつらのことを。
どれだけ軽い口調であったとしても、そこに滲んでいた悔しさややるせなさ。
それを彼女が感じてしまったから。
「これでも私だっていきなり行動を起こさない程度の我慢はしたんですよ?
それでも、連中のことを調べれば調べるほど。
何の反省もなく、何の罪悪感もなくのうのうと生きている。
ただ身内だから、年長者だというだけで彼を利用しようとするやつら」
ぎゅっと拳を握りしめる硝子。
「私は、それを許せませんでした」
「はぁ……」
葛は大きく息を吐く。
「気持ちはわかるけど……さすがにちょっと入れ込みすぎよ?
今回のことだって彼には何も伝えずに行動しているんでしょ?
彼、そういうのはあまり好まない人間――いえ、なんだかんだでそんな心労をあなたに掛けていたと知ったら自分を責めるわよ?」
「彼の優しさは重々承知しています。
それでも!!
今回はどうしても……譲れませんでした」
そう言い切る、思い詰めた硝子の横顔にため息だけを返す葛。
今回、センニチダンジョンモールに押しかけてきた夕霧の『元』親戚たち。
おそらく彼は、たまたま自分が『ダンジョンで金を稼いでいる』ことを嗅ぎつけた連中が『いつものように』集ってきただけだと思っていたのだが。
「六条さんも色々とお手を煩わせてしまいまして」
「あら、気にしないでいいわよ」
ニコリと、儚げな令嬢のような微笑みを浮かべながら肩をすくめる綾香。
……もちろん今回も『令嬢』の部分に引っかかってはいけない。
「ふふっ、私も彼の婚約者の一人ですもの。
それに、あんな人たちに身内だなんて思われるのは……正直、いい気はしなかったでしょうしね?」
夕霧がダンジョンで数千万、下手をすれば億単位を稼いでいること。
得体の知れない女が、彼の周囲を固めていること。
そして、その後ろ盾については徹底して伏せたまま。
諜報を得意とする六条家の手を借り、欲を刺激する『都合のいい情報』だけを、彼の親戚連中の耳元に流した硝子。
「それにしても……。
まさか、あそこまで常識がなくて、周りが見えてない人間がいるとは思わなかったわ」
「あー、確かにね」
苦笑いする綾香と呆れ顔の葛。
「私やお姉様の顔を見た時点で床に頭を擦りつけて謝ると思ってたんだけど。
まさか、こちらが誰なのかすら分からないとはねぇ?」
「でもああいう人間、あなたが帰属していた桜花爛漫じゃ珍しくなかったのでしょう?」
「まぁねぇ。
金銭欲に性欲まで満載の目で人のことを見るゴミみたいな連中。
こちらが少しでも下に出たら勘違いするような人間は吐いて捨てるほどいたわ」
「……あなた、それでなくとも我慢とか効かない子なのに。
よくそんな環境に耐えていましたね?」
「それなりに好き勝手してたからね!」
そんな二人の話を聞いていた綾香がクスリと笑う。
「そういえば、桜花爛漫の元ギルドマスター。
確か桜小路さんだったかしら?
幽鬼みたいな顔でぶつぶつと何かを呟きながら徘徊する彼女がセンニチのダンジョンモールに居たという報告が上がってたわよ?」
「げぇ……。あの子、わざわざこっちまで流れてきてるんだ?」
まさに苦虫を噛み潰したような顔になる葛
「あの子とはもう完全に他人事なんだけどねぇ?
はぁ、外界の面倒事なんてどうでもいいから、早く五十層まで潜りたいなぁ」
呑気なやり取りをする二人を見つめながら、硝子が心の中で呟く。
(これでやっと、彼の足を引っ張ろうとするゴミを掃除できたわね。
次は……元彼女とか名乗る女かしら?)




