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初デートは危険でいっぱいなのじゃ! 白木ルート?

『そっちに白木君を送ったから、あなたと合流して。サヤさんはさっきのファミレスに来るように伝えて』


 朋花ちゃんからこんな内容のメールがきたのは、模擬刀店を出て少し経ってからのことでした。

 

 白木君と合流? と一瞬疑問がわきましたが、特に断る理由はないので僕は携帯を閉じサヤ姫ちゃんにファミレスに行くように伝えました。



「了解じゃ。儂も小腹が空いてなにか口にしたいと思っていたところなのじゃ」


 火縄銃を貰って機嫌がいいのか、断ることなくサヤ姫ちゃんはそう言って人混みの中に消えて行きました。

 

 

 さて、白木君を送ったとはいえさすがにこの商店街の中で白木君を見つけるのはなかなか大変です。

 せめて白木君がどこに向かったのか朋花ちゃんに訊こうと思い、ポケットから携帯を取り出した時でした。


「こんにちは」


 と、背後から聞き覚えのある声。


「あ……白木君。いたんだね……」


 その聞き覚えのある声に僕は反応し振り返ると、いつからそこに居たのか白木君が僕の背後に無表情で立っていたのです。


「……」

「……」


 そしてお互い見詰め合いながら沈黙します。

 朋花ちゃんに白木君と合流するように言われましたが、実際合流するとなにをしたらいいか分からない僕。

 白木君はただ目をぱちくりさせて突っ立っているだけですし、これならまだサヤ姫ちゃんや朋花ちゃんと一緒にいる方がマシだと思ってしまうぐらい、僕はどう接していいのか分かりませんでした。


「君に少し話があるんだ」


 ようやく喋ったかと思うと、白木君は踵を返してスタスタと一人で歩き出しました。


「あ、ちょっと待って!」


 せめてどんな話か言ってくれればいいのにと思いながら、僕は慌てて白木君を見失わないように後を追いました。





「ここで」


 ただ無言で歩き続ける白木君の後を追い続けていると、気がつけば商店街から少し離れた公園に来ていました。

 

 僕はベンチに座ると、白木君もちょこんと隣に座ります。

 

「君に話したいことがあるって言ったよね?」


 ホッと息を吐く間もなく、白木君はジッと僕の顔を見詰めてそう言いました。


「う、うん。どうしたの?」


 ジッと見詰められるのは苦痛だったので、目を逸らす僕。

 目の前では小さな男の子達が野球をして遊んでいました。


「今日、朋花さんと一緒に過ごしたんだけど」


 白木君は静かに語り始めます。


「僕と一緒にいる間、彼女はずっと君の話をしていたんだ」

「は、はぁ……」


 朋花ちゃん……よりによってなんで白木君の前で僕の話を……絶対わざとやっているよね。


「君と朋花さんが幼馴染みだってこと、朋花さんが君のことがすごく大好きなこと、さっきのデートが一番幸せだったこと……」


 朋花ちゃんなんてことを言うんだ!! これじゃあ白木君にとっては拷問ではありませんか!! 僕が白木君の立場ならもう立ち直れないよ!


「そして……君と一緒に過ごしたあの夜のことを……」

「ちょ、ちょっと待って!! ないよそんなの! ないない! 捏造だ! 作り話だよ!」

「その夜でお互いの愛を確かめ合ったことを……」

「いやああああああ!! 朋花ちゃんの作り話が生々しすぎるよ! 白木君! 僕は決してそんなことはしていないからね!!」


 僕はその場で立ち上がり猛抗議します。

 端から見ればベンチの上で大声を出している変な人です。ほら、さっきまで野球をしていた男の子達が指差してこちらを見ていますが、今はそんなことを気にしている場合ではありません。


「僕はその話をずっと側で聞いていたんだ。……デートの間、ずっと……」

「し、白木君! 確かに君の気持ちはよく分かるよ。僕が白木君の立場なら発狂していると思うし……でも夜のことは本当に嘘だ! 朋花ちゃんの作り話だよ! ほら、自慢じゃないけど僕はまだ卒業していないんだ! 妖精を目指しているんだよ! えへへ」


