第42景 三途の川の川縁で
私達は『赤十字の旗』を先頭に、川縁に沿って歩いて行きました。
すると・・・、先の方に「五人の兵隊」さんが座って居ります。
兵隊さん達は焚き火を囲んでおりました。
河村看護兵が声を掛けると・・・。
兵隊さん達は蜘蛛の子を散らす様にマングローブの林の中に逃げて行きました。
私達を敵と間違えたのでしょうか。
私達は焚き火の跡を通り過ぎました。
すると後ろで兵隊さん達が何か騒いでいます。
振り向くと焚き火の周りに、皆さんが集まって居ます。
私は食べ物の残りでも有ったのかと思い、急いで焚き火の所に戻りました。
緒方軍医長達も戻って来ました。
するとそこにコンガリ焼けた肉の塊と、内臓の様なモノがバナナの葉の上に載せてあります。
私は「野豚」でも仕留めて食べていたのかと思い、葉の上に載る「ご馳走」を見つめていました。
すると突然、軍医長が、
「見るなあッ!・・・行くぞ」
と怒鳴り、先に行ってしまいました。
私はあまりの空腹にたまりかねて、焼け残った肉を一片頂戴しました。
焼きたての肉は実に美味しかったです。
肉なんて食べたのは随分昔の話しでした。
私が食べている所を見て、一人の兵隊さんも仲間に入りました。
私達は顔を見合わせ笑いました。
『頬っぺたが落ちる』とはまさにこの事です。
二人が食べているのを見て、他の兵隊さん達も集まって来ました。
兵隊さん達は、残りの「焦げた肉の塊」を食べ始めました。
すると緒方軍医長が急いで戻って来て、突然、私の頬にビンタを喰らわしたのであります。
軍医長があれほど怒った顔を見たのは初めてです。
緒方軍医長は焚き火の傍に茂っているマングローブの樹の根元に私を引きずって行きました。
「コレを見ろッ!」
私は『それを見て』、その場で食べたモノを吐き出しました。
そして泣きながら腿の肉が削ぎ取られ、内臓が見えている『日本の兵隊さんの御遺体』に合掌しました。
その御遺体の手に握られた空の飯盒には、白いペンキで「飯田」と云う名前が書いてありました。
軍医長は私をきつい眼で見て怒鳴りました。
「看護婦で有る事を忘れるな! この事は絶対に言ってはならぬ! この島で遭った事は全て忘れろ。ヘドが出る」
私は軍医長の『その言葉』を聞いて、悔しくて、悔しくて涙が止まりませんでした。
私はその『悔しさ』が、何なのか分かりません。
そしてその悔しさが何処から来たモノか、いつまで続くのか、どの様に消えて行くのかも分かりませんでした。
私は俯いて、また列に戻りました。
側に流れる川を見て、この川は『三途の川』ではないかと思いました。
私達はまさに、「三途の川」の川縁を歩いている様な気がしてなりませんでした。




