39. お嬢様のプレゼン会③
私はバンとテーブルを叩いて身を乗り出し言った。
「広告塔を立てればいいのよ!」
勢い良く提案する私に対して、ハインツとセドリックはポカンとした顔を見せる。
「広告塔?」
「有名人に宣伝してもらうってことよ!」
私が説明するとセドリックは「ああ」と頷いた。
「確かに貴族の中には自分で開いたサロンやパーティで自領の商品を広めたりしておりますね。しかし、お嬢様。どなたにそれを頼むですか? どなたかツテでも?」
セドリックの質問に私はニヤリと笑った。
「ツテなんか探さなくても、うちには目立つ広告棟が二人もいるじゃない」
「……なるほど、旦那様と奥様ですか」
すぐにピンと来たハインツが答える。
「その通り! 二人には社交界で商品をガンガン勧めてもらいましょう。無駄に社交場で遊び惚けている、顔の広いお二人ですもの。使わない手はないわ!」
「確かに、旦那様も奥様も顔と話術だけは上手い方。良い案かもしれませんね」
「お二人とも、あまりに口が……」
私とハインツがここぞとばかりにお父様達の影口を織り交ぜると、セドリックが眉を顰めて諌めた。
「いいじゃない。セドリック。事実を述べているだけよ!」
「そうです。こんな時に役に立ってもらわなければ、ただの穀潰しです。お二人には宣伝に協力して貰いましょう。交渉は私にお任せ下さい。売り上げ金をチラつかせて乗せて見せますよ」
「素晴らしいわ、ハインツ!さすがお祖父様の右腕ね」
「お嬢様こそ、中々頭のキレる方で嬉しく思います」
私とハインツは不敵な笑みを浮かべて頷き合う。
「……はぁ。こんなところで意気投合なさるとは思いませんでした」
セドリックは諦めたように肩を竦めた。
「それで、ハインツ。お嬢様へのテストは合格ですか?」
「結果次第と言いたいところですが。良いでしょう。商品のアイデアだけでなく、販路に関する案も提案してくださいましたことですしね。グレース様は運営に関する素質があるのかもしれません」
「やったー!」
私は素直に喜びの声を上げた。
「これで私も領地運営に正式に関われるのね!」
「おめでとうございます。お嬢様」
「ありがとう、セドリック」
セドリックと喜びを分かち合っていると、ハインツは「ふむ」と私の顔をマジマジと観察する。
「もしかしたら、先代に似ているのは目つきだけではないのかも知れませんね」
「お祖父様の顔にソックリって、嬉しくないのだけど?」
褒められているのか、貶されているのかよく分からない言葉だった。
「おや、力強い目で良いではないですか。私も何度、あの猛禽類のような目で睨まれたことか。今思い出しても背筋が凍りそうになります」
その割にはうっとりと恍惚とした表情でハインツは言う。
余程、お祖父様に心酔しているのだろう。
行き過ぎていて、ちょっと怖くもあるが……
ひょっとしてハインツってお祖父様フリーク?
私が若干引いていると、ハインツは真顔に戻す。
「グレース様。確認ですが、この事業を進めるに当たって、お嬢様の名前を出さなくてよろしいのですか? もし、これらが上手くいったとして、現状では手柄は当主である旦那様のものになりますよ」
「ええ、そうね」
彼が言うことはわかっている。
例え私のアイディアだとしても、私が運営に関わっていることを明言しなければ、全ての手柄は当主であるお父様のものだ。
しかし。
「……今はまだ時期ではないから。パトリシアお継母様に警戒されたくないもの」
そう。まだ彼女に私の意向を示すにはまだ早い。
子供の私がでしゃばっているといるとわかったら、彼女は速攻私をこの屋敷から追い出す準備を始めるだろう。
私はゲームでの非情な性格を見せるパトリシアの本性を知っている。
今の私にはまだ彼女に太刀打ち出来る手数はほとんどないのだ。
その為にも、今は水面下で力をつけなければいけない。
勉強をし、実力と功績を積み上げ、味方を増やす。
そして、時を見てパトリシアと真っ向から対決するのだ。
全ては愛するミラのため。
そしてレトナーク領を支える領民のために。
「かしこまりました。グレース様にもご事情があるのですね」
「ええ。でも、きっと私は領主として表に立つわ。その時は、お祖父様みたいな領民から慕われる領主になりたいものね」
「それは随分と高い目標ですな」
ハインツは澄ました声でそう言うが、その目は面白がっていた。
「そうね。だから私には優秀な相談役が必要なの。これからよろしくね、ハインツ!」




