第16話 噛むのも可愛いニーナさん ~誰を狙ってる、中るわきゃねえだろ
外は相変わらずの雨、しかも結構冷えますね。みなさん寝るときは気を付けないと梅雨寒は効きますよ。
では第16話です、よろしくお願いいたします。
ニーナは1人冒険者ギルド近くにある屋台で昼食を食べていた。
「はーっ、今朝の態度は酷かったわ・・にこやかに挨拶するつもりだったのに、つい顔をみたら昨日のことを思い出しちゃって・・・
はーっ、もう幻滅されちゃったでしょうか・・嫌われてしまったかもしれませんね・・・」
殆ど昼食も手に付かず思い悩むのであった。
「ニーナ主任、なに黄昏てんですかw」
と声をかけてきたのは同僚のギルド職員の女の子だった。
「えっ、いえ、別に黄昏てなんかいませんよ、ご、午後の案件について脳内会議していただけでちゅ、す。」
もしこの場に知矢がいたらニーナのカミカミの様子を観て「うわぅ可愛い!」と言っていただろう。
「何1人で黄昏て焦ってるんですか、噛んでますよ主任w」
と女の子はオミトオシ!と言いつつ屋台で己の分も注文すると
「何よ、オミトオシって?わかんない事を言わないのよ」
チョットぷりぷりしつつ動揺を抑え込もうとするニーナだったが
「いやいやいや、主任もうギルド職員の中では噂になってますよ、仕事一筋の主任に春が来たってね」
「ゴフォゴフォオっ、な、何を!言ってるんですか!そんな噂誰が!」
昼食のスープを口にし始めていたニーナは突然の情報にむせかえる
「隠さなくても知ってますよ、それに昨夜通りを楽しそうに二人で歩っていたのを見た人達もいますしね、あの若い新人君ですよね、イケメンだし礼儀も正しくそして何といってもあの強さと冷静さ私でも惚れちゃいそうですけど今回は一番先に唾を付けた主任さんへ譲ろうってみんなで話してました。」
「つば付けたって、あなた達ね!・・・・」
「あっ、そうそう主任はまだ聞いていないでしょうけど!」
「話をそらさない!」
「いえ、その新人イケメン君をいたぶろうとした”ソメッツ”さん昨夜から謹慎処分だそうですよ」
ぇえ!目を見開き驚くニーナであった。
時間は昨夜に巻き戻し知矢たちが楽しく食事を始めた頃の冒険者ギルド、”ギルド長室”
「では!如何あっても娘を謹慎処分にするというのか貴様は!!
このドミワ準男爵を目の前にして最愛の娘”ソメッツ”・ドミワをだぞ!!!」
遮音の防壁を破壊しそうな剣幕で怒り狂う老年の豪奢に着飾った太めの貴族は怒気を隠そうともせず言い放つ。
「恐れ入りますが準男爵殿、ギルド職員の処罰に関しての裁量権は私にあります、そして冒険者ギルドへの貴族の介入は皇帝に名のもとに不可侵と定められているのをご存じ無い訳はありませんよね。
余り無理をなさると司直の介入を呼びますぞ」
と、あくまでも冷静に対応するガイン・パムラスであった。
「何を生意気なこと言っておる!!おお!呼んでみろ、騎士でも騎士爵でもそんな者どもがこのドミワ準男爵に指一本触れる事さえできぬわ!!
