表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
124/124

Episode:124

「す、推論て……わかるわけないじゃない!」

「やっぱりね」


 からかうような皮肉っぽい笑みをうかべつつ、シェリーが口を開いた。


「まぁヴィルじゃしょうがないけど。――いい? この件の要点は、『なぜ』副学院長がそんなことをするのか、ってことよ」


 思いもかけない指摘だったのだろう、ヴィルが目を丸くする。


「なぜ、って……そんなの訊かなきゃわかんないでしょ」

「それじゃ敵の行動は読めないわよ」


 シェリーに言われて、ヴィルが口を尖らせる。

 ――もっともこの辺は、なぜかヴィルはできるのだが。


 なぜそういう結論に行きつくのか分からないが、彼女のカンは並外れている。特に実戦となると冴えていて、何の根拠もなく、なのにもっとも正しい答えやルートを掴んで来るのだ。


 但しこれだと他人を説得できないので、計画立案には何とも不向きなのだが……。

 とはいえその動物的カンは桁外れなので、それを知っている人は、ヴィルの直感は常に頼りにしていた。


 ただこういう理詰めとなると、彼女は完全にお手上げだ。


「で、ヴィル、あなたの推論は?」

「わかんないってば! 教えてよ!」


 ついにヴィルが音を上げ、シェリーが冷ややかな、だがどこかしてやったりという笑みを浮かべる。


「しょうがないわねぇ。これで上級隊だって言うんだから、先が思いやられるわ。――いいこと、この件は全体的におかしいのよ」

「そりゃそうでしょ、副学院長が反乱なんてそもそもヘン。自分で巣穴壊すようなもんじゃない」


 ヴィルの反論に、シェリーがほんの少し見直したような顔をした。


「どうしてそう思ったの、ヴィル」

「どうしてって言われても……でもさ、やっぱヘン。あり得ない」


 やれやれ、とシェリーがため息をついた。


「理由が言えないんじゃしょうがないでしょう」

「そんなこと言われたって、ヘンなものはヘンなんだってば!」


 ――この説明が出来ないあたりは、まさにヴィルらしい。


 例によって抜群のカンで要点は見抜いたようだが、やはり例によって理由は分からないのだろう。

 それでも理由が分からないまま、そのカンに従って取る行動は、後で見ると正解なのだから不思議だ。


 シェリーも同じことを思ったのだろう、面白がるような表情でヴィルに訊いた。


「じゃぁ百歩譲って『ヘン』だとして。あなたならどうする?」


 ヴィルが考え込む。


「巣穴をわざわざ壊すんだから、別に巣穴があるんだよね……じゃぁ、最後はここから出ようとするはず。だから船着場押さえなきゃ」

「そういうことだけは分かるのに、なんで毎回筆記試験が追試なのかしらね」


 シェリーの言葉にヴィルが口を尖らせた。


「別にいいじゃない、ちゃんと単位はもらえてるんだから」

「どうせもらうなら、一発でもらいなさいな」


 毎度の応酬を聞きながら、私もいろいろ整理してみる。


 たしかにこの件は、全体的に「おかしい」。

 そしてその最大の理由はヴィルが言うように、副学院長が反乱を起こしていることだろう。


 学院長にもしものことがあった場合は、記憶違いでなければ、副学院長がそのまま昇格するはずだ。

 つまり副学院長は次のポストを約束されているも同然で、あえて乗っ取る必要などない。


「……そういうことか」

「あら、どういうこと?」


 私のつぶやきにシェリーが反応した。


「何が分かったか、訊かせてもらえるかしら?」

「えっと……」


 何をどう言うべきか、頭の中で考えながら言葉をつむぐ。


「つまりその、副学院長は……反乱を起こさなくてもそのうち昇進、するのだろう?」

「学院長より長生きすればね。それで?」


 シェリーが私の言葉の続きを待つ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