 僕の冗談にも白木君は一切笑わず、気がつくと白木君は虚ろな目で僕の顔を見ていたのです。

 その瞳には、光が宿っていませんでした。黒く、黒く、まるで白木君の心の状態を表しているかのように瞳が真っ黒になっていたのです。


 そして。


 コロコロ……と男の子達が使っていたプラスチックのバットが白木君の足元まで転がってきて、白木君は無言でそれを手に取ります。



「そうか……そうだよね……あは、あはははははは」


 白木君は手に持ったバットを見詰め、不気味に笑います。

 男の達はその異様な光景に怖くなったのか、一目散に逃げ出しました。

 

「し、白木君……?」


 僕は恐る恐る白木君に呼び掛けましたが、白木君はずっと笑っています。

 

 ここで僕はハッ! と小学生の頃を思い出しました。


 それは……ずっといじめられっ子だった男の子が、いつものように集団でリンチされている時……そう、そうです! 彼も今の白木君と同じような目をしていました! 彼はまるで内なる獣……決して目覚めさせてはならない獣を呼び覚まし、いじめていた男の達を圧倒したのです!!


 白木君はまるでその時の男の子のようで……決して目覚めさせてはならない獣を呼び覚まそうとしているのです! ああ、何とかして僕がとめ……。


 ガコンッ!


「ヒィィィ!!」


 どうやら遅かったようです。 

 白木君は手に持ったバットを振り回し、僕がさっきまで居たベンチに大きなひび割れができたのです。


 僕はなんとかベンチを降りて助かりましたが……、


「あは、あはははははは」


 ユラユラと僕に迫ってくる白木君を見ると、どうやら僕は完全に白木君にロックオンされたようです。


「お、落ち着いて白木君!! そのバットで僕になにしようと……」


 ブンッ!! 僕の目の前にバットの先が通過。僕が少しでも回避が遅れていると僕の顔はあのベンチのように割れていたでしょう……って、こんなに悠長に構えている場合ではありません!


 僕は踵を返してダッシュ!! もちろん白木君も後を追って来ましたよ。


「君がいるから……君がいるからぁぁぁぁあああ!!」


 ヒィィィ!! 白木君はまるで獲物を狩る獣のように僕を追ってきます! 

 ああ、こんな時になぜサヤ姫ちゃんはいないのでしょう。

 

 霊は霊でも英霊で僕がそのマスターならすぐにでもサヤ姫ちゃんを呼ぶことができるのですが、サヤ姫ちゃんの場合、もはや地縛霊に近い存在だから僕に迷惑がかかるような事ばかりしかしないのです!


 いや、今回の場合は全て朋花ちゃんのせいでしょう。

 あのアマめ。僕が無事だった場合、絶対仕返しをしてやる……。


 そんな事を考えながらグルグルと公園の中を逃げ続けていると、さすがに体力の限界です。


「おわっ!」


 しかもこういう時に限ってさっき逃げた男の達が忘れたボールに足を取られ、僕は尻餅をつきました。


 そしてユラユラと白木君がバットを引きずって僕に近寄ります。

 もう、おしまいだ。

 

 僕が死を覚悟した時でした。


「主よ!! これを受け取るのじゃ!!」


 聞き慣れた声に顔を向けると、公園の入り口にはサヤ姫ちゃんの姿があったのです!!


「さ、サヤ姫ちゃびぇ!!」


 僕が名前を言い切れずに奇声を発したのには理由があります。

 僕の腹部にドスンと落ちた火縄銃があまりにも重くてかなりのダメージを受けたからです。


「ひ、火縄銃……これでどうしろと……?」

「撃つのじゃあ!!」 


 と、サヤ姫ちゃんは言います。

 僕は火縄銃を取り、銃口を白木君に向けて──。

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