50. 王都
「わぁ、凄い人がたくさん!」
「あれ、見て!」
「何あれ!?」
王都の街に入った途端、賑わいを見せる街の雰囲気に馬車の窓から覗いていたミラとルイはキャッキャと歓声を上げた。
レトナーク領地から王都へは途中宿場町で一泊し、馬車で約二日ほどの距離にある。
長時間の馬車での移動で、ぐったりとしていたミラ達だったが、立派な外門に囲まれた王都の姿が見え始めた辺りから徐々に元気をみせていた。
身分確認をする大門ではそれなりの時間が掛かってうんざりとしていたものの、街に入るとすぐに元気を取り戻し、レトナークの町とは比べ物にならない大勢の人間が行き交う賑わいと華やかな街並みに目を奪われていた。
――懐かしいわね。
以前に義理の母であるリリーとミラと一緒に王都へ芝居小屋を観に訪れた時、私も今のミラ達のように大興奮していたことを覚えている。
あれから一年か。
私は正面に座るミラに視線を向けた。
お父様譲りの明るい金色のふわふわとした髪を靡かせ、エメラルドグリーンの目をキラキラとさせて、外の景色を堪能している姿は、思わず目を惹きつけられてしまう愛らしい美少女だ。
今回の道中、彼女は一年前リリーを亡くした事故を思い出し、山道では蒼白の顔で懸命に涙を堪えていた。
今はこうして元気な顔を見せてくれているが、やっぱりミラにとって精神的にキツい旅路だったに違いない。
そんな彼女に対して、長い間嫉妬していた過去の自分が居た堪れなくなる。
愛らしい妹と比べ、ダークブロンドの髪にダークブラウンの瞳といった平凡な見た目と、ギョロリと吊り上がった目がコンプレックスだった私は、母親からの惜しみない愛情と父親に似た美しい容姿をしている彼女が憎らしくて仕方がなかった。
ミラに対し、散々酷いことをしていた私は、まさに悪役令嬢そのものだっただろう。
しかし、それが事故の衝撃により、前世の記憶を取り戻し、私は生まれ変わった。
今までの自分の行いを反省し、ミラと和解し、私は尊敬されるお姉様になるべく志を新たにしたのだった。
――思えば、未来を変えるために奮闘した怒涛の一年だったわ。
特に、ゲームの物語と同様に新しい継母と義弟がやって来てからは……。
私はミラの隣で仲良くはしゃいでいる義弟に目を向けて、その睦まじい様子にそっと微笑んだ。
ミラと同い年のルイは、ゲームでいうところの攻略対象キャラで、艶のある黒髪とぱっちりとした大きな青い瞳を持った可愛らしいフェイスの少年である。
女の子顔負けの愛らしい顔立ちに加え、中身も結構乙女チックだったりして、素直で優しい義弟に私はメロメロだった。
彼が屋敷に来てからミラも明るくなって、なんだかんで仲の良い二人に、ヒロインと攻略対象の絆を感じられずにはいられない。
ーー問題は彼の母親のパトリシアだ。
私は前方にある小窓の隙間から、前を走っているお父様とパトリシアが乗った馬車を見つめた。
パトリシアが来てから一悶着も二悶着もあって大変だった。
お父様と二人で毎晩のように社交場へ繰り広げ、自由奔放に我が物顔で伯爵家を乗っ取ろうとするパトリシアははっきり言って頭痛の種である。
お陰で早い段階で領地運営に関わることができたが、今度はそれに気づいたパトリシアが私の婚約話を持ってきて、次期当主への進路を絶とうと画策してきたのだった。
相手はこの国の第七王子。
伯爵令嬢が簡単に婚約を断ることが出来ない雲の上の存在である。
王都に家族総出でやってきたのも、その顔合わせのためであった。
――はぁ。ゲームのシナリオ通りとはいえ、王子と婚約だなんて気が重いわ。
王都に近づいてからずっと見えている、高台に建てられた立派な城を眺め、私は重いため息を吐くのだった。
――――――
活気のある街並みを抜け、馬車は貴族達の暮らす居住区へと入った。
王都にいる間は、王族関係者が用意してくれたゲスト用の邸宅に宿泊することになっている。
賑やかな城下町と打って変わってとても静かで、洗練された空気が漂っている気がする。
宿泊に使う邸宅はそれほど大きいわけではなかったが、隅々まで掃除が行き届いており、飾られた調度品や備え付けの家具もセンスが良く、口うるさいパトリシアもそれなりに満足した様子だった。
「はぁ、疲れたわ」
部屋が整えられるなり、私は着替えもそこそこにベッドの上にダイブする。
体が鉛のようにガチコチでクタクタだった。
何より、長時間馬車に座りっぱなしだったので、お尻が痛い。
「グレースお嬢様。はしたないですよ」
お小言を言うのは侍女のマリアだ。
彼女は持ってきたドレスなどの衣装をカバンから取り出すと、テキパキとクローゼットに入れていく。
「いいじゃない。少しくらい。ああ。折角、王都に来たんだから街に出かけたいわね」
「お嬢様、そんなお時間はありませんよ。すぐに旦那様達と一緒に方々に挨拶周りがありますからね。それに二日後にはお城で王子様との対面ですよ。のんびりしている暇なんてありません」
「ええー。そんなー」
思わず嘆くが、私は忙しそうに動き回るマリアを見て、口を噤んだ。
ゴロゴロとベットに寝転がる私なんかより、マリアの方がずっと忙しそうでそれ以上は文句は言えない。
屋敷から連れてきた使用人の数は限られている。
その為、普段私の専属として動いているマリアも今日は他の仕事も兼任しなければいけない。
私の着替えが終わったら、夕食の支度の手伝いに行くと言っていた。
「そう言えば、私が挨拶周りしている間、ミラやルイはどうするのかしら?」
今後の予定を思い出し、マリアに訊ねた。
「ミラお嬢様達はパーティに向けて行儀作法やダンスの練習をなさるそうです」
「そっちも大変ね」
城下町をはしゃいで眺めていたあの子達にも王都を楽しむ時間をあげたい。
せめて、パーティが終わったら観光する時間が取れればいいけれど。
投稿再開です。
ここから第3章になります。
引き続き、お楽しみいただければ幸いです。




