第19話 若かりし頃の冒険譚は? ~「おやすみなさい」「おやすみ」
今夜もなかなか話が進みませんな
進むのはお酒だけ。
では今夜はこの辺で
第19話をどうぞ
もうすっかり宵闇を迎えた中核都市ラグーン、人々既に床に就き始める時間、だが今夜は一部から発生した熱が時間を追うごとにさらに熱を帯びその熱気が都市を詰めつくすのにはそう時間がかからないかもしれない。
通りのわずかに光る魔灯がある交差点などには人々が集い言葉を交わし情報を求めて行き交っていた。
特に商人と思しきものは冒険者とみると声をかけ少しでも情報の真偽を確かめ商機につながるかを見定めるのに必死である。
片や10数年前の騒ぎを覚えているものの中には
「眉唾だ」「そんなわけがない」
「またそんな噂がw」
もしくは当時痛い目にあい逼塞し、そんな話は聞きたくないと背を向ける者など悲喜こもごもであるが少なくとも通りに出ている者達にとっては近年無い衝撃的な情報に沸き上がっているのは間違いない。
そんな通りを疲れた様に背を丸め人目を避けるように歩く男女がいた。
話題の根源、知矢と知矢を騒ぎに巻き込まれない様にとの名目で同行するニーナの姿だった。
「何だか街が思った以上に騒がしいですね」
声を潜め知矢がつぶやく
「そりゃあそうですよ、ひょっとしたら採掘や開発に絡めれば一攫千金も夢ではありませんですからね、そしてトーヤ君と接触できれば甘い汁を、と考える人もいるでしょうから当分は外出には気を付けて知らない人にはついて行ってはダメですよ!」
とお姉さんぶって知矢の保護者の様な気分のニーナだった。
そんな保護者の様なニーナの言葉においおいと思いながらニーナさんは何故ギルドだとトーヤさんで二人きりだとトーヤ君何だろうか?などと考えていたのだが。
「あっ、やっと宿が見えてきましたね、まだ食事できるかミンダさんに聞いてみましょう、頼めば何かしら出してくれるでしょう」と知矢は宿の看板が見えてホッとしながら扉を開けるのであった。
ニーナを伴いにぎやかな気配のする食堂へ顔を出しミンダを探すと
「おい!今夜の主役のご帰還だぜ!!」
「おい!おそいぞ!」
「早くこっちだコッチ」
「おい!ミンダ小僧が帰ってきたぞ」
食堂には大勢の客がごった返し飲めや歌えやの大騒ぎだった。
呆然とする二人に厨房から飛び出てきたミンダは
「おや、二人そろっておかえり!びっくりしただろう、さっきっから馬鹿どもが勘違いして大騒ぎさ、
二人ともまだ食事していないんだろ、そっちの個室に用意するから食べな食べな」
と二人の背を押すように個室に押し込み戸を閉めて出て行った、すると
「この馬鹿ども!これ以上騒ぐなら他の飲み屋にでも行ってやりな!ここは静かに食事をして静かに休む所だ!」
と騒ぐ酔っ払いを追い出す様子が響いて来た。
「この様子じゃうっかり出て行ったり、今夜は静かに寝れそうにありませんね、ニーナさんお送りしますから自宅に戻ってください」
と申し訳なさそうに扉の外の様子をうかがいながら知矢が提案する。
「ダメですよ、トーヤ君が騒ぎに巻き込まれないように守るのも私の仕事ですから、それにミンダさんが気を使ってくれてますからその内この宿の中だけはちょっとは静かになるでしょうから」
と取り合わなく今夜は何があってもこの宿へ泊るつもりのようだ。
まいったなと思っているとミンダと熊魔では無く主が食事を運んできてくれた。
「はいよお待たせ、お腹空いただろういっぱい食べてよね、それとハイ、ビールにワインも付けたよ!ここで二人で静かに祝杯あげな」と山のような料理とワインとビールはそれぞれデキャンタや樽ごとおいていってくれた。
「「あはははは・・・・」」と二人で苦笑いしながらも
「ではお疲れさまでした」
「はいそして初依頼達成おめでとうございます」
「「かんぱーい!!」」