それよりも貴様の方が不敬罪と娘に対するでっち上げの罪でギルドを永久追放にさせるぞ!!」
どこまでも強気で言い放つ男だった。
その渦中のソメッソと言えば父である準男爵の脇で勝ち誇ったような薄ら笑いを浮かべ余裕しゃくしゃくの様子であった。
「パパ、そんなに怒ったらギルド長もブルっちゃうでしょ、私は良いのよ、非礼を詫びてそうね主任にして席次を上げてもらえれば、そうそう主任の席は空いていないから代わりにニーナを降格させてくれるだけで許してもいいよ」
とても貴族の令嬢には見えないこの女だが8人いるドミワ準男爵家の最後に生まれた唯一の女児であって為老齢の域に差し掛かっていた準男爵はそれはそれは甘やかしては自由にさせ、歳を追うごとに暴虐無人であちらこちらに迷惑や騒ぎを起こしてきた物も全て権力で無い物にしてきた程であった。
「そうか、お前は寛大な娘だな、よし貴様そう手配しろ明日また来るからなそれまでに準備しておけ!」
「そうそう、あとお詫び金も忘れないでねギルド長」
ほっほっほ~と高笑いをしながらその親子は帰っていった。
残されたガインは、はぁあっっとため息をついて後
「おい、居るか」と誰もないギルド長室に呼びかけた。
「はっ、お傍に」
「聞いていた通りだ、あの馬鹿ども。先日の手紙に続報でこれをあの方へ頼む」
と引き出しから一通の豪奢な封筒を取り出し裏の蝋印を確かめてから机の上に置いた、すると今あったはずの手紙はまばたき程の間に消え去っていた。
「はっ確かにお預かりしあの方へすぐにお渡しいたします」
「頼んだぞ」とガインが声をかけた頃には声の主の気配は消えていたのだった。
「馬鹿がもう終わりだな・・」1人きりの部屋で肩の荷が下りたようにつぶやくガインであった。
さて、所は変わり”魔粉花”を新魔法”探知”を使い探しながら歩く知矢は
「うむ~、この魔法失敗作だったのかな?」と何の反応も示さない新魔法に疑惑を向けていた。
「よし、実験しとかなかったから今から試すか」と魔粉花のイメージを一度消し去り今度は傷に効くポーションの原料である”ナオリ草”をイメージしてみた、
すると
「ワッ!」
一瞬で目の前に浮かび上がっていた半透明のスクリーンモニタに青い点が周囲の至る所に表示された。
足元を見ても確かにナオリ草が生えているし周囲も同じ様子だ。
「まあ、これだけポピュラーな草だからどこでも生えてるよな、って事はやはり魔法は間違いないってことか。」
仕方がない、場所を変えて探知しまくるかと移動を始めたのであった。
1kmほど離れた草むらの中に潜む影が10名ほど。
ソメッソとギャボーズそして雇われた札付きの冒険者たちである。
監視している手下が「姐さん、まだ移動するつもりっすよあいつ、どうします」
とても貴族令嬢とは思えぬ様子で草むらに寝ころび他の冒険者たちと安ワインを飲み合うソメッツは
「だから言ってんだろ、斜陽まで見張ってればいいんだ、見失うんじゃないぞ!」と既に酔っぱらいながら継続する様に言い放つ。
「みんな!今夜にはギルドから詫び金が入る!そしたら今夜は私の昇進とあいつの討伐祝いも兼ねて貸し切りで騒ぐよ!」
とげきを飛ばすと”オオ!!任せとけ!と意気込む冒険者たちはそれぞれ既に頭の中は今夜のピンク色に染まる店の事で一杯だった。
さて知矢というと広大な草原を抜けいつの間にやら周囲はごつごつした岩とその岩の隙間から生えるススキにも似た知矢と同じほどの背丈に育った草むらを歩いていた。
「ちょっと方向が違ったか、生えているのは岩の隙間から切れそうに尖った葉ばかりだしな」
周囲をいくら見渡しても低地にわずかに生える”魔粉花”らしきものは全く無いどころか植物が群生しそうな地面は無い岩場ばかりである。
「う~ん、魔法でドント大金持ち!後はのんびりとか思ったがそうは問屋が卸さないってね、さて戻って今度はもっと右の方へ行ってみるかって、うわっ、そろそろ陽が傾いて来たじゃねえか、今日は諦めて出直すか。」
と帰路へと向かおうとしたがせっかく来たのだからと岩場では無意味だと使っていなかった探知を発動してる事にした。
一日中探知魔法を発動し続けたおかげでLV8に上がり探知範囲も半径1kmほどに広がっていた。
「探知!」と唱える、するとスクリーンの端に微かに青い反応が、そちらを振り向くと一面の岩ばかりであるのは先ほどのススキの様な植物のみ、振り返ってスクリーンの正面に映るとナント一面青い標示が点灯した。
「えっ?どういうことだ?」とそのススキの様な草に近づき今度は「鑑定!」と唱えると。
”魔粉草、魔粉花が花を落とし成長した姿、その根は地下の魔鉱石の鉱脈へ伸びて栄養を得ている”
と表示されている。
「ぇぇええええええっ、そういう事なの!!??
