第89話 従う者、従わせる者 ~「ご主人様だーい好きもぐもぐ・・・」
こんばんは
週あけて月曜日、皆さんはいかがお過ごしですか。
私は昨日大きなイベントがあり帰宅も遅くなり資材などのかたずけもあって昨夜は遅くなり今朝は朝から疲れが出てでてキツイ一日でした。
ですが何とか更新も出来ましたのでご覧ください。
では第89話です
大森林
それは広大な木々が根差す森だけを指し示す言葉ではない。
大森林
それはおおよそ東西南北に広がる深い深い森。
人が居住する都市、広大な農耕地、縦横に走る街道、大小の河、大河それらと比べてもその大きさは計り切れない。
何故なら大森林とは言い換えると人を寄せ付けない強大なそして強靭で凶暴な魔物や魔獣の楽園。
人がそこに足を踏み入れその懐の奥深さを計り理解し他者へその物語を語る事の無い別世界、深く足を踏み入れ戻った者は果たしていたのだろうか。
それが前人未到の大森林。
その別世界からこちら側に稀に迷い出る大きい者達もいる。がひとたび姿を見せる時こちら側に住む矮小な者達はそれこそ命を懸けその強靭な者へ戦いを挑むのであった。
時に打ち勝ち、時に滅せられ、都市を人を家族を守るために戦う冒険者や騎士達。
度々では無いにしても各地の大森林に隣接する都市や小都市、街道砦は常に警戒を怠る事は無かった。
ただ、巨大で凶暴な魔物や魔獣を討伐する事が出来た時には得られるものが莫大な価値を持つ。
魔物の革や骨、勿論肉など。そして体内に秘められた魔石と呼ばれる豊富で純粋な濃縮された魔法を蓄えた石と呼べるのか結晶を手にする事も可能だ。
魔法をつかえる物ならその魔石が魔力エネルギータンクとして己の保有する魔力以上の魔法の行使が可能な為高位の魔法使いは是が非でもほしい逸品である。
故に値段は大きさにもよるがこぶし大ともなると個人で購入する事が出来ないほどの価値を有する。
肉や革などなら食用でも加工品でも多少高いが買えなくもない。
骨や牙はそれなりの価格で加工業者が買い取り武器や道具へとさらに付加価値を高め販売される。
命の危険を伴うがそのリスクに見合うだけの物を得られる場所。それも大森林である。
北の大森林の南側を大きく迂回する様に森の脇間道を進む魔馬車2台。
知矢を筆頭とする使用人の一行とニャアラス達であった。
一度小休止で立ち寄った小都市で見つけた煙草をめぐり知矢が失意に落ち込むのを使用人たちはどうする事も出来ずに見守っていたがそこへ
「おい、そんなに落ち込んでてどうするんにゃ。ほれさっさと行くニャ!」とニャアラスの剛腕により摑まれ持ち上げられた知矢は馬車に放り込まれるのであった。いまだ少し放心していたが。
ともあれ「出発だニャア!」とニャアラスの掛け声で一行は気を取り直し馬車をすすめた。
時に馬車を遮る様に小型の魔物が現れる事もあったがそこは元冒険者の二人やニャアラスが素早く狩って荷台の後ろに迫り出してある台の上で器用にもそのまま移動しながら血抜きや内臓を取り出したり皮をはいだりしながら進んでいる。
その脇でピョンピョンがじーっと「・・・・」獲物を見つめるが知矢の許可なしには決して勝手に食べたり魔獣に襲い掛かる事も無かったため使用人たちは知矢の許可を得てからピョンピョン用の更に内臓や肉をより分け与えていた。
「しかし、今更だがこのゴールデン・デス・スパイダーは信じられんほど人の言葉を理解するし、言う事も聞く物だな」元冒険者のギムは魔物を解体しながら脇で大人しく上体をゆらゆらさせながら待つその従魔に感心しきりだ。
「従魔契約ってすごい魔法なのね」と元冒険者のミホも知矢の従魔の様子を感心しながら見て居る。
「いや従魔契約魔法と言えどもここまで大人しく従う事は稀だと思うがな。以前会った事のあるAランク冒険者は従魔使いとして名を馳せていたがそれでも周囲の者には危険だからと近寄らせたり餌も与えさせることが出来ないと言いっておった。それだけ難しいと言う事だ。」
ギムは思い出す様に昔の体験を聞かせていた。
「でもこんなになついて言うこと聞いてくれる従魔なら私も欲しいな。そうね炎の一角ポニーなんて小型で可愛いし、私ぐらいなら乗せてくれそうだし。ねえギムさん従魔の魔法って獣使いの特力ないと使う事は出来ないのかしら?」
夢を描く様に虚空を見上げるミミはふと現実に戻りギムに聞いてみた。
「うむ~、わしも魔法はそれほど詳しくないからのう。サーシャなら魔法研究が趣味じゃから帰ったら聞いてみると良いだろう。だがやはり特力の特性の無い者には難しいかもしれんな。」
ああ残念、と獣使いの特力を持たないミミは残念がっていたがそこへ
「ギムさん、ご主人様の従えた従魔をさらに私たちに従うに命令したりできないのでしょうか。そうすればミミが言ってた炎の一角ポニーをお主人さまが従魔加してからミミの命に従うように命じる事で間接的に使役できるのでは」とササスケが妙案を出してきた。
ギムはううんと唸ると
