Episode:124
「す、推論て……わかるわけないじゃない!」
「やっぱりね」
からかうような皮肉っぽい笑みをうかべつつ、シェリーが口を開いた。
「まぁヴィルじゃしょうがないけど。――いい? この件の要点は、『なぜ』副学院長がそんなことをするのか、ってことよ」
思いもかけない指摘だったのだろう、ヴィルが目を丸くする。
「なぜ、って……そんなの訊かなきゃわかんないでしょ」
「それじゃ敵の行動は読めないわよ」
シェリーに言われて、ヴィルが口を尖らせる。
――もっともこの辺は、なぜかヴィルはできるのだが。
なぜそういう結論に行きつくのか分からないが、彼女のカンは並外れている。特に実戦となると冴えていて、何の根拠もなく、なのにもっとも正しい答えやルートを掴んで来るのだ。
但しこれだと他人を説得できないので、計画立案には何とも不向きなのだが……。
とはいえその動物的カンは桁外れなので、それを知っている人は、ヴィルの直感は常に頼りにしていた。
ただこういう理詰めとなると、彼女は完全にお手上げだ。
「で、ヴィル、あなたの推論は?」
「わかんないってば! 教えてよ!」
ついにヴィルが音を上げ、シェリーが冷ややかな、だがどこかしてやったりという笑みを浮かべる。
「しょうがないわねぇ。これで上級隊だって言うんだから、先が思いやられるわ。――いいこと、この件は全体的におかしいのよ」
「そりゃそうでしょ、副学院長が反乱なんてそもそもヘン。自分で巣穴壊すようなもんじゃない」
ヴィルの反論に、シェリーがほんの少し見直したような顔をした。
「どうしてそう思ったの、ヴィル」
「どうしてって言われても……でもさ、やっぱヘン。あり得ない」
やれやれ、とシェリーがため息をついた。
「理由が言えないんじゃしょうがないでしょう」
「そんなこと言われたって、ヘンなものはヘンなんだってば!」
――この説明が出来ないあたりは、まさにヴィルらしい。
例によって抜群のカンで要点は見抜いたようだが、やはり例によって理由は分からないのだろう。
それでも理由が分からないまま、そのカンに従って取る行動は、後で見ると正解なのだから不思議だ。
シェリーも同じことを思ったのだろう、面白がるような表情でヴィルに訊いた。
「じゃぁ百歩譲って『ヘン』だとして。あなたならどうする?」
ヴィルが考え込む。
「巣穴をわざわざ壊すんだから、別に巣穴があるんだよね……じゃぁ、最後はここから出ようとするはず。だから船着場押さえなきゃ」
「そういうことだけは分かるのに、なんで毎回筆記試験が追試なのかしらね」
シェリーの言葉にヴィルが口を尖らせた。
「別にいいじゃない、ちゃんと単位はもらえてるんだから」
「どうせもらうなら、一発でもらいなさいな」
毎度の応酬を聞きながら、私もいろいろ整理してみる。
たしかにこの件は、全体的に「おかしい」。
そしてその最大の理由はヴィルが言うように、副学院長が反乱を起こしていることだろう。
学院長にもしものことがあった場合は、記憶違いでなければ、副学院長がそのまま昇格するはずだ。
つまり副学院長は次のポストを約束されているも同然で、あえて乗っ取る必要などない。
「……そういうことか」
「あら、どういうこと?」
私のつぶやきにシェリーが反応した。
「何が分かったか、訊かせてもらえるかしら?」
「えっと……」
何をどう言うべきか、頭の中で考えながら言葉をつむぐ。
「つまりその、副学院長は……反乱を起こさなくてもそのうち昇進、するのだろう?」
「学院長より長生きすればね。それで?」
シェリーが私の言葉の続きを待つ。