道理で誰も見た目じゃ気が付かない訳だ、しかも草原じゃなくて岩場じゃ小さい花の咲いている頃は岩陰に隠れて見つからないという訳かよ」
知矢は探知の魔法と鑑定のおかげだと感謝するのであった、がその時スクリーンの端に再び新たな反応が出た、しかも今度は赤い点滅が10個、だんだんこちらに近づいてくるのが見て取れる。
「魔物か?」知矢も自身で気配を探るとどうやら人の様だと思い一瞬ほっとしたが危険探知が作動した事を考えると危険が迫っていると改めて認識し、岩の陰からその集団が近づくのを監視し始めた。
300m程の範囲に来ると赤い点滅は散会し真っ直ぐ正面からが3人、後の7人は大きく知矢を囲むように広がり輪を形成しじわじわと範囲を絞ってくるようだ。
100m程まで近づくとやっと顔を視認できるようになったがどこかで見たその顔は一昨日ギルドで知矢に無体な”手合わせ”という名の新人いびりをし逆に返り討ちにあった冒険者とギルド職員の女だった。
「たしかギャボーズとソメッソとか言ったな、という事はこないだの意趣返しか、それにしては人数が多いな、まあそれだけプライドを傷つけられたって事か。」
そんな事を考えているうちにギャボーズたちは30m程まで近づき止まった。
「おい!新人の兄ちゃん!わかっているぞそんなとこに隠れてないで出てこい!」
ギャボーズが叫んだ。
お前らが勝手に来ただけだろ!と毒付きながらゆっくり身を岩陰から出し正対したのだった。
「誰かと思いきやこの間剣をダメにしたおっさんとその情婦か、新しい剣を造る為に岩場で鉱石探しにでも来たのか」
一応様子をうかがうためにからかってみる知矢だったが目の前にはスクリーンが展開され周囲の状況の確認には余念がない。
試しに探知を展開中に鑑定を唱えてみたところ思った通りスクリーン上に近づいてくる者達の簡易的な能力が表示された。
ギャボーズの仲間だけあってそこそこのE、Dランク冒険者だがどれも能力レベルが低く知矢の相手では無さそうだが何故か冒険者では無いギルド受付のソメッソが”弓技LV30”それだけはとそこそこのレベルだったのは意外だった。
しかし知矢は「俺の”弓術”と違い”弓技”って何が違うんだろう?※1)まあ良いか」
思ったがそれより注意を引いたのが
”礼儀作法LV1””教養LV1””品格LV1””儀礼儀式LV1”
その他もし本当に貴族だとしたら有り得ない能力の方に目が行ってしまったのは自分でも笑いがこみ上げてきたようだ。
「何!手前笑ってんだ、誰が情婦だって、お前貴族様に対してそんな口を聴いたからには死んでも文句を言うなよ!!」
と相変わらず貴族とか御淑やかとは全く無縁にしか見えないソメッソだった。
「貴族様だって?この国の貴族っておばさんみたいに品が無くて貧相な奴の事を言うのかww」
知矢も更に煽る煽る。
予想通り激高したソメッソは「このクソガキが!!!ギャボーズ!殺っちまいな」と一歩下がりその場をギャボーズに譲るふりをしてその大柄な体躯の陰に隠れもう一人から弓矢を受け取るのであった。
「おい小僧!この間の様にはいかねえぞ。
ありゃあ何かの仕掛けか魔法でも使ったんだろう、そんな卑怯な手は二度と喰らわねえぞ!!」
と相も変わらず新調したのか盗んできたのかはわからないが又大剣を肩に担いでゆっくりドスドス近づいてくる。
だが知矢はそのギャボーズの視線がちらちら知矢の後背周囲の様子を窺う素振りにも気が付いていた。
探知にもじわじわ知矢へ背後から近づく様子も映っているが知矢の武道家としての鋭敏な感覚でも距離・方向まで掴んでいた。
するとのそのそドスドス近づいていたギャボーズが5m程、知矢にとっては一足飛びで切り伏せられる程度の距離で大剣を担いだまま止まったその瞬間!
ギャボーズの体躯で知矢の死角に入っていたつもりのソメッソが名一杯弓を引き絞り姿を現すやいなや知矢に向けて矢を離ったのであった。※2)
”シュルシュルシュル!!”と羽を鳴らして迫る矢、その方向と勢いは余り高レベルでないとは言っても多少の修練を数年はやったであろう者の矢飛びではあった・・が。
”パシュシュ”と微かな音がすると
矢を離って「ざまあ!w」と思ったソメッソと「よし嵌めた!」とにやついていた二人を驚愕させる光景が有った。
「この程度の矢息※3)で俺を仕留めようなんざ1000年早えぞ、その腕で中る※4)わきゃあねえだろ」
と矢を目の前でわしづかみする知矢が涼しげに立っていた。
異世界転移前、日本に置いてあらゆる武道やスポーツに興味のあった知矢が一番長く修行に励んでいたのが”弓術”であった。
40代の頃には自己の流派”弓術会”を起こし弟子10名を育てた、その弟子がまた弟子を育て更に弟子を・・
と知矢が転移前には既にひ孫弟子がいったい何人いるか自分では把握できていない状況になるほどの道場を率いていた。
実際には補佐官役を置き運営委員会などもいたので支障なく道場を運営していたが当の知矢はそんな事は余り関知せず修練のみに没頭していた。
その結果が”弓術LV120”に表れていた。
だが(@$の加護)とはなんだ?バグか?と一点は気になる事が有ったのだが。
と、知矢が掴んだ矢を打ち捨てた瞬間
「この野郎!!」「死ね!」「ヒャッハー!!」とか喚きながら後背を囲んでいた冒険者集団7人が一斉に襲い掛かってきた。
あああああああ知矢の命もこれまでか!!
