Episode:98
廊下はやたらと静かだった。
(泊りがけの演習ですしね。当然ですか)
考えながら歩を進める。
通信網の状態から見て、内側から外への連絡を意図的に切っただろうことは分かる。問題は誰が何の意図でやったかだ。
(まぁ、職員の誰かでしょうね)
高位通話石を1つだけ遮断するのなら、出来なくもない。だがバックアップの稼動まで意図的に止められるのは、アクセス権限を持つ一部の者だけだ。
それが生徒でないのは、考えるまでもなかった。
だが一方で、最も権限の大きい学院長がしたとは思えない。彼はやや甘いところはあるが性格は温厚で、少々のことでも寛大に許すことが殆どだ。だからこんな嫌がらせまがいのことはしないだろう。
そうなると、対象はほぼ絞られてくる。
(――学院長と対立する連中、ですか)
生徒のどこまでが気づいているかは分からないが、職員間には派閥が出来て二分している。正確には「勝手に分派活動をしている」と言ったほうがいいかもしれない。
片方は学院長を中心とするものだ。属しているのは古株の教官が多く、学院長が直接採用した人が殆どらしい。性格もみなやや甘いところはあるものの、いかにも教師らしい子供好きばかりで、学院生にも慕われている。ただかなりの数が分校へ転任したり辞めたりで、最近はごく一部になっていた。
そしてもうひとつが、副学院長を中心とするものだ。
こちらは新しく赴任した教官が多いのだが、タシュアの目から見て教師として問題がある者がやたらと多かった。技術的にもごく当たり前の水準で教える立場としては力不足だし、性格も高圧的で教師としては問題がある者ばかりだ。
だが古株の教官たちが居なくなった後を埋めるように次々と採用されたため、現在ではかなりの数にのぼる。ふだん受ける感触からすると、職員の半数どころではないだろう。
その副学院長派が、何かとうるさい上級生たちが居ないタイミングで何かやらかした。それがいちばんありそうだ。
もっとも副学院長はじめ深く考えないうえそそっかしい者ばかりなので、単純に誤ってバックアップまでダメにした、という可能性もゼロではないが……。
そんなことを思いながら踊り場まで来て、タシュアは足を止めた。
自室にいるときからやたらと静かだと思っていたが、上の階からも人の気配が感じられない。
(この階なら分かりますが……)
ここは個室ばかりで、上級隊ばかりだ。そして今日は泊りがけの演習があるため、任務でなければそちらへ行っているはずだ。だから無人なのはおかしくない。
タシュアがここに残っていたのも偶然だ。予定ではもう少し任務に時間がかかるはずだったが、成り行きで徹夜となったために早く片付いて、早々に帰って仮眠していた。