表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
きさらぎ国奇譚  作者: 如月ざくろ
みずかね製薬編
66/66

7

 鳳家の当主である辰巳と、氷室家の長男である棗、そして次男である颯太朗の会合は、鳳家の客間で秘密裏に行われた。その場には棗と颯太朗の祖父であり、みずかね製薬の代表取締役会長である財界の大物――氷室ひむろ佳通よしみちもいた。


「話を整理しましょう」


 重たい空気の中で最初に口を開いたのは、氷室家の顧問弁護士であった。

 幸久は黄昏派議員秘書を名乗る因幡悟志と共に、異能を移植する実験を行っていた。その実験により幸久は眠りを与える異能を移植して貰い、その異能を利用して董子に呪いを掛けた。本来は祝福の花である凛に呪いを掛け、解呪し、恩を売るつもりだった。

 すべては氷室家に異能の血を、異能による栄光を手に入れるためだった。

 これが事件の全貌であった。

 あまりにも身勝手で欲望にまみれていて、弁解の余地はひとかけらもない。


「すべては愚息の不徳の致すところです。改めて大切なお嬢さんに危害を加えてしまったこと、大変申し訳ございません。本来は愚息に謝罪をさせるべきところですが……」


 その場に立ち上がった佳通は、床に頭がついてしまうのではないかと思うくらいに深々と頭を下げた。

 辰巳は淡々とした口調で答える。


「幸久社長が僕の娘に危害を加えたことについては、許せることではありません」


 大切な娘に危害を加えられては、父親として許せるはずがないだろう。


「けれど僕も董子も、棗くんや颯太朗くんに恨みはありません。ですからこれ以上の罰は求めていません」

「寛大なご配慮に感謝致します」

「みずかね製薬は如月国の誇りです。立て直しが出来るように協力できることがあれば、力になりたいと思っています」


 娘である董子が原因不明の眠りに落ち、父親としてどれだけ不安で恐ろしかっただろうかと思う。幸久のことは恨んでいるだろうが、その息子である棗と颯太朗に対しては憎悪を感じさせない。それどころか、信頼が地に落ちたみずかね製薬の立て直しにすら、協力を申し出てくれている。


「辰巳さんのご期待に応えられるよう努めて参ります。この度のことは大変申し訳ございませんでした」





 一週間ほどの自宅療養を経て、董子は復学した。ひと月近く病欠していたとは思えないほど元気に通学をしている姿や、董子と楽しそうに話す凛の姿を見て、魁星は改めてほっとしていた。

 幸久社長のほうはと言うと、結論から言うと己の罪を償うこととなった。彼のしでかしたことは殺人未遂である。刑事罰は免れない。私利私欲からあれほどの罪を重ねれば、当然のことだと言えるだろう。詳しくは聞いていないけれど、鳳家からの温情などにより、実刑判決にはならず執行猶予がついたそうだ。

 みずかね製薬も経営陣の入れ替えや組織改革を行い、事業を継続することとなった。


「協力してくれてありがとう。魁星が協力してくれなかったら、ここまで早く問題解決は出来なかっただろうと思うよ」


 魁星と颯太朗は、大学の学習室で久しぶりに顔を合わせていた。

 久しぶりになってしまったのは、事件のことが広まってしまったことと必要単位を既にある程度取得していたことから、颯太朗が登校を控えていたからだ。


「俺は何もしていませんよ」

「俺の話を信じて助けてくれただろう? ありがとう、魁星」

「お役に立てなのならよかったです」


 魁星のしたことといえば、ただ颯太朗の話を聞いていただけだ。問題解決には何も関わっていない。魁星のあずかり知らぬところで、問題は起こり原因解明が起こり、そしていつの間にか解決していた。何をしたわけではないと思っている。

 けれど颯太朗が感謝をしてくれているのなら、嬉しいことには違いない。素直に感謝の気持ちを受け取ることにした。


「ところで颯太朗さんはこれからどうするんですか」

「このまま大学は卒業するつもり。卒業した後は表に行くよ」

「颯太朗さんらしいと思います。俺も応援しますよ」


 みずかね製薬はこれから彼の祖父である佳通と兄である棗を中心として、立ち直ろうとしている。もともと棗はみずかね製薬を継ぐために、関連企業で経験を積んでいた。だから棗がみずかね製薬を継ぐのは確定だろうが、颯太朗も創薬学科にいるということは少なからず家のことを考えてそうしているのだと思っていた。それは如月国の、親の稼業を継ぐという暗黙のしきたりに、魁星自身染まっていたのかもしれない。


「俺も魁星の恋を応援するよ」

「いや、俺は……」

「あんなにあからさまなのに、どうして凛は気付かないんだろうね?」


 油断していたところで恋心を露わにされて、しかも鷲掴みにして握りしめられて、どっと汗が吹き出した。

 ついこの間、凛が好きだと言うこの気持ちはまだ隠しておくと表明したはずだ。その気持ちはまだ変わらない。凛にこの想いを伝えることは、まだ早いと思っている。颯太朗だって、まさか忘れてしまっているわけではあるまい。

 どこか楽しそうな颯太朗の表情に、魁星はようやくからかわれていることに気付いた。


「……颯太朗さん」

「冗談だよ。魁星が望まないなら俺は勝手なことはしない。でも助けが欲しいなら協力するって言いたかったんだ。勿論、恋愛のことじゃなくても」


 颯太朗の申し出は嬉しい。けれど魁星はそれ以上に気になるワードがあった。


「俺、そんなに分かりやすいですか」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