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セブンスナイト ―少年は最強の騎士へと成り上がる―  作者: 清弥
6章 ―誇り正す勇士の紫―
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一抹の平穏

「――ッ!」


 暖かな陽気が差し込みつつも、未だ若干ながら寒さの残る朝方。

 夜の帳の中で光を待っていた小鳥たちは、ようやく自分たちの活動できる時間になったと歌を口ずさむ。

 本来ならばそろそろ人が起き始めて仕事を始めようとするその時間帯に、動く物陰があった。


 若干のぎこちなさを残したままで、しかしながら芯の通った動きで訓練用の大楯と片手剣を自由自在に踊らせるのは……ウィリアム。

 柔らかい緑髪を揺らしながら彼は鮮やかな剣舞を舞い……瞬間、右足は後方へとずらして左足を思い切り地面に叩きつけながら大楯を正面に構える。

 広場で穏やかに共鳴しあっていた小鳥たちはその振動に驚き慄いてすぐさま飛び去ってしまう……が、中心に佇む緑の少年には頑健な壁を思わせる雰囲気が流れていた。


「ウィリアムさーん!」

「……?」


 と、ウィリアムの纏う雰囲気が先ほどとは一転、柔らかいものに。

 両手にそれぞれ持っていた訓練用の片手剣は鞘の中に、大楯は近くにあった木に立てかけると彼は声の方向へとゆっくりと歩いて近づいた。

 早朝特有の少し霧がかった風景の奥で元気に手を振っていたのは、王族特有の銀髪の髪が特徴的な少女……セレーナである。


「おはようございます、ウィリアムさん!」

「おはよう、セレーナ。朝から元気だね」

「それは勿論! 朝イチにウィリアムさんに会えましたから!」

「……」


 純粋無垢な笑顔でそう言われて、思わず苦笑するウィリアム。

 眼の前の彼女が『青の騎士』へと成る事件を切っ掛けに、彼女はよく彼に懐くようになった。

 まるでポニテで纏めている銀髪が動物の尻尾のように忙しなく左右に揺れるのを、ウィリアムは何とも言えない表情で眺める。


 当然、ウィリアムにとって誰かから懐かれる、というのはこの上なく嬉しいのは間違いないのだがどうも慣れない。

 何より精神的にくるのが周りの目線だ、と緑色の瞳を周りへと気づかれぬように動かす。

 そうすれば嫌でも使用人たちの暖かな目があるのに気付き、ウィリアムとしては背中がムズ痒いことこの上ないのだ。


「ウィリアムさんは今日も朝から訓練を?」

「あ、あぁ、そうだね。少しでも身体を鍛えて、力を身に着けないと」


 誰も護れない。

 心の中で途切れた言葉に付け加える。


(赤、藍、黃、橙、青、紫……それが今、”本当の騎士”に至れている色。その中で緑……俺だけが、”本当の騎士”に至れていないんだから)


 エンテはブライアンから引き継ぐことで。

 アニータは自身の罪を正面から向き合えたことで。

 ワイアットは長い年月の中ですでに。

 グイドは自身の本当の望みに気づいたことで。

 セレーナは心の底から自由を欲したことで。

 紫の騎士は……未だ知らないが、”本当の騎士”に至っているという。


 ならば、後はウィリアムだけ。

 焦りは禁物だと理解はしていても、やはり言葉で言い表せない焦燥感が胸を焦がす。

 今の自分にも何か出来ないかと考えた結果として、ウィリアムは毎日のように訓練を積んでいた。


「これでも初めの頃はひょろひょろだったからね、もっと体力をつけないと禍族や魔族と戦えないさ」

「そう、ですか。私もしたほうがいいのかなぁ、やっぱり」


 うーん……と眉を悩ましげに潜めるセレーナを見て、ウィリアムは彼女の頭を優しく叩く。


「セレーナも頑張っているじゃないか。毎日勉強、大変だね」

「『青の騎士』を受け継ぐって決めたときから、覚悟はしてましたから」


 褒められたことが嬉しいのか頬をニヤつかせるセレーナ。

 見える表情も、辛そうと思えるものが欠片も見当たらなかった。

 それを凄いとウィリアムは心の底からそう思う。


 彼女は今、『青の騎士』を受け継いだ為に正式な次期議長として認定されている。

 となれば今まで政治に目を向けてこなかった彼女に求められるのは、目が回りそうな程の勉強だ。

 来る日も来る日も、当然今日も色々なことを学ぶのだろう。


「それに、学べば学ぶほどわかってくるんです。この国がどんなふうに回っているのか、どうして今の世界には自由がないのか。……その理由を知れるから、解決策もわかると思うので」

「……そっか」


 初めて見たときとはかけ離れた大人っぽい雰囲気に、思わうウィリアムは目を細めた。

 何故こうも、”本当の騎士”に至った人は一瞬で成長してしまうのか。


(自分が恥ずかしいな)


