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―戦― 02:VS テラスト連合国 前編


 星歴(せいれき)3004年。夏も終わりかけの、万朶(ばんだ)紅縞(べにしま)の出来事だ。うだるような暑さがまだ引かずに体力が削られる季節。

 第二次グラス戦争が始まって一年は過ぎている――。




 きんいろの雨の中、ひときわ巨大で鮮烈な光を(まと)って戦うマギナが居た。

 たった一機。

 姉の補助としてトゥラーザ国のマギナに乗り込んでいたルルゥは、周囲のウラノメトリアを操作して感知したのだ。

 大なり小なり、ハンドラーたちはその光を放っている。ウラノメトリアを操作する際に放つ、力の光だ。姉もまた美しくもか細い光をもっている。


「なに、あれ」


 姉の声がひび割れてルルゥに届く。恐怖に(ゆが)むのも仕方がないと言えた。

 トゥラーザ国とテラスト連合国の衝突はこれが初めてではない。確かに情報はもらっていた。知っていた。

 テラスト連合国の国境を守るハンドラーの中に、化け物が混じっていると。

 四方をすべて別の国に囲まれているというのに、テラスト連合国は孤立しながらも一切その領土を他国に奪われたことがない。単純に、防衛の中に危険なハンドラーが混じっているのだ。

 そのハンドラーがどの国境の基地に配置されるのかはまったくわからない。とにかく出会ってしまったら、死を覚悟するしかないと言われていた。

 他の機体とまったく同じマギナだというのに、手には特殊な武器であるカレイドアームズを持っている。その小さな特徴は目印にはならない。そのマギナがたった一機でこちらの部隊に突っ込んで来たので判明しただけだ。

 無茶苦茶だ。


 戦略というよりは、特攻だ。


 テラストという国は基本的に防衛戦をしていた。侵略戦争だというのに、資源を進んで奪いに行くようなことをしない。疲弊していくはずの戦いの中、そこまでして自国の護りに入る意味をルルゥは理解できなかった。

 だがこのマギナを見て、違うのだと理解した。

 この化け物を最大限に使う為に、テラストという国は防衛しているだけだ。この化け物が敵を薙ぎ払い、叩き潰していくのだから。


 空を駆けるような奇妙な滑走で、そのマギナはこちらの部隊に襲い掛かって来た。目視できるだけですでに二機、撃沈している。コアを武器で貫かれているので、乗っているハンドラーはすでにこと切れている。

 たった一機が、(まばた)きほどの時間で。

 巨大な人間のようななめらかな動き。それは搭乗しているハンドラーの力量の表れだった。動きを細かく連動させているほどの、能力者。ウラノメトリアの操作が優れている……その言葉で表現するにはあまりにも規格外だ。

 マギナは単純な兵器のため、外と通信ができない。同じ部隊の仲間であっても、不可能だ。そもそもこの世界は通信技術が発展していない。統制のとれない部隊は意味がない。いみが、ないはず。


(だから、たった一機?)


 国境を移動しながら守護するこのハンドラーは、誰かと共に戦わない。その必要がない。

 持っているカレイドアームズが、瞬きしただけで形を変えている。巨大な鎌のような形に、刃が、かわ、って。


(姉さま!)


 その攻撃にルルゥが反応して姉に警告の信号を飛ばす。操縦者であるフィフィは妹の意志に引っ張られてマギナを動かす。一歩だ。

 動かなければコアを真横に斬られていた。周囲のマギナが五機すべて、真横にその刃で斬り裂かれていた。

 マギナは外側だけのマシンだ。内部には高濃度のウラノメトリアを含んだ空気が充満しているのみで、動力のラヴァーズのほかはハンドラーしかいない。装甲のみの、はりぼて兵器。


 ずどん、と真っ二つになったマギナの装甲が地面に、おちた。


「ひっ、なに、なんなのっ!」

 姉が悲鳴を上げている。瞼を閉じて膝を抱えているままのルルゥは眉間に皺を寄せながら必死に相手のことを探る。

 しかしその感知が弾かれた。

(っ、今のは)

 敵マギナの、ラヴァーズの仕業だ。

 ルルゥは一気に冷汗が噴き出た。

 脳裏に浮かぶのは、あの世界会議に参加していたテラスト連合国のハンドラーと、そのラヴァーズだ。

 赤い髪の少女と、亜麻色の髪の美少年。深紅と漆黒の軍服を身につけた、奇妙な二人組。どう見ても、姉と自分の敵ではないと判じていた。

(嘘……。知覚が、ちがう)


 ちがう。


 すでに捕捉されている。照準が合わせられている。なんという演算速度。なんという、広範囲の知覚と探索能力!

