第25話 イフリートの炎 ~トーヤ君私の出番は?
本日は調子に乗って2話連続投稿です。
ただし内容が進んでません。
どうぞあたたかく見守ってください
それでは第25話どうぞ
知矢の目の前に並べられたメモ用紙、30枚程は有るであろうか、これらは面接した奴隷候補の中で鑑定にて確認したこれと思う者達を書き記したものだった。
そのメモを見比べ人物を思い浮かべまた他のメモと見比べる作業を先ほどから繰り返しているのであった。
その様子を静かにじっと見つめ様子を窺う二人。
ニーナと奴隷商会長のザイードであった。
静かにじっとと言ったが実は小声で会話を交わしていたがそれは
「ザイードさん、トーヤさんの書いているメモの字なのですが..」
「はい、私もそれが先ほどから気になり懸命に記憶を探っているのですが全く見た事の無いまるで呪文の様な紋様の様な形状、でも羅列されていますがそれは言語、文字であるのは見て取れます。ですがやはり読めませんね。」
「私もギルドで各地方の言語について見聞きする経験はございますがこのような複雑な形状は見たことは有りません」
「トーヤさんのご出身を聞いても?」
「..北の方とは聞いておりますが基本的にそこまでの来歴を問うたり返答する義務も無いので、あとは犯罪歴などが無ければこの国もギルドも全てを受け入れるのが歴史であり、誇る事と..」
「そうでした、その矜持が国を富み民を守り敵を退ける、帝国民として忘れてはいけない事でしたね」
「はい、ですから..」
「ええ、これ以上の詮索は止しましょう」
といった会話がなされていたのだが知矢は選別選考に集中し全く耳に入っていなかった。
二人が言う通り知矢のメモには奇怪な紋様、実は日本語が書かれており無意識に書いていたのだった。
異世界転移をして以降会話や記載する書類など自然とこの国の言語になっていたはずだったが無言で思考しメモをしているうちに気が付いたら日本語を書いていたのであった。
そんな二人の会話が終わったのを合図にするかのように知矢は顔を上げた
「ふーっ、こんな所かな」
やり切った顔をした知矢は二人を見回した
「大変お待たせいたしました、つい夢中で考えていたものですから」
「いえ、お客様にとって重要な事ですので十分に吟味されるのは当然のことです、お気になさらず」
それでお決まりですかと伺うザイードに知矢は別にまとめて記載していたメモを渡した。
「はい、お時間頂いたおかげで決める事が出来ました、このメモの方々をお願いします」
ざっとメモに目を通したザイードは(やはりこの方は鑑定持ちだ、あの奴隷の中からこれだけ的確な人選をするとは)と知矢の力が想像通りだった事を確信するのであった。
知矢に限らずザイードはどの客に対しても公平にトラップを仕掛けていた。
面接に出した奴隷の中に毎回数人容姿と受け答えが良く能力もまあまあな者でだが本性は良くないどちらかと言えば手元に置きたくないような者を紛れさせて出すのである。
この事と選ばれた者から客の考えや能力、人格までも推測するのであった。
そのトラップにまんまと引っかかった者へはもちろん最後には不適切な者が紛れ込んでいたようで申し訳ないと謝罪し販売はしないのが鉄則ではあるが。
特に今回採用、購入希望人数が多かった知矢には相当人数の罠が仕掛けられていたがそのことごとくがリストからはずれていたのを見て確信した。
そして更に選んだ者を詳細に見ると鑑定ではわからない人物像、人柄も適切に見ている事に気が付き ”この若さで!” と戦慄するのであった。
ザイードは10歳でこの商会に丁稚として入会し早35年厳しい修行の毎日で叱られ殴られ蹴り飛ばされながらも人を見る目、見抜く目、人を選ぶ目を体得してきたつもりだ、それには何よりも膨大な経験がものを言う、失敗を繰り返し身に付く事ばかりであり最近ようやく自信が付いて来たかと思いながらもまだ足りないと思う毎日であった。
そんなザイードの目の前でこの若者は完全にほぼ100%に近い選別を見せたのであるのだからそのショックは筆舌に尽くし難い物であった。
ただ、一点安堵した者が有った。
この者は罠には当たらないが選ぶ価値を見出せない奴隷だった、何故この者を選んだのか、まあ、やはり完ぺきとはいかなかったなと微かなほんの微かな安堵の息を漏らしたのであった。
「トーヤさん、拝見いたしました、ではこれより選ばれました奴隷の評価金額をまとめますのでここでしばらくお待ちいただき、お支払いが終わりましたら契約魔法の係を呼びますのでお手数ですが全員との契約をお願いいたします....が...」