 欠片も成長出来ていると実感できていない自分自身に、嫌気がさす。

 と、そんな二人に近寄る影が一つ。


「お嬢様、ウィリアム様。そろそろ朝食のお時間です」

「あぁわかった、ありがとう。セレーナは先に行ってて、俺は軽く身体を拭いてから行くよ」

「はいっ」


 ペコリと頭を下げる使用人と、大きく手を振るセレーナに会釈をしてからウィリアムは木に立てかけた訓練用の大楯を取りに行く。


 セレーナが『青の騎士』を受け継いでから、早一週間が経とうとしていた。

 すでにエンテは『騎士』としての責務を果たすために自らが守る地域へと戻っており、唯一どこにも配属されていないウィリアムだけがこの王都に残っている。

 唯一『騎士』について深く知っている”巫女”はアレから一度も会えておらず、心の奥底に燻る焦燥感だけが今彼を支配していた。





 時はすでにお昼を過ぎて少し。

 各々思い思いの昼食を過ごして、彼らは一つの楕円形の机に集って座る。

 並ぶ者たちは全て何かしらの凄みを纏っており、一人一人が王と言っても過言ではないだろう。


 その中で一人、明らかに他とは圧倒的に違うカリスマを持つ男が静かに声を出した。


「集まったところで、今日の会議の目的だが……現在配属されていない『緑の騎士』の配属先の議決だ。宜しいな?」


 全員が静かに頷くのを確認して、銀のマッシュが目立つ男……ライアンは言葉を続ける。


「現在『騎士』の配属としては、北端の鉱山付近が赤、西端の漁業町付近が藍、東端の『大森林』付近が橙、南端の『最前線』を紫、南寄りの中央にある王都付近を青が担当している。それはおわかりだろう。問題は――」


 『連合国家・エンデレナード』の領地にして、世界の全てであるこの巨大大陸は北に行けば行くほど寒く、南に行くほど暑い。

 最も人間が住みやすい中央は王都が建築されており、北はその寒さと山脈の多さから鉱山が、東はほぼ唯一の木材を調達できる『大森林』が、西は潮の流れからか魚類が取れやすいため港町が存在している。

 何より暑い南端は魔族に占領されており、『最前線』で人間と魔族が対立していた。

 本来ならば北端は黃、北端から王都までを赤が担当していたが『黃の騎士』の力がウィリアムへと移ったため、赤が北端全てを担当しているが……今の所問題は出ていない。


 では、これより何が言いたいかと言えば。


「――配属先がない、ということだ」


 文献ではかれこれ五十年以上、『緑の騎士』は存在していなかった。

 故に今までは六人の『騎士』達で国を守ってきたのだが、正直に言えばそれで事足りている。

 もちろん一人が担当する領域を狭めることは、より安全性を高めるためには非常に重要なことではあるものの簡単にそうできない理由もあった。


「『緑の騎士』、彼は『緑の騎士』である以上に『七色の騎士(セブンスナイト)』だ。今までにない存在が故に、決断が難しい……という言葉には私も同意しよう。が、このまま王都に居続けるのも私個人としては正しくないと感じる」


 ”全てを終わらせる騎士”として語り継がれれきた伝説の存在。

 それをただただ国の防衛の為だけに置いておくのは、最も愚者が行う選択だとライアンは断言する。


「……ということで、だ。今回の決議として第一に皆に問いたいことがある」


 ライアンの今までの話は全てこれの前振りだ。

 どうしようか、などと言いつつも彼の中では答えはもう決まっている。

 けれどここは『連合国家』であり、議長ではあるものの一議員が勝手に決めて良いわけではなく……このような手順を踏んでいた。


「私としては『七色の騎士(セブンスナイト)』に、『最前線』へ向かってもらおうと考えている」


 ”全てを終わらせる”というのがもし魔族や禍族に関することならば、彼には最も魔族や禍族に近いところに居てもらう必要があると考えたから。


(何より、君が『紫の騎士』と相見えることでどう変化するのか……それが知りたい)


 彼と会ってきた『騎士』は誰一人として例外なく、変化を及ぼした。

 赤、藍、橙、青が”本当の騎士”へと至り、黃がウィリアムへ『騎士の力』を授けている。

 ならば『騎士』最強と謳われる『紫の騎士』と邂逅したとき、ウィリアムは一体何を及ぼすのか。


 『紫の騎士』に変化を起こすのか、魔族に変化を起こすのか、禍族に変化を起こすのか……それとももっと大きな何かか。


(幸いこの場の殆どが賛成する雰囲気だ、このまま進めば――)

「――失礼いたしますッ!」


 本来ならば議員以外入ることの許されない会議の間の扉が、第三者によって強引に開かれた。

 光を背中に受けながら息を荒げ入り込んだ異物は、クシャクシャになった紙を握りしめた兵士の一人。

 ざわっと場が騒ぎかけるが、すぐさまライアンが手を上げ静止させる。


「……何があった、手短に話せ」

「は、はっ!」


 震えた手が、声が、この状況が普通ではないと告げる。


「魔族の軍勢です! その数、目視で二万! 先頭には金の髪をした男が立っており――」

「…………」

「――我こそは『七色の騎士(セブンスナイト)』だと」


 誰かが息を呑む。

 それはこの場の誰か一個人のような気もしたし、あるいはこの場の全員がしたのかもしれない。

 だが最早それはどうでも良かった。


「よく理解した、ありがとう。誰か! この者に十分な水と暖かな寝床を! 早く!」


 ライアンがそう声を上げれば複数の使用人が慌てて会議へと入り、息切れきれの兵士を介錯する。

 これ以上ない緊張に包まれた中、ライアンが議員全てを見渡して口を開いた。


「……どうやら事態は我々が思っていた以上に進んでいるらしい。至急、この場にいる『緑の騎士』と『青の騎士』を『最前線』へと送り、その後各地にいる『騎士』たちに応援を要請することで宜しいか」

「――――」


 全員がどうすることも出来ず、ただ頷くのみ。

 それを確認したライアンは立ち上がり、声を張り上げた。


「今すぐ『緑の騎士』と『青の騎士』をこの場に呼べ! 事態は急を要する!!」


 騒乱の、幕が開ける。

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