第6話:姉さん曰くカオスな日々
とにもかくにも、ずっと外にいるのもアレだと思ったので、俺たちは全員居間に集まった。
「ふんふん。なるほど、事情はわかったは」
ずずり、とお茶を啜りつつ、姉さんは頷いた。一応いつきの事と理事長――ちなみに姉さんも知っている――からの頼まれごとを伝えたのだ。
「で、頼りになる人誰かいないかなーと考えていたときに、ちょうど姉さんが帰ってきたっつーこと。まさか幼女連れてくるなんて思わなかったけど」
俺は姉さんの背後でお茶請けの菓子を咀嚼している幼女―月子を見た。
「わたしだって知りませんでした。さえきお義姉さんに弟さんがいるなんて……しかも異性と二人っきりで一つ屋根の下に住んでいるなんて」
「いろいろツッコミたい部分があるがスルーして、姉さんどうにかならないかな?」
「さえきさんお願いします。わたしたちじゃ難しいんです」
いつきも頭を下げる。さあ、姉さん返事はいかに……!
「ん~……そうねぇ、初対面の人の頼みを、その冬馬ちゃんが聞いてくれるかどうか」
さすがの姉さんでも苦しいか。仕方ない、こうなったら最後の手だ。
「なあ、姉さん。頼みを聞いてくれたら、なんでも一つ姉さんの要望を聞いてやる、て言ったら……どうだ?」
「ホント?」
「ああ本当だ」
瞬間、姉さんの中のスイッチがONになった。その場ですくっと立ち上がり、親指を立てた。
「わかりました。木村さえき、愛する弟のために一肌脱ぎます!」
われながら扱いやすいというかなんというか。嘆息しているとススス、といつきが寄ってきた。
「大丈夫なの?」
「さあな。だけど月子のことをみれば分かるだろうが、姉さんは他人と仲良くなることが得意だ。冬馬もどうにかなるだろ」
「そう、かなぁ?」
小首を傾げているいつきのことはとりあえず置いといて、
「よし、今日はもう遅い。いい加減お開きにしようぜ」
居間の中に視線を巡らせながら俺は言った。
翌日。
「やあ春人くん、なんだか久しぶりな気がするねえ。冬馬くんのことを頼んだのが数ヶ月も前のような感じだよ」
学校に行った俺たちはすぐに理事長に呼ばれ、理事長室へ行っていた。
「数ヶ月も何も、頼まれたのは昨日のことっすよ?」
「そうだったかな? しかし僕らにとっては昨日の出来事かもしれないけど、ほかの人にとっては大分日が経ってるのかもしれないよ?」
「……なんのことですか」
フフフと笑っている理事長に対し、俺は呻いた。そのとき、隣に座っていたいつきが控えめに手を挙げた。
「あのお、理事長。それでこんな朝早くから呼ばれた理由ってなんなんですか?」
いつきナイス。俺は心の中でいつきを賞賛した。
「いやね簡単なことだよ。君たちを呼んだ理由はね、例によって冬馬くんの事に関してだよ」
「冬馬のこと、ですか?」
冬馬のことは姉さんに任せたから、姉さんが理事長に連絡したのかもしれない。そういえば今日姉さんと月子を起こしに行ったとき、姉さんの姿だけなかったことを確認している。
「うん。実は僕がここに来てちょうど君のお姉さんから電話がきてね、『弟から話は聞きました。彼女のことは私に任せてください』って言ってきたんだよ」
「理事長、すいません。あたしに任せてくださいって言ったのに……」
いつきが申し訳なさそうに言ったが、
「別に君たちを責めようとしている訳じゃないよ。僕にとっては冬馬くんがもう一度学校に来てくれれば問題はないからね。ま、今回の頼みは君たちには分が悪すぎただけさ。適材適所という奴かな」
その言葉に嘘偽りがないことはなんとなく判った。やっぱりこの人は大物だ。
そのとき、コンコンと硬質な音が聞こえてきた。誰かがドアをノックしたのだ。
「噂をするとかな? 入りたまえ」