「理論的には出来そうではあるがあとはその従える魔物や魔獣がどこまでご主人様しいてはその権利を貸し与えられた相手を認識するかと言う事だな。」
「認識ですか」ササスケは解らない顔をギムに向ける。
「そうじゃ、認識じゃな。認識と言うのはそうだな、なんと説明するか。そう従魔加は暗示や催眠、意識を乗っ取るなどの魔法とは異なってなどちらかというと主となる者が従う者にとってどれだけ魅力的か、従うだけの価値があるか、従いたくなるか。そういった気持ちを強く持たせることが出来るかがカギじゃ。
一方的にこちらが望んでも従わせたい魔獣がこちらに一切興味を示さなかったり、逆に殺したいほど殺意を持たれたり。あとそう餌としか見られていなかったりなどではマイナスの認識しか持たれない。
この場合はいくら魔力が強かったりしても駄目じゃ。魔物使いのLVが高いとより相手に好意的な感情が芽生えやすくもっと言えばLVが高ければ高いほど魔物に好かれやすくなると言う事だな。そういった状態を認識。相手がこちらを認め意識し付いていきたくなり命令されれば従いたくなる。それが従魔の魔法なんじゃよ。」
「なるほどね。と言う事はこのピョンピョンは私たちと一緒でご主人様が大好きって事よね」
とミミが傍にいるゴールデン・デス・スパイダーの幼体の背中を指先ですりすりなでると気持ちよさそうにくすぐったそうにもぞもぞしながら手を振る。
「まっそう言うこったな。だがそもそもの出会いが180度違うがな。我々は己のミスで借金を返せなくなり売り飛ばされご主人様に救ってもらえた。その後の高待遇に甘えてはいるがそれでもご主人様を慈しみ尊敬するに値すると思い従っているがこの従魔はいきなりの出会いですぐにご主人様に強い好意を持ち自ら従ったのだ。よっぽど我々よりご主人様の真を理解しているともいえるな。」
自嘲気味に自らの過去を振り返るギムであったが、多くの使用人たちの共通認識でもあった。
確かに一般的な奴隷の待遇とはかなり異なりいやそれ以上に普通の使用人でも得られないほどの待遇を得ている。
それは知矢の能力に対する秘密保持の部分も無くは無いが知矢はその流出を恐れる、防ぐために奴隷を使役するという手を考えた訳では無かった。
単に労働者を雇用するにあたって日本のように募集や面接、採用に至るなど画一的な仕組みも無いこの世界で奴隷商会が抱える奴隷についてはその能力や過去を完璧に把握している事で一種の人材バンクという認識があった。
その人材バンクで希望の能力を聞き採用すればあっという間に使用人が雇える。そんなシステム上の利便性も知矢が奴隷と言う選択肢を採用した切っ掛けでもある。
そして知矢は大金持ちに成ろうと思い商売を始めた訳では無かったので自分の資金の使いどころ、還元先、そして資金や自分の身のカモフラージュも目的であった。
だから使用人には無理せず楽しく一生懸命仕事をしてほしい、そして給料を払いその借金分を清算できたならすぐにでも奴隷身分を解き放ち自由を得て欲しいとも考えていたのだ。
だから金銭的にも使用待遇も良くなるのである。
もっとも知矢は生活能力に欠ける事もありそれを補う人材は急務ではあったが元々行動が多岐にわたり色々活発な事もあり転移前からもあれもこれもと次から次へと思考を巡らせ実行しすぐに人に任せて自らはまた別の事を成す。
そんな人物であったから会社はどんどん人を欲し採用を続けてきた結果大きな組織へと育ったのだった。
収益も十分上がっておりそれ自体には問題は無かったが余りにも次から次へと仕事を増やすためついていく社員たちの苦労は並々ならぬものではあったが不思議と不満を口にし「こんなブラック辞めてやる」等と昨今の若者の様な安易な離職者・転職者は皆無であった。
さてそんな使用人や従魔に好かれている主、知矢はと言うと・・
さすがに1刻の落ち込みからは既に立ち直り今はニャアラスを相手に今後の作戦や行動計画を練っている最中であった。
しかし、実はそんな知矢の頭の中には
「よし、来年春を迎えたらメンテン草を手に入れ誰かに頼み栽培をしよう!そうだ余れば売ってもいいしな」等と自分の好きな煙草の味と香りを手に入れるための思案に入っていた。
「そうだな、どうせならたばこと併せてメンテン草と両方の畑を作るか。確か逃亡農民の奴隷もいるってザイードが言ってたな」と具体的な検討に入っていたのだった。
そんな色々な思いを乗せた魔馬車はゆっくりと歩を進めそろそろ野営予定地点へと迫っているのであった。
「リラレット、トーヤ様が何やら体に良からぬことを計画するかもしれない」
「えっ!サーヤさんそれは何としても御止めしないと」
「・・・禁煙外来?無理」
「えっ外来?」
「ニコ◎ットでも開発?」
「ニコ◎ット?何でもいいです、ご主人様のお体に良い事ならば!」
「・・・・なら世界中のタバコの葉を死滅させる」
「可能であれば、是非!」
「こいつらほっとくととんでもない事を言いだすな。急いで煙草の苗を隠さねば」
気配遮断中の知矢は静かに去っていった。




