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「初めまして。澄田と申します」
数日後、かをると澄田家の当主が会合した。場所は澄田の管理する有栖川邸の応接室あった。
両親は別室で待機している。かをるは一人で如月国へ渡ろうと思っていたのだが、父も母も着いて行くと言って聞かなかった。
澄田の当主として紹介されたのは、短めの黒髪に琥珀色の瞳を持つ、狼のような鋭さを孕んだ男らしくも美しい顔立ちの男性だった。歳は三十手前くらいで、如月国宮内庁で働いているらしい。
「狭山かをるです。初めまして。お呼びたてしてすみません」
「いえ。構いませんが、どんなお話でしょう」
初対面なので当たり前だが、澄田がどんな人かは全く分からない。良い人なのか悪い人なのか、まだ全然判断が出来ない。
けれど如月国についてほとんど何も知らず、お金も、強い異能も持たない。今のかをるには守るべきものを守る力は全くない。
信用の出来る人であるならば言うことはないし、信用の出来ない人であるのならば利用する。
「貴方にお願いがあって参りました」
「お願い?」
「私がこの先、祝福の花を産んだあかつきには、その子を守って欲しいんです」
澄田の表情からは感情が読み取れない。
「祝福の花については、私の一存でどうこう出来るものではありません。ですから約束は出来ません」
淡々とした返事だった。
冷たいようにも聞こえるが、言っていることはまさにその通りという内容である。
「第一に、守るとはどういう意味で仰っているのですか」
「祝福の花として生まれ付いた以上は、勤めを果たすことを望まれるのはやむを得ないと分かっています。勤めを果たすことは仕方ないとしても、利用されるのは嫌なのです。ですから彼女が利用されることがないように」
祝福の花はいずれ禍の王を封印する役目を果たさねばならない。けれどそのためだけに消費されるだけの存在にはならないように、自分で自分の生き方を選べる年齢になるまで守り育てたいのだ。
けれど祝福の花として才能が開花すれば、幼かったとしてもきっと如月国に連れて行かれる。そして何も分からないまま、花は枯れるだろう。
「お気持ちは分かりました。必ず最後に勤めを果たすと約束してくれるのならば、出来る限り協力しましょう。そしてその時には、ただ使われ消費されることはないように守りましょう」
「え、……本当に?」
こんなにあっさりと協力が得られるとは思わず、間抜けな返事をしてしまった。
案の定、澄田は怪訝な表情をした。
「どうして協力してくれるんですか。まさか油断をさせて……なんてことはないですよね」
澄田は呆れた様にため息をついた。
「正直に言って、貴方たちくらい油断をさせなくとも捕らえることなど簡単だ。貴方の敵対しようとしている相手は国家なのですよ」
「でしたら、どうして貴方は私に協力すると言うのです。貴方に利はないですし、それに貴方は官僚でしょう」
彼は中央省庁で働いている国家公務員だ。如月国の、もっと言えば日本国の機関に所属し、国全体に関わる仕事をする役割を担うべき人だ。
頼っておいて何だが、こんなにも簡単に個人に、しかも祝福の花に関わることで協力をするなどと言っても良いものなのだろうか。なんだか彼のことを信じ切れない。
「官僚の前に、私は澄田で有栖川の分家です。どこまで行ってもどれほど血縁が薄くなったとしても澄田にとって、有栖川は本家であり家族なのです。それに私には息子がおります。子供を想う親の気持ちは理解しているつもりです」
あまりにも優しい口調だった。これを演技でしているのであれば、もう騙されても仕方がないと思った。
それにかをるは彼を頼るほかないのである。如月国に彼以外のつてはないし、あったとしてもその人が彼以上に信じられる存在かと言えばそうではない。どうやったって目の前の彼に賭けるしかないのだ。
「疑うようなことを言ってしまって申し訳ございません。どうかよろしくお願い致します」
かをるは深く頭を下げた。
「失礼ですが、具体的にどうやって守るか策はあるのですか」
「実は全く……策はないのですが……」
さすがの澄田も、無策で如月国に乗り込んで協力を依頼するという無謀さに呆れただろうか。
しかし彼は小さく頷いて、真面目な表情で提案をした。
「ではこういうのはどうでしょう」
彼の提案はこうだった。
もしもかをるの子、もしくは孫に祝福の花が生まれた場合、成人するまで異能を封印する。そして成人を迎えたら如月国や祝福の花、異能についての知識を与え、封印を解除する。
「異能を封印するって、どうやって? 何よりも強い異能を封印する異能なんてあるのですか」
「あるじゃないですか」
澄田はかをるを真っ直ぐに見つめる。
「貴方が持っている異能は“盾”ではありません。おそらく“封印”です」
「封印?」
「貴方の異能で、祝福の異能を封印するんですよ。幸い如月国は貴方の異能を“盾”だと思い込んでいる。まさか帝の下位互換の異能で、抵抗されるだなんて思っていないはずだ」
ここからは知っての通りである。
澄田の提案通り、かをるは凛が“祝福”を持っていると分かった瞬間に、その異能を深く強く封印した。
かをるの死をもってしても、封印が解けることのないように。




