その名を
『独狼』の称号には誇りと愛着があったからこそ、それを汚されたと思いシェイを追った。その一方で、喪失してもさほどの動揺を見せなかったのは、どこか能天気なとこがあったからであった。
名前を変えるなどとと言っている、この『恥を知れ』を討ち取る。その想いは変わらなかった。
「勝算はあるんですよね?」
ノブルが、カサル兵らの灰を羽で吹き飛ばしながらシェイへ尋ねた。かつての気高くもはかなげな少女の姿はそこになく、戦士と称しても過分ない勇ましさをまとっていた。
シェイにしてみれば荒廃と映るそれは、彼女には誇りであった。蔑まれ迫害される中、ひたすらに逃げ続け、心を壊さぬために強くあろうとするしかなかった。
だが、今や彼女には力があった。『奥底の鬼』による蛾の異形へ変化した肉体が、何よりも美しく思えた。正しさを貫くには力がいる、手に入れた以上は、自身の正しさを貫いて見せる。
そのためにも、シェイと共に行動する。彼の考えには同調できるし、その戦力は強大だ。『鬼堕ち』へと進化を果たすきっかけも見出せるかもしれない。
何よりも、忌まわしき名を塗り替えてしまうのではという期待があった。
「シェ……グレット……ライトマン?」
「グレット・ライトマンで呼んで欲しいっすね」
「そうか……グレット・ライトマン、ヴァイスタ殿はすでに次の手を打っているだろう」
「ですよね……とりあえず国外に逃げようと思います」
「私も賛成だ。……運んでくれるか? やっぱり外はまだ怖い」
「いいっすよ、ムウラ」
シェイは片腕で士官室を軽々と持ち上げた。腕力のみならず、内部のムウラがまったくそれを感じないほど、力を完ぺきに制御していたのだ。
シルバとノブルも士官室に乗り込み、一行は夜の闇を進んで行った。国外と言ってもあてはなく、復讐を成すよりも逃亡を選ばねばならなかった。
漆黒と評すしかない大地へ踏みしめる一歩一歩がそうであるように、いかなる光明も誰にも見いだせない。向かう先には死があるだけの『恥を知れ』が、とうとう祖国に立つことすら許されなくなっただけだった。
「どうやって、やり返しますかね」
「ニキンに取り入れられれば……」
「無理なのだ、これまで何年戦ってきたと思っているのだ?」
「そこはやり方次第じゃないですか?」
にもかかわらず、グレット達には奇妙に悲壮感がかけていた。その理由は誰にもわからないが、否定することもないというのは一致する見解だった。
カサルとニキンの戦いは続く。しかし、多くが思うほど長期には渡らなかった。果たしてその集結が喜ばしいものか、歓迎すべき者らによるものかはわからない。
確実なのは、刻まれた一つの名を無視することができなくなったという点である。
グレット・ライトマン。恥を知らぬ痴愚の輩にして、仮面をかぶった魔人として伝えられている。