とのどを潤しペコペコのお腹に心づくしの夕食を頬張るのであった。
食事を堪能し未だたっぷりあるお酒を飲みながら今日の出来事の詳細を聞きたがったニーナに順に話をしていったが逆に知矢が聴きたいこともあった。
「ニーナさん、ギルド長が貴族だって知ってたんですか?」
知矢もまさか鑑定を見えなくする隠ぺい魔法など存在するは思ってもいなかった為あの時は静かに推移を見守ってはいたがさすがにギルド長が貴族でしかも辺境伯の息子更に”司法貴族”っていう段階で心の中ではあっ?何だよそれ!と突っ込みたかったのだったが我慢していた。
「はい、辺境伯様のご子息で男爵位をお持ちなのは存じてましたが、日頃があんな感じなのでつい忘れてしましますけどね」とほほ笑む。
「ただ、やはり三男と言う事で他家に養子の道しかなかったことは幼少の頃より言い含められていた為学校を卒業するまでに自ら冒険者の道を選び半分家出状態で貴族世界を離れ生活していたそうです。」
とギルド長の事を語り出したのであった。
ガイン・ベルサシス・バスラム、当時まだ伯爵だったバムラス家の5番目の子、三男に産まれたガインは厳しくも愛あふれる家族のもとで少年時代を送った。
兄や姉、両親、そして大勢の家宰やメイド、騎士に囲まれた少年時代は楽しい思い出しかなかったが高等少年貴族学園へ入学が決まった時兄弟や家族全員の前で将来の貴族である宿命、義務について話を聞いた。
上の兄弟を見ていたので何となく将来は兄が爵位を継、自分は騎士団にでも入るのだろうと漠然と思っていたが父である伯爵より伝えられたのは別家し爵位を与えられる事も無いし伯爵の息子が騎士団などへ入っても上司や周囲がやりにくいだけなのでお前は養子先を探す故婿としてその家に尽くせとの話だった。
騎士になろう、慣れると思い込んでいたガインは日頃から鍛錬を積み父の配下である騎士たちに訓練を受けるなどしていたため自らに課せられた貴族の運命を素直に受け取り事が出来なかった。
そうした不安定な状態で高等少年貴族学園へ入学、規則により5年間の全寮制生活を送ることになった。
この寮での生活や学園において多くの知己を得、貴族の三男の行く末に悲観していたガインに同じ境遇の3男4男、中には8男等もおり境遇を分かち合えたのだった。
その友人たちの中には貴族に見切りをつけ商売を考える者や一層の事平民になって自由に仕事を探そうかなどと言う者までいたがその中で数人、腕に覚えのあるものが”冒険者に成ろうぜ”と剣に自信にあったガインを誘ってきたのであった。
南の国との長い戦争で騎士や兵士の需要は尽きず多くの国民が軍属を希望する中にも冒険者となり自分の才覚や腕だけで一旗揚げるのは商人とも変わらないとただの平民になって誰かに使われるだけでは面白くないではないか!
と如何に冒険者が自由の中にも魔獣・魔物などと戦う厳しさ、時には新たな発見や一攫千金、多彩な冒険が待っている、と誘われたのであった。
そんな彼らも結局は貴族のお坊ちゃんでもあるので聞きかじりの耳学問で夢を語っているだけで本当に貴族を捨てて野に出る事は無かったのであったが。
ガインは違った。
貴族の中のでも一番脂ののった位とも言える伯爵家。
公爵より地位は低いがその権と治める都市、領地の範囲は広く付き合いも帝室、貴族、商家、工家、農民とも付き合いを持ち常に最前線で敵国と戦い復興にも直接かかわる役どころだった。
そんな家と父親や既に実務を経験している二人の兄、大変ではあるが重要な役割をこなす家族を見ていたが心の底では何かが違う、足りないとも薄々感じていた為、友人より”冒険者”の話を何度も聞いた事で己の剣を信じひたすら鍛錬と冒険に明け暮れ時に人を助け、時に弱きを守り獣の森で新たな発見や出会いに感動しでも一つ何かが違えば死に直面する、誰も助けてくれはしない行くのも帰るのも自分次第!
