田舎でスローライフしようとしたら世界が終わった。
こんにちは、四方 住と申します。
小説は書いたことがないのですが、面白かったら是非ご感想ください。
朝起きると、弁当を作る。
いつも朝は早い。
私、田上香里奈は祖父の遺した山にある小さな一軒家で暮らしている。
平屋で、屋根も結構ボロボロだが、昔の造りが良かったのか80年以上にも関わらず雨漏りもしない。
朝はすぐ起きて作業を始める。
台所で弁当を作ったら、裏の畑で採れた芋を洗う。
裏の水道でゴシゴシ洗うのは大変だが、泥ひとつ内容丁寧に擦る。洗った芋はしばらく隣のザルに置いて水気をとる。
準備はこれだけではなく、ゆっくり蒸すためにあらかじめ火を入れた焜炉に、熱くなり過ぎないように気をつけて芋を一個づつ入れる。
芋は昨日洗って干した芋だ。慌てると、甘みが少なくなるため、ゆっくりと蜜がたっぷりと味わえる芋を時間をかけて蒸す。
その間隣で弁当を開ける。
今日はお米とほうれん草のおひたしに、ハムを少々入れたものと、この前買った魔法瓶に入れたお茶だ。
ゆっくりと朝食を取ると、日はだいぶ上に上がってきた。
向かいの神社から、お参りの音が聞こえてくる。
ふかし芋が出来上がると、軽トラの後ろに積む。
もちろん、焼き芋用に改造した特別車だ。
もう、どれぐらい乗ったかわからないが、なぜか壊れない不思議な軽トラだ。
積み込み作業をしていると、「香里奈さん」と声をかけられた。
振り返ると、そこには自転車から降りて見ている通学中の女の子がいた。
彼女は、海野真琴。
黒髪を腰まで伸ばし、大きなクリクリした目が特徴の可愛い女の子だ。
昔から体が弱く、よく入院していたそうだが、今では元気に女子高生している。
実は向かいの神社の神主の娘さんで、よく祖父の家で私と遊んでいた。今日は早く授業が終わったらしく、ここで声をかけてきたのは珍しい。
「おかえり、今日は早かったのね。勉強頑張っている?」
思わず姉か母親のように振る舞ってしまう。お姉さんと思って欲しいが、
「うん、試験もバッチリだしこの前先生に国立大の推薦大丈夫て言われたから全然大丈夫」
駆け寄ってくると、両手を出した。
「はいはい」
頭を撫でてあげて、熱々のお芋を袋に入れて渡す。
彼女はにっこりすると、早速両手の焼き芋にかじり付く。
ハフハフ、もぐもぐ美味しそうに包張る姿をみて、ちょっと嬉しくなりながら、作業を再開する。
30分ぐらい彼女は食べながら作業を見守っていた。他愛無い会話。彼女の学校の話や、近くの新しいお店のことなど、最近の女子高生はグルメだなあと思いつつ、ふと思い出して言った。
「そういえばもうみんな帰ったから、今日は学校の近くに行っても売れそうにないね。でもどうしてこんなに早く終わるのかしら」
「学校から、事件が起きたから家に待機するように言われたの」
「なに、不審者?」
「違うかも、聞いた話だけど、学校で男子が急に隣の女子を襲ったんだって」
「へ?変態」
「隣の娘は男子が苦しそうにしてたから声かけただけらしいよ。それが急に抱きつかれて押し倒されたんだって、授業中だったんで先生と生徒でたちがびっくりして助けに行ったんだって」
「怖!それで女の子は大丈夫だったの」
「怪我したみたいで、教室が血の海だって!」
「うわー」
凶器でも持っていたのだろうか、彼女の話を聞くだけではひどい事件だったようだ。
とりあえず、今日は隣街のショッピングモールへ行って販売することにするか。
彼女は紙を綺麗に畳み、前カゴに入れると、ポケットから三百円を出した。
いいよいいよと言ったら、じゃあまた今度食べにきますと言いながら、神社の横の自宅に自転車を押して帰って行った。
もう時間は正午をとっくに過ぎて、向こうへ行けばおやつ時になりそうだ。
軽トラのエンジンをかけると、乾いたエンジン音が運転席を振動させる。
ミッションをシフトチェンジし、さっそく隣町へ出発する。
重い車体をゆっくりと動かす。
隣町のショッピングモールに到着すると、受付に回る。
いつもの受付の人も誰もいない。
代わりに看板が置いてある。
「当ショップで伝染性の病気が発生し、消毒のため当館は閉鎖しております。お客さまにご迷惑をおかけいたしますがご協力の程よろしくお願い申し上げます」
しまった。電話して確認すれば良かった。