と大昔の講釈師※5)がいたらいいそうな場面だがまたしても当の知矢は一瞬体がぶれたと思った途端数歩先に立っており振り返ると襲い掛かってきた7人が互いを斬り合うという間抜けな姿で倒れ伏していた。
「さて、やっとお前の出番かな」とギャボーズに振り替えると「わあああああああ!!」と叫び声を上げながら又しても前回と同じくただ大剣を重みで振り下ろしてきただけだった。
本人には必殺の振り降ろしらしいが。
今回知矢はついとも動じずただその腰の刀だけは上段位に構えそよっと軽く振り降ろした。
ギャボーズは目の前を光が通り過ぎた瞬間急制動で立ち止まったが大剣だけは重力に引かれて地に落ちた、が、知矢を切り裂いたはずだが目の前には涼しく微笑む知矢が立っている。
また大剣を斬られたのかと手元に目を落とすと、
「な、ななななななななななんだ!!!!!!!」
ギャボーズの大剣は握りから先が裂けたように左右へ別れ地面を打ち付けへしゃげていた。
知矢が大剣の刃を縦半分に切り裂いたのであった。
訳を理解できていないギャボーズが「あわわわわわ・・」と後ずさりをするとその額から顔、胸、腹と体の中心から血が噴き出て失血性ショックでその場に後ろ向きに倒れてしまった。
その光景をみたソメッツは
「ギャーーーーーーー!!!人殺し!!!!!!!!」と喚きながら逃げ去ろうとしたがつかさず知矢の放った細身の棒手裏剣を両ふくらはぎに受け転倒し岩場に頭を打ち付け気を失ってしまった。
1人のこされた監視役の冒険者は腰を抜かしたように「あああああああああ」としか発していなかったが知矢が近づくとガバっと土下座の格好になり
「許して下さい!!俺は監視しかしてません、この通りです」
と持っていた細身の剣や腰のナイフ、バックを放り投げて命乞いを始めた。
知矢は「死にたくなかったら全員この紐で手足をキッチリ縛っておけ」と言ってマジックバックからロープを出した。
「へっ?死んだんじゃあ?」
「まあ、このまま一晩放置すれば死ぬかもしれんがそれ程深い傷でもないしあっちの7人は殆ど互いに切れない剣をたたき合って気絶しているものだ、今助けを呼んでやるから縛りながらまってろ、だが逃げようとしたら・・・」
「はい!!絶対逃げません!!信じてください」と喚きながら近くにいる女からロープで縛っていった。その様子を観ていたがけが人に結構容赦なく縛るなと変に少し感心した。
さてと、知矢は上空に向かって腕を伸ばし全力とまではいかないが魔力を溜めこんだ”ファイヤーボール”!!を放った。
一応念のため間を置き数回放って様子をうかっがった。
四半刻※6)を過ぎた頃都市の方から夕陽に照らされ赤く染まる20~30名ほどの冒険者を先頭に駆けその後を馬の様な獣に乗った騎士たちが続いて駆けてきたのであった。
今日の知矢はまだまだ宿に帰れそうにない事をげんなりしながら考え「ニーナさんはもう仕事終わったのかな?」などと思いをはせるのであった。
注釈が長くて申し訳ない。
スルーしてください。
※1) 弓術と弓技は流派の考え方によって異なるとも言えますが簡単に言えば弓術が武術、弓技・弓道がスポーツと思ってください。
※2) 離った・・弓術では矢は放れるものでは無く、離れるものである。
と言った屁理屈の様にも感じる言葉の使い方が有りますがこれは弓の引き方、矢の射ち方の神髄を表現していると言えば格好がいいですかね。
※3)矢息 矢は呼吸しませんが弓道では矢速とか矢勢言いますが弓術では矢の飛ぶ勢いを表する言葉です。
※4)中る(あたる) 一般では当たると書きそうですが弓術ではこう書き呼びます。
弓道でも同じ表現です。
今回は弓、弓術に焦点を当ててしまいました。現代日本に置いてスポーツとして成り立つ弓道ですが全国、世界でも愛好者は極少ない様ですけどね(柔道・剣道と対比して)
※5) 講釈師 人前でお金を取り物語を臨場感あふれんばかりに語るお仕事の人、今では浅草辺りでしか見られないのかな?
※)30分程