そんな生き方を知ったとき心の奥底で望んでいた世界が、貴族の生活では見えず知り得ず成し得なかったものがそこのあるんじゃないか!と思ったのであった。
高等少年貴族学園をそこそこの成績で卒業したガインであったが伯爵家より卒業後家に戻れと手紙が来ていた。
家に帰ればどこぞの男爵などの娘と引き合わされ有無を言わさず結婚へと続く道が準備してるのは目に見えていた。
この時しかない!そう決心し退寮の翌日より姿を消したのであった。
一応事件になっては自分が困ると思い、家・友人たちへ数通の手紙を残しておいた。
殆ど家出であるがこうしなければ伯爵の息子が行方不明などと大騒ぎになり逆に動きが取れなくなると考えていた。
家から追手がかかることも考え貴族らしい後ろ手束ねていた長髪を切り頭を丸め学園のあった都市を出る前に冒険者登録を行い家名を消しそのまま冒険へと旅立ったのであった。
(若かりしガインの冒険譚は後日別の話で)
「そう言う訳でその事件の解決の功績をもって冒険者ギルドのギルド長に就任した訳ですがそれが元で当時すでに辺境伯へ陸爵していたお父様の目に留まってしまい冒険者のままで良いから仕事を手伝うように説得され男爵に叙され今に至ると言う訳です。」
ニーナによるガイン話はとても面白くそのまま本にしても売れるのではと知矢は思ったが
「あっ、もう既に吟遊詩人にうたわれた後子供向けの冒険物語が出てますよ」
との事でさらにびっくりしたが思わず腹を抱えて笑ってしまった。
そんなこんなで今夜も二人で楽しく酒を飲み大いに語ったが既に宵時も進み疲れも良いもあった俺たちはミンダに頼んでニーナの部屋を用意してもらい二人別々の部屋で寝たのであった。
ちなみにミンダに怒鳴られ追い出された客はしばらく外で騒いでいたようだが三々五々姿を消し宿もすっかり静けさを取り戻していた。
部屋へ戻った俺はクリーンを使った後寝間着に着替え暫く板窓から見える闇の中の都市を眺めていた。
たった数日だが思わぬ事件や発見が有った今日は、一番長い一日となったなあと、思い明日からはもっと騒ぎが広がる事を考えると憂鬱な気分にも少しなるが出迎えてくれたミンダやたくさん話をしたニーナの様な存在を知り合いった事に感謝して寝ようとすると。
「トーヤ君」と闇夜にささやく声が聞こえた。
板窓からのぞくとミンダに借りたのであろうか普段のギルドの制服と異なりくつろいだ柔らかい生地に身を包んだニーナが隣の窓からこちらを見ていた。
「ニーナさん、眠れないんですか?」
うーうんと左右に顔を振り
「トーヤ君の気配がしたから.....寝る前にもう一度顔を見てお休み言ってからから寝ようかなって...」
恥ずかしそうな表情をするニーナの様子に少しドキリと動揺した知矢だったが冷静に冷静にと心で念じ優しい声音で「うん、そうだね、おやすみなさい」
「おやすみなさい、明日も頑張ろうね」
「そうだね」
「じゃあ...」
「じゃあ...」と二人同時に、だが名残惜しそうに板窓を静かに下すのであった。
暗闇で互いを確認する様に手を伸ばし合い、引き合いそして一つにな.....りません。
PV2400アクセス突破、ユニークも660人を越えました。
皆様ありがとうございます。
所で、あのう......何か感想とかってありますかね?
別に無理にとは言いませんしあまり刺されても即死しそうなので...
いや、やっぱり結構です。
ではまたw




