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第19景 辿り着いた補充兵

 私の問診帳に『極楽蝶』がとまっています。


その日は私と崔 軍医が受付で、『壊れた兵隊さん』の問診をしていました。

すると、五人の土民が兵隊さんを背負って受付にやって来ました。

背負われた兵隊さんは「着いた、着いた〜ッ!」と気が狂った様に騒いでいます。

外が騒がしいので、野嶋婦長さんが病院から出て来ました。

婦長さんは土民達の言葉が片言ですが分かる様です。

そして崔 軍医に、


 「砂浜に沢山の日本兵が倒れています」


と報告しました。

崔軍医は『ソレ』を聞くや、驚いて急いで緒方軍医長に報告に行きました。

暫くして、崔 軍医と緒方軍医長、渡部軍医等が病院から出て来ました。

崔 軍医は受付を渡部軍医に代わってもらい、緒方軍医長と二人で浜に向かいました。

一時間ほど経過した頃でしょうか。

私と渡部軍医が受付で並ぶ兵隊さんをサバいていると、緒方軍医長と崔 軍医が年配の兵隊さんを背負って戻って来ました。

治療室に向かう背負われた二人・・・。

治療室で緒方軍医長が背負って来た兵隊さんに事情を聞いています。

すると一人の兵隊さんが、


 「ダンピール海峡で輸送船が攻撃され、私達は海に飛び込んで逃げた」


と言ったそうです。

軍医長は、


 「輸送船?」


そして再度、確認する様に、


 「ユ・ソ・ウ・センだな」


と聞き返していたそうです。

緒方軍医長のその顔は薄笑いを浮かべ、間延びしていたと同席した高山看護婦が言ってました。

そして、軍医長は崔 軍医に『タル』があるはずだと訳の分からない事を耳打ちしたそうです。

崔 軍医は怪訝な顔で、


 「タル?」


と尋ねると緒方軍医長は黙って治療室を出て行ったそうです。

崔 軍医と高山看護婦は急いでお軍医長の後を追うと、軍医長は兵隊さん達の横たわる筵のベッドの中ほどに立ち、ニコニコしながら、


 「手足が付いて、歩けるものは立ってくれ」


と叫んだそうです。

それを聞いて、三十名ほどの兵隊さんが立ち上がりました。

緒方軍医長は立ち上がった兵隊さん達を見回し、


 「・・・これから、浜に行く!」


と号令を掛けたそうです。

崔 軍医は「まさか浜に上がった兵隊達を助けに行くのでは」と思ったそうです。

すると、


 「樽を探しに行く!」


と軍医長は言ったそうです。

兵隊さん達からはどよめきが起こり、


 「タル? タル?」


と騒いだそうです。

中には、


 「酒樽か?」

 「いや、味噌樽だ!」

 「バカ、棺桶だ」


などと冗談を言って、大笑いをする兵隊さんが居たそうです。

すると真剣な顔で緒方軍医長が、


 「宝物タカラモノだ」


と言ったそうです。

兵隊さん達は驚いて、


 「ダンピールの宝物か。何処かで聞いた事があるぞ?」

 「バカ、それを云うならソロモンの宝物だ」


と大笑いをしてたそうです。

するとまた軍医長が、


 「まさしく、その通りだ! その宝物を探しに行く。今、立った者は外に出て並んでくれ」


と言ったそうです。

暫くすると痩せた兵隊さん達が「だらしなく」中庭に並びました。

最後に出て来た緒方軍医長は居並ぶ兵隊さん達を見回して、


 「これだけの人数だ。敵の戦闘機に見つかるな! 向かうは吉良屋敷ではなく、隠れる場所がない砂浜だからな」


と気合いを掛けました。

兵隊さん達は笑いながら、


 「はい」


と、頼りのない返事を軍医長に返しました。


 「じゃ、行くぞッ!」


の緒方軍医長の号令一喝、兵隊さん達は全員で砂浜に向いました。

勿論、その時は「私」も呼ばれ、同行しました。

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