表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/55

その名を

 『独狼(ロウファン)』の称号には誇りと愛着があったからこそ、それを汚されたと思いシェイを追った。その一方で、喪失してもさほどの動揺を見せなかったのは、どこか能天気なとこがあったからであった。


 名前を変えるなどとと言っている、この『恥を知れ(グレット・ライトマン)』を討ち取る。その想いは変わらなかった。



「勝算はあるんですよね?」


 ノブルが、カサル兵らの灰を羽で吹き飛ばしながらシェイへ尋ねた。かつての気高くもはかなげな少女の姿はそこになく、戦士と称しても過分ない勇ましさをまとっていた。


 シェイにしてみれば荒廃と映るそれは、彼女には誇りであった。蔑まれ迫害される中、ひたすらに逃げ続け、心を壊さぬために強くあろうとするしかなかった。


 だが、今や彼女には力があった。『奥底の鬼(トゥルス)』による蛾の異形へ変化した肉体が、何よりも美しく思えた。正しさを貫くには力がいる、手に入れた以上は、自身の正しさを貫いて見せる。


 そのためにも、シェイと共に行動する。彼の考えには同調できるし、その戦力は強大だ。『鬼堕ち(トゥルス・グレット)』へと進化を果たすきっかけも見出せるかもしれない。


 何よりも、忌まわしき名を塗り替えてしまうのではという期待があった。


「シェ……グレット……ライトマン?」


「グレット・ライトマンで呼んで欲しいっすね」


「そうか……グレット・ライトマン、ヴァイスタ殿はすでに次の手を打っているだろう」


「ですよね……とりあえず国外に逃げようと思います」


「私も賛成だ。……運んでくれるか? やっぱり外はまだ怖い」


「いいっすよ、ムウラ」


 シェイは片腕で士官室を軽々と持ち上げた。腕力のみならず、内部のムウラがまったくそれを感じないほど、力を完ぺきに制御していたのだ。


 シルバとノブルも士官室に乗り込み、一行は夜の闇を進んで行った。国外と言ってもあてはなく、復讐を成すよりも逃亡を選ばねばならなかった。


 漆黒と評すしかない大地へ踏みしめる一歩一歩がそうであるように、いかなる光明も誰にも見いだせない。向かう先には死があるだけの『恥を知れ(グレット・ライトマン)』が、とうとう祖国に立つことすら許されなくなっただけだった。


「どうやって、やり返しますかね」


「ニキンに取り入れられれば……」


「無理なのだ、これまで何年戦ってきたと思っているのだ?」


「そこはやり方次第じゃないですか?」


 にもかかわらず、グレット達には奇妙に悲壮感がかけていた。その理由は誰にもわからないが、否定することもないというのは一致する見解だった。


 カサルとニキンの戦いは続く。しかし、多くが思うほど長期には渡らなかった。果たしてその集結が喜ばしいものか、歓迎すべき者らによるものかはわからない。


 確実なのは、刻まれた一つの名を無視することができなくなったという点である。

 

 グレット・ライトマン。恥を知らぬ痴愚の輩にして、仮面をかぶった魔人として伝えられている。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