険しき道
「どうしたたたたたた! む、無理いい!」
異変を察知し、ナイフを手に飛び出たムウラであったが、外界に出たことと、シェイの崩壊した体を目の当たりにしてパニックを起こし、すぐさまに士官室へと戻るしかなかった。
「わたしは『独狼』なのだぞ!」
「そういう状況じゃないみたいですよ」
投てき物を回避しながら喚くシルバへ、ノブルが皮肉気に返した。正規の軍人、それも称号もちですら消すというのだから、自分も当然のように狩られるだろう。『奥底の鬼』を持っているが、訓練をした軍人には敵うまい。
シェイの活躍が鍵であるが、半身が吹き飛んでいる状態では期待できまい。
双剣を抜いたシルバと共に、ノブルは顔の見えないカサル兵を迎え撃つ。任務の特性か、あるいは悪趣味な趣向であるかはわからないが、全員が顔を仮面で隠していた。異形に変形していないことから『奥底の鬼』ではないと判断できたが、慰めにならぬほどの無数の兵が並んでいた。
その時、突如夜が明けた。
そうとしかノブルの目には映らなかった。真実が迫るカサル兵らが一気に燃え、空を照らす程の光を発しているのだと気づいたころには、立ち上がるシェイに目を奪われていた。
生存どころか体の形すら失っていた彼は、再生し確かに迫る兵士たちを撃退した。念じるだけで対象を焼き尽くす新たな力を得て、これまで以上に身体能力が向上していた。銀色の腕力、青の跳躍力、緑色の飛び道具……闇に包まれた周囲一帯が手に取るようにわかる。
燃え上がったカサル兵らは、悲鳴を上げる間もなく灰になって崩れていった。夜明けは再び闇へと退行し、シェイ・ムガ改めグレット・ライトマンが赤い涙を流すのだった。
「シェイ・ムガ……」
「グレット・ライトマンすよ、隊ちょ……ムウラ」
グレットは士官室から呻くムウラへ答えて、元凶たるヴァイスタらの姿を探した。
だが、強化された彼の力をもってしても彼女たちの姿をとらえることはできなかった。魔法か、あるいは感知が及ばないほどの遠くへ既に移動しているのか。そもそも。制御装置の異変に気付いた時点で近くにはいなかったのかもしれない。
「こら、どうしてくれるのだ」
シルバが臆することなくグレットをなじった。
肝が据わっているのか、深刻に考えていないのか。恐らく今のシルバは、家族らを含めた仲間を虐殺し、慈悲深い救いの手に砂をかけた『恥を知れ』としてカサルには認識されているだろう。長官とヴァイスタ達にぬかりがあると思えない。いかなる手段を用いても非難を受けぬ、誰もが好む悪として、グレットたちを仕立てあげているに違いはなかった。
あるいはこれすらも、新たな実験の好機ととらえているのかもしれない。
ムウラよりも、ノブルよりも、そしてグレット自身よりも。元の地位と比べた場合、シルバの転落劇は悲惨と言えた。




