ー今日は、お休み
目が覚めた。
目の前にカッと目を見開いた、血まみれの男子学生の顔が対面していた。
慌てて上半身を起こす。周りを見渡すと、先程の路地裏だ。
どれくらい気を失っていたかわからないが、芋の香りが出来上がっていないところを見ると、数分も経っていないだろう。
静寂の中、自分の息遣いだけが聞こえている。
はあ、はあ、はあ、
途中で他にも、荒い呼吸音が近くから聴こえた。
ハア、ハア、ハッ。
途中で深い呼吸音になって、しばらくすると小さい呼吸音になる。
はあ、はあ
フーースーーフウウ
はあ、はあ
自分の呼吸音がこれほどうるさいとは思わなかった。
呼吸音を響かせながら、確認のため後ろを振り返る。
トラックに寄りかかって、暗がりで両腕を垂らしている女子学生が立っていた。
暗がりでよく見えないが、じっと下を向いて呼吸を整えようとしているようだ。
周りを見渡すと、さっきと違う雰囲気があり、とても静かな感じがし、この場がなんとなく何かが起きた後のような、雰囲気であることは間違いない気がする。
焼き芋を作るだけだったのに、なぜこんなことになったのだろうか。
そういえば、祖父が余所者と間違えられて、急に殴られたことがある事を思い出した。
街にいると、いろんなしがらみがあって、危ないから、気をつけるんだと言われていた。
音を出さないようゆっくり立ちあがろうとする。
ジャリ、とアスファルトから音が聞こえた。
その瞬間、女子学生がこっちを向いたような気がした。
気がしたと言うのは、そっちを見る前に急に足首が引っ張られたから、見れなかったのだ。
さっきの目を見開いた男子学生が足を掴んでいた。その勢いで、立ちあがろうとしたまま身体が横向きに倒れた。
「う、げっ」
思わず手を地面につけられず呼吸が止まる。息ができないので動けない。
そのまま仰向けになると、さっきの男子学生は立ち上がって両腕を私の首元まで伸ばしてきた。
何をする気なのかわからないが、危ないことはわかった。
叫ぼうとした瞬間ーー
トントントンと軽いステップの音が聞こえた。
バレリーナが爪先でジャンプするようなほとんど羽のような軽さの音だった。
その後 パキンと甲高い変な音が聞こえ、自分の目の前が真っ暗になった。
と思ったら女子学生の脚だった。
いつの間にか、女子学生が目の前で思いっきり男子学生の顎に上段蹴りを叩きつけていた。
髪の毛が下方向から、今度はふわりと浮き上がり、そのまま右に揺れた。扇風機みたいな動きだ。
ボフと音がして今度は、空中で仰け反っていた男子学生が鳩尾のあたりに後ろを向いた女子学生の蹴った踵を受けながら、身体をくの字にして路地裏を吹っ飛んだ。
シューーーーー
呼吸音が女子学生から聞こえたと思うと女子学生は右脚をゆっくりと降ろし、スカートを直してこちらに向き直る。
よく見ると、彼女は両腕がぶらぶらしていた。
まるで操り人形の糸が切れたみたいな動きだ。そして髪の毛が日本人形を思わせるほど長かった。
結構顔立ちが整った美人さんだったけれど、ホラー映画に出てきそう!な姿だった。
ーーーー今日は開店無理だなーと思いつつ、今の状況を理解しようと努めると共に、彼女にお礼を伝えようと、震える膝を手で押さえて立ち上がった。
「---------あ
「
うごくな」」
彼女は背後にいた。
頸に息がかかるくらいの距離で低い声が響く。
ゾッとして、自分の動きが停止する。
彼女はいつの間に背後に来たのか、わからない。
はー〜〜と生暖かい息が背後に感じ、
次の瞬間。
襟元からに彼女の大きく開けた口が、深い感覚と共に脳髄を刺激し、ずぶりと沈み込んだ。