...一瞬躊躇したザイードであったがやはりどうしてもこの1人だけ、何故との疑問がわき出て止まらず言葉にしてしまった。
「お客様、大変ご無礼だとは存じますが...」
言い淀むザイードに知矢は
「ああ、支払いならご心配なく、現金でもギルドカード決済でもどちらでも大丈夫ですよ」
と商会長の心配が若い自分の懐を気にしてのことと勘違いして答えた。
「いえいえ、とんでもございません、その様な心配は致しておりません、大変失礼いたしました」
汗をかき拭き知矢の懸念を詫びたザイードだが、ですがとどうしても聞きくことを止める事が出来なかった。
「大変申し訳ありません、私がお聞きしたかったことは1点のみでございます、勿論経済的な心配など微塵も致しておりませんしトーヤ様のお人柄は先ほど来十分に伝わっておりますが...」
どんどん物言いが卑屈になっていいくザイードである。
「どうしてもお聞かせいただきたく、勉強させて頂きたいのです。
この女の奴隷”サーヤ・ベストファール”の事でございます。
どうしてもどうしてもこの女を選んだ理由が私には理解できませんでした。
むろんお客様のお目を疑ったりお選びいただくのもご自由でございますが...その...そのほかに選んだ奴隷の選別眼は大変素晴らしくですがこの女は....」
”サーヤ・ベストファール”数カ月前に取り潰されたベストファール男爵家の長女である。
ベストファール家は帝国建立以前より小国家の重鎮として歴史のある貴族家であった。
工業都市国家の一つに居を構え敵よりの防衛及び侵攻してきた敵軍を迎え撃つ強固な軍、騎士団を有する帝国内でも屈指の家柄であった。
そんな男爵家に5番目に産まれた唯一の女児が”サーヤ”であった。
むさくるしい男所帯の家族の中で産まれた娘に父親の男爵はおろか妻や兄たちもそれは溺愛し大事に大事に育てられてきたのだった。
そんなサーヤだったがただ溺愛されていただけではなく何にでも興味を持ち調べ知恵を出し作り出すその様を周囲は発明王女と持て囃されるほど新たな物、理論を生み出し男爵家、その騎士団、帝国に新たな戦略と、武具を提供し工業都市においても新型の高炉を設計するなど神の理論共言われる技術を編み出した才女だったのであった。
その高炉によって作り出された新たな鋼は”魔鉱石”にも匹敵するのではないかと一時言われるほど素晴らしい物だった。
だが小規模の高炉しか作る事の出来なかったこの世界の技術に満足できなかったサーヤは数倍の規模を誇りその作られる鋼の質をさらに向上させるという新たな新高炉の建設を提案した。
しかしその高炉は余りにも規模が大きくサーヤに部下として教えを乞うてきた技術者達も口をそろえ危険性を訴え技術の成熟と新たな技術革新を待とうと進言したが聞き入れられなく
さらに男爵家の娘に対する信頼と丁度時期に来ていた都市国家首長の座を争っていた男爵の立場を堅固なものにする為のアピールとしてサーヤの提案を推し進めたのであった。
財政上もかなりの負担でありそこまでの大規模な高炉をすぐ必要ではないと現首長である別の男爵は強硬に反対したのであるが軍での実績、小型高炉での成果その他政治利権争いも加わりとうとうサーヤの新巨大高炉が建設されたのであった。
数年を経ずして完成した高炉はすぐに火入れを行い徐々に温度を増して上空に赤く白い炎を照らす出す光景に工業都市の者は喝采を送るのであった。
温度も最高温度に達しこれから最初の製鉄原料を投入しようとした頃、急激に暗闇に浮かぶ雲を照らし出していた炎の明かりに影が差すように新高炉の温度も低下していった。
原因を探すも解らずサーヤと父親の男爵は燃料を追加する事を命じ周囲にいた技師たちの不安を他所にどんどん燃料が追加されていった。
それが功を奏したのか再び新高炉の温度は上昇し安堵したニーナたちは当番の技術者に後を任せ屋敷へ帰り疲れた体を癒し眠りについていたのであった。
それが始まったのは新高炉の関係者以外が眠りについていたおよそ明け方まで2時間ほど前のことであった。
最初は高炉の番をしていた技師の足元に微細な振動を感じた程度だった、何かわからず暫く経つと今度は高炉自体が高周波の様な笛の様な音を発し始めた。
驚いた周囲の者が寝起きで音の原因を聞きつけその後人々が次々に迷惑な音の原因を見るべく新高炉の周囲に群がり遠目で新高炉の周りで駆け回り騒ぐ技術者の様子を眺めていた。
その時であった!