 技に優れた兵士、戦闘能力に()けたハンドラー。そんなものとはまったく次元が違う、圧倒的な、異常なほどの操作能力を持っている、敵!

 あまりにもまばゆい金色の輝きを放つマギナは、姉の視界ではただのテラストの識別証をつけた無骨なものにしか映っていない。能力値が高いだけではこの光景は見えないだろう。ウラノメトリアの光を知覚しているルルゥだからこそわかる、恐怖だった。


 まただ。瞬きをする間に武器が、敵の武器が変わっている。こちらの軍のマギナのコアに届かない距離のはずだ。だが届いている。振るわれた一撃の際に、周囲のウラノメトリアを瞬間的に集めて刃を伸ばしている。そんなことがあっていいのか、そんなことができていいのか……そんなことをできる人間が、マギナに乗っていていい、のか?


(逃げなきゃ)


 思考が支配される。逃げ、逃げなければ、今すぐ、いま、っ今すぐに!!

「ああ、ああああああああああああああああああ!」


 絶叫が喉から(ほとばし)った。


代替者(ポルックス)、」

 声が。する。

 ルルゥは(まぶた)を開け、まっすぐにその視線を敵に向けた。マギナの装甲の、その向こうへ。

 相対する絶対的な、敵。

 脳裏に過ぎる様々な記憶。

 最強の己を呼び出し、ひとの味方となって散った英雄。頂点に居ながらも孤独で在り続けた王。一輪の花でいながら群がる蟲によって枯れた鎖の姫。だれにも縛られずに旅を続ける鳥。ひとの願いの究極に達した聖なる依り代。ちがうちがうちがうちがう! かれらでは、()()()()()

 目まぐるしい、ウラノメトリアの過去と現在、そして未来に刻まれている、保存されたひとの姿。繰り返す、組み替えては誕生する個体。失敗を繰り返す。成功したと思ったらそれらは失敗作で。

 きんいろの光の中、銀の糸が揺れた。

 ちがう、ちがう!

 おまえではこの目の前の敵へは届かない。

 もがくように手を、両手を、のばす。のばす!


 いる。

 ――――居る。

「ああああああああああー! 宿(やど)れっ、救世主っ!」

 必死に伸ばした手を、握り込む。

 ばちん、と目の前で火花が弾けた。

 握った手の先を、ルルゥは見上げる。

 赤い髪の女がいた。見覚えがある姿だった。

 たった一度だけ見た、あの少女にとても似ている。とてもよく、似ている。

 彼女はこちらに視線を向けてから、小さく笑った。彼女の年齢は二十を越えていたが、穏やかな蒼の瞳で――――ああ、これ、は。


 未来。


 強烈な金色の光が、ひらめいた。




 遮蔽扉が内側からの圧力に負け、べきんと曲がった。足元からの音にびくりと反応し、フィフィは視線を下げる。妹が居るその場所は、しんと静かだった。

「ルルゥ?」

 声をかけるが妹からの反応がない。

 とてつもなく不安な中、ハッとした時には正面に敵がいた。身構えるフィフィだったが、その動きはマギナに『伝わらなかった』。


 連結しているはずのマギナが、まったく違う動きをしたのだ。


 かるく、手を払った。

 まるでごみでも払うような、簡素な動き。

 それだけで敵機が強烈な一撃を受けたように吹っ飛んだ。え、と思うよりも先にフィフィの乗るマギナが跳躍した。信じられないほどの高さへ跳んだそれを、地上から見上げる敵機が捉えていた。

 みえる。

 みえた。

 二つのマギナはまったく同じ動きをした。

 間にある空間で凄まじい衝突音がした。

 持っているそれぞれの武器に負荷がかかる。負けたのはフィフィのほうだった。なにもしていないはずが、マギナの手にしている専用のカレイドアームズがぐちゃりと溶けた。しかし両機とも同じ姿勢のままだ。その中間にある場所では強烈な風が吹き荒れ、凄まじい火花が散っている。

 『干渉』が目に見えることへの驚愕でフィフィは震える。

 空気が(きし)む。耳鳴りがするほどのゆがみ。

 溶け続けている武器を気にもせず、フィフィの乗るマギナは攻撃の手を止めない。なにが起こっているのかわからない。

 敵機のハンドラーがこちらを凝視しているのさえ、フィフィは気づかない。マギナの操作をしているのは、妹のルルゥだからだ。



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