理事長がドア越しに促すと、ゆっくりとドアが開いた。そしてその先に立っていた人物は、
「来てやったわよ」
理事長の予想通り、藤咲冬馬だった。
「うん、やはり電話で言われた通りだ」
「電話で言われたって、姉さんからですか?」
一応、理事長に確認してみる。冬馬が俺のほうを睨むような気配を感じたが、とりあえず黙殺する。
「ああ。さっきの続きだけど、お姉さんがどう説得したのかは定かではないが、こうして冬馬くんが無事に登校してきたんだよ」
「へ、へぇ」
一体どのような説得をしたのかは知らないが、なにも問題はない……ハズ。
「やっぱり春人君のお姉さんに任せて正解だったね」
「うーむ、でもなんか気になるな。帰ったら姉さんにでも話を聞いてみよう」
いつかと同じようにいつきが寄ってきたので、俺は耳元で囁いた。
「ちょっと」
背後からいきなり冷え冷えとした声が届いたので振り返ると、冬馬が不満度100パーセントで腕組をしていた。
「な、なんだよ」
軽く仰け反りながら聞いてみると、
「貴方……あの人の弟なの?」
そんなことを聞いてきた。
「そーだけど、なんだ? なにかあるのか?」
「……別に、なにもないわ」
小さく舌打ちをしておきながらこの美少女は何をいうのか。だがそれ以上のツッコミを俺は放棄した。なんというか本能が、それ以上聞くと殺されかねないぞ、と訴えたような気がしたからだ。
「さて、と。本題も無事に終わったからそろそろお開きにしておこうかな。始業時間までちょうどいいころだし」
理事長の言葉で、俺は壁に掛けられている時計を見た。時刻は8時35分、あと5分ほどでHRが始まる。
「じゃ、行くか」
「そだね」
俺といつきは揃って理事長室を出た。
学校が終わって、俺といつきは帰路についていた。
「ただいまー」
家になかに誰かが居ようが居なかろうが、帰ってきたら必ず帰還報告をするのが家の決まりだった。
「お姉さんも月子ちゃんも居ないね」
「多方二人揃って買い物にでも行ってるんだろ」
なかに誰もいないとなると、やるべき事は決まっている。
「今のうちに夕食の支度と風呂掃除をしておくか。いつき、風呂の方を頼めるか?」
「オッケー」
軽く答えると、いつきは自分の部屋に直行した。さて俺も準備を始めますか、と考えながら靴を脱ごうとしたとき。
ピンポーン。
チャイムが鳴った。
「帰ってきたのか?」
二人が帰ってきたのかもしれない。俺はそう思って門のところまで向かう。聞こえてきたのは、
「助かったわ~。月子ちゃんついて来てくれてありがとね~」
「わたしもこの家の住人なので、当然のことをしたまでです」
「うふふ、頼もしいわ~」
やっぱり姉さんたちだった。早く入れてあげないとなと考えながら門を開けると、そこには出かけていた二人――だけでなく。
「な、なにいいぃぃぃぃ!?」
「いきなり貴方は何を叫んでいるの?人の迷惑も考えなさい」
三人目がいた、しかもそれは冬馬だった。なぜかキャリーバックを持っている。
「な、なんで……!」
驚愕を隠しきれない俺に対し、あとの二人は平然としている。
「え~とね春人くん、簡単に説明しておくわね」
姉さんの微笑みがさらに増す。イヤな予感、素晴らしくイヤな予感。
「今日からこの藤咲冬馬ちゃんも、木村家で生活することになりました~」
……。
…………。
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!?」
みなさん、おはようございますこんにちはこんばんわ。久しぶりのいざっくです。
最近個人的な理由により更新が遅れてしまいましたが、無事掲載することができました。生温かい目で見てもらっても結構です。そんなことで挫けるいざっくじゃないんだからネっ!