後の祭りで売れ残った芋について思い悩む。
周ろうかなと、スピーカーと祖父の声が入ったテープレコーダを準備する。
何故か自分の声で回ると誰も呼ばないのだ。近所の主婦が「声が合わない」と言っていたので、やめた。
音量を調整してさっそく回る。住宅街はあまり来ないけれどスピーカーで祖父の声を流してそのまま移動、途中で車を止めてしばらくするとおばあちゃんがやって来た。
「おや、若い子が珍しい。芋くれるかね」
おばあちゃんは財布から千円出して渡してくれた。
「毎度、じゃあサービスして5個にしますね」
なるべく大きいやつを選んで渡す。
「ありがとうよ、なあ今テレビで新しい病気流行ってるて言っているが、またマスクしないとダメかの」
「そうですね。みんな病気は嫌だから予防はしたらいいかもしれないです」
「昔もあったけど、何回起きればいいんじゃろうか、はあー」
おばあちゃんはため息をついて家に戻った。
それから夕方まで待ったが誰も買いにこなかった。
あきらめて撤収の準備をする。
帰ろうとした時、「お姉ちゃん・・・」と呼ばれたような気がして、振り返ると、女の子がいた。
10歳ぐらいか、百円を3枚差し出し、「お芋・・・」と一言。
「ありがとうね、じゃあお芋どうぞ」
と紙袋を3枚巻いて渡す。
「熱いから気をつけてね」
「お姉ちゃんありがとう」と女の子は道路の向こうへパタパタかけて行った。
背伸びをして、トラックに乗り込む。
帰る途中、見えた病院の前が結構明るかった。
電灯が全館ついていて、この街唯一の病院も大変だなと、帰宅ラッシュの反対車線を走って、山の家に帰る。
途中で、交通事故もあったみたいで、車が見たこともなく渋滞していた。
途中のスーパーで野菜を少し買って帰った。
何故か、陳列棚の商品も少ないような気もしたが、生鮮食品が投げ売りのように安かったので、嬉しかった。
家に帰り、夕飯はハムとレタスのサラダで済ませた。
明日の準備をして、布団の上でストレッチする。
新聞を読んでたら、自然と眠ってしまった。
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電気付けっぱなしで、寝ていたのに気がつき、布団から飛び起きた。
慌てて外を見るが真っ暗だ。
台所に行って、井戸水を引いた蛇口をひねる。
冷たい水が出てきたので一杯飲む。
「ふぁーーー」
大きなあくびをして、炊飯器のスイッチを入れた。今日は昨日買った魚のすり身をお味噌汁に入れて作ろう。
ご飯はおにぎりでいいか。
今日は芋の様子でも見に行こうかな。芋を洗いながら、山の中腹を見る。
山の中腹には階段上に畑がある。畑では芋もあるが、実はいろんな野菜にも挑戦している。ほうれん草は上手く作れたので、今度はトマトとか、にんじんとか栄養豊富な野菜を作りたい。
段々畑は一人にはちょうどいい栽培場所だ。
そろそろ、空が白くなってきたので、リヤカーを物置から引っ張り出す。古新聞を何枚かリヤカーに乗せる、そういえば今日の新聞をまだ見てなかったなーと、受け箱を見るが新聞は届いていなかった。
まあ後からでいいか、と思いタッパにおにぎりと魔法瓶に味噌汁を入れて水筒にお茶を入れる。
リヤカーに朝食とクワとタオルを置いて、出発となった。
だいぶ明るくなってきた。どこかで、焚き火をしているような匂いがするので、空を見ると煙がいくつか上がっていた。どうやら田んぼの人たちが籾殻やゴミなどを燃やしているのだろう。
山の中腹につくと、まず畑にいる、弥次さんに挨拶する。
「おはよう、今日もありがとう。元気?」
「・・・・・・」
「畑の様子はどう、変わったことはない?」
「・・・・・・・」
「異常なしね、よろしい。引き続き頼むよ弥次さん!」
「・・・・・・・・・」
これだけだと独り言みたいに聞こえるかもしれない。
ちょっと悲しい。
弥次さんの顔についている汚れをタオルで拭く。
微動だにしない弥次さんの目はずっと畑を見つめている。
弥次さんは8G規格のAIで、アンドロイド、つまり汎用性人型機械だ。
この規格はいろんな職種、業務スキル、人格をダウンロードし、取り扱える。
弥次さんは2世代ほど前の機種になっているので、容量がそれほど大きくなく、常時接続で起動しなければ、人のように行動ができなくなっている。