突如起こった地震の様な強い振動、”キューキューーーーーー”と噴き出すような響き渡る高音
すると
”BABABABBABABBABBIBIBBIBIBIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIII”
突如高音を発していた高炉の最上部より真っ白な光り輝く物質が上空へと勢いよく噴き出したのであった
瞬時に周囲の人々は炉が噴出したと察知し蜘蛛の子を散らすかの如く猛ダッシュで逃げ惑うのであった
だがしかし、その猛ダッシュも虚しく吹き上がった高炉からの高温の物体は重力に引き戻されながら周囲に拡散していき人、街、全てのそこに存在していた物へと降り注いだのであった。
まさに地獄そのものであったと距離が離れておりたまたま難を逃れた者はそう語って震えていたという。
落下した高温の物体は高炉の周囲どころか都市半数に降り注ぎ人を焼き、建物を焼き、地面を溶かしその熱は何日たっても冷える事が無く近づく事さえ許されぬ火の精霊イフリートをも連想させて人々を恐怖に陥れたのであった。
何日も冷えない熱に人々は空しくも懸命に川から水を汲み、かけ、水を汲み、かけ何千回、何万回同じことを繰り返したであろうか。
おおよそ人が少し立ち入り事が出来るようになるまで実に半月以上が経過していた。
工業都市の半数に降り注いだ白い熱は周囲にその熱を伝播させて石作の建物を溶かし木製だった建物はその跡形も解らずもやしつくされた。
最終的に工業都市の殆どを焼き尽くしたのであった。
すぐに帝国政府より調査団が送り込まれたが現地には何かを判別する物が無く生き残った技術者や男爵の娘サーヤ、男爵自身等からの事情聴取に重点を置くしかなかった。
結果
・技術的な担保が不足していたのにもかかわらず高炉建設を強行した点
・爆発当時異常な温度低下を確認せずに燃料を追加させた点
・娘の技術を首長選定の欲で推し進めた点
その他状況証拠により司法貴族により一族拘束の上、帝都に送られ裁判を受けた。
判決は私財、領地没収、当主である男爵は家取り潰しの上死罪
兄を初め縁する者は全員貴族位はく奪の上一兵卒へ降格、他の貴族預かり
技術者の最高位サーヤはその知識は惜しまれたが死罪は先の功績により免れ、奴隷階級へと落とされたのであった。
そんなサーヤであったが知矢が鑑定でその詳細を見たところ
・解析魔法LV55
・設計 LV50
・建築 LV30
・数理計算LV80
・料理 LV2
・家事 LV1
・儀礼 LV20
・知性 A級
・耐力 D級
・成長 D級
・武力 D級
・幸力 C級
・筋力 D級
・速力 D級
・魔力 C級
と出たのだったがおそらく奴隷商会の鑑定士では鑑定能力が足りなくそれに気づく者がいなかったのであろう、
知矢がその目を疑がい注目し購入を決めた項目が有ったのだ!
それは
ニーナ「トーヤ君この女誰?」
サーヤ「トーヤこのおばさんうるさい」
ニーナ・サーヤ「「トーヤ君!!」「トーヤ!!」」
ミンダ「うるさいねお前たち、トーヤならとっくに出かけたよ」
この痴話げんかの行方は如何に!
なお本編とは全く関係ありません