いわゆる動作用アプリをダウンロードをし、その度に課金が発生する。
実は畑の労働が大変で、買ったのだが1日目で弥次さんに仕事内容を説明し仕事を少し手伝っただけで920TB分のダウンロード料金が発生した。どうやら毎回喋るだけでも一回ごとダウンロードが発生しているらしい。
残念なことに今や、弥次さんは畑のカカシとして、雑草や害獣から畑を守ってもらうだけに集中してもらっている。
弥次さんの様子を見た後、芋掘りを始める。軍手を付けて芋を一つづつ取り出す。芋は土を払って、新聞紙を引いたリヤカーに乗せる。
時々弥次さんを見るが微動だにしない。
いつも見るがイケメンに麦わら帽子と作務衣はどうもしっくり来ない。
でも、服買う余裕はないので、しばらくあのままにしておくしかない。
そろそろ、弁当を食べようかとリヤカーのそばで広げるとどっかりと腰を下ろして、おにぎりにかぶりつく。
今日はおにぎりに味噌を付けて焼いておいた。味は中々美味しかった。一汗かいた後の塩分は身体に染み渡る。
お昼寝中、芋掘りの後に畑を突きにきたカラスを弥次さんが追い払っていた。中々勤労しているなと感心する。
リヤカーに乗せた芋を乗せてゆっくり降りる。帰りは下り坂なので、リヤカーは支えるだけで大丈夫だ。
小川の橋を渡り、杉林の間を抜ける。木漏れ日が眩しくそろそろ夕日に差し掛かりそうな感じだ。
家に帰ると手を洗って、 芋を倉庫に並べる。
夕日の差し込み始める中、そういえば夕飯の買い物に行っていないことに気がついた。
どうしようか迷ったが、今日はカレーうどんが食べたくなったので、買いに行くことにした。
トラックに乗り込むと、道路の向こうで数人で散歩している人がいた、結構ゆっくり歩いているので邪魔しないようにトラックのモードを電動に切り替えて、ゆっくりと道路に出る。暗いのでライトを付けてゆっくりと街に繰り出す。
散歩している人はだいぶ年配なのか、音にも気が付かずそのままゆっくりと反対車線を歩いている。挨拶しようと思ったが、暗くて誰かわからないので、そのまま通り過ぎた。
スーパーまできた時、灯りが付いているのに人影がないのが不思議だった。何故だろうとトラックを降りて見るとガラスがいくつか割られていた。そして入り口を車が突っ込んでいた。
あーそういうことか、また運転間違いが起こったのか。
今日はカレーうどんは無理っぽいなぁ
あきらめてトラックに乗り込み、今度はエンジンをかける。
来た道を戻ろうと道路に出た。
スーパーをふと見ると、いつのまにか人がいっぱいいて何故か身振り手振りで何か話し合っているみたいで、店員さん大変だなーと思いながら、
夕飯はほうれん草を入れた素うどんにすることに決めた。
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朝起きると、早速弁当を作った。
いつもの作業をこなし、焼き芋屋の準備をする。
今日は向かいの真琴ちゃんの自転車も無いし、学校は普段通りやっているのだろう。
放課後はお腹を空かせた学生が、焼き芋の匂いに我慢できず、買い食いしてしまう。
だから、結構狙い目なので、学校の近くで通学路のちょっと外れたとこで営業する。余り人が通らない裏路地だが、近道する学生がよく通るのだ。
学校からチャイムが鳴る。そろそろみんな帰ろうとしている頃かな。
早速紙袋とお釣りを用意する。
トラックの煙突から甘いいい匂いが出てきて路地裏を満たしていく。
きっと表通りにも届くだろうその匂いを嗅ぎながら昔の歌を口ずさむ。
トラックで作業中ふと気配を感じたので、後ろを振り向くと、一人学生が立っていた。
あまりにも静かだったのでびっくりしたが、路地の裏は暗く、下を向いていて、顔はよく見えなかった。
ズリズリ、と歩き方がちょっと奇妙だったが、こちらに少しずつ近づいている。
「いらっしゃいませ、いま準備していますが」
声をかけると、学生は一度足を止めて、顔を挙げてこちらを見た。
「っー」
血まみれだった。よく見ると服もボロボロになって所々傷口が見える。
「うあー」
と声が彼から聞こえたが、声なのか呼吸なのかわからない音だった。
その姿に口元を思わず抑えた。
その瞬間彼は両手をあげて襲いかかってきた。