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セブンスナイト ―少年は最強の騎士へと成り上がる―  作者: 清弥
6章 ―誇り正す勇士の紫―
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恐怖

「…………」

「…………」


 大目に見ても整地されているとは言い難い街道を早足で馬が駆けてゆく。

 小石か何かを馬が引く馬車の車輪が乗り上げるたびに、上下左右に馬車の中は揺れていた。

 居心地が良い、とは言えないその馬車の中で緑色の少年と銀髪の少女……ウィリアムとセレーナが沈黙し続けている。


 もう一人の『七色の騎士(セブンスナイト)』率いる魔族の軍勢が『最前線』に現れた、という伝令は瞬く間に城中に広まった。

 唐突な魔族の攻勢に対抗すべく、朝ごはんを食べていたウィリアムとセレーナは急遽議会に呼ばれ『最前線』に向かうよう命を受け、今に至る。


(魔族の、しかも『七色の騎士(セブンスナイト)』の攻撃……か)

(ついに正面対決、というわけだな)


 内心でバラムと会話しながら、集中力を高めるウィリアムは馬車から外の景色を眺めた。

 ちょうど街の中を通過している最中らしく、外では人々が忙しく動いている姿が目に映る。

 おそらく程なく近い『最前線』に危機が迫っているのを聞き、避難をしようとしているのだろうとウィリアムは当たりをつけた。


(止めなきゃ、な)

(うむ。それが今、我らに出来る最善の手であろう)

「あ、あの……ウィリアム、さん?」

「ん?」


 バラムと決意を固めたのと同時に、恐る恐ると言った風にセレーナがウィリアムを呼ぶ。

 口からまるで恐怖と緊張が滲み出ているような震えに、ウィリアムは優しく微笑んで彼女を見つめた。


「いえ、あの、なんだか怖くって……」

「……うん」


 死ぬかも知れない”怖い”、他人を殺めてしまうかもしれない”怖い”、見知らぬ土地へ向かう”怖い”。

 きっと彼女の中には一言では言い切れないような、様々な恐怖が渦巻いていることだろう。

 そんなセレーナが吐露してくれた勇気に、自分も答えなくてはならない、とウィリアムは心から想う。


 故に――


「俺もいつも怖いんだ」

「え……?」


 ――故に、今まで自身の中に隠していた感情を吐露することにした。


「少しでも、一つ体の動作を間違えただけでも、誰かが死ぬかも知れない。誰かを護れないかも知れない。”また”失ってしまうかも知れない。……それが怖いんだ」

「――――」


 全てを護ると誓った。

 全てを護ると信じた。

 全てを護ると決めた。


 けれど現実は残酷で、超常の力である『騎士の力』を得た今でさえ全身全霊を掛けても届かないことがあるかもしれない。

 今までは運良く誰も死なず、誰も傷ついていないけれど……もしかしたら次は誰かが傷ついてしまうかもしれない。

 もしかしたら誰かが死んでしまうかもしれない。


 それが何より、ウィリアムにとって怖い。


「でもそんなことで怖気づいちゃ、護れる人も護れない。だから俺は戦うんだ、今の全身全霊を」

「ウィリアム、さん」


 だからこそ彼は『緑の騎士』なのだ。

 人並みの恐怖で止まってしまうなら、それはただの”人”である。

 しかしウィリアムは、彼らは『セブンスナイツ』だ。


 自らの決意を全うするため、どんな恐怖も乗り越え全てを掛けられる生物。

 なればこそ、超常の力に認められた存在なのだから。


「怖くていいよ、悩んでもいい。ただ……自分の決意に、想いに嘘をついちゃいけない」

「私の、決意」

「俺は全てを護りたいから、怖くても悩んでも前に進むんだ。前にいなきゃ、後ろにいる人達は護れないから」

「――……」


 彼が言う、自分の決意。

 先日の戦いの中で心から抱いた決意は、想いは何だったか。

 ――問われるまでもない、そんなものは最初から決まっていた。


「私は、自由に在りたい。そのために、色んなものにがんじがらめにされた世界をぶっ壊したい」

「あぁ。その想いを常に持っているんだ、そうすればきっと君に宿る『騎士の力』も答えてくれるはずだから」

「――はい!」


 馬車は進む、二人の『騎士』を連れて。

 彼らの間に漂う空気は、出発当初よりも幾ばくか和らいで見えた。





「『青の騎士』様、『緑の騎士』様がご到着! 開門――!」

「開門――!」


 兵士たちの声に合わせて、重厚な鉄の扉によって閉ざされた門がギシギシと音を立ててゆっくりと上へと引き上げられていく。

 厳重すぎる門を通りくぐりウィリアムたちの目に映るのは――


「これが、『最前線』」


 ――血と鉄と汗の匂いで満たされた戦士たちの拠点、『最前線』だった。

 煙で薄白く満たされた砦は壁の外側を断絶するかのように分厚い石壁に包まれており、そこかしらで忙しなく歩き回る人々から緊迫した雰囲気が伝わってくる。

 甲冑を身に纏う人全てがひと目見れば歴戦の勇士であることがわかり、思わずウィリアムとセレーナは呑まれてしまいそうで硬直してしまう。


「君たちが、『緑の騎士』と『青の騎士』……だろうか?」

「……!」


 呆気にとられていたウィリアムとセレーナへと掛かる声に、思わず二人はビクリと震え慌ててその声の方向へ顔を向ける。

 そしてまたもや、二人は呆気にとられた。


「貴方が……『紫の騎士』」


 ”別格”。

 ウィリアムは今までの旅路から5人もの『騎士』と相まみえ、ともに戦い、時には刃を向けあった。

 だが目の前の『騎士』は彼らとは比べ物にならないほどの実力差を、ウィリアムは全身の感覚で悟る。


 まるであの魔族側の『七色の騎士』と対峙した時のような圧倒的な存在感。

 今まで何度も噂で耳にした”最強の騎士”を今この瞬間をもって、理解した。

 スイートマッシュの紫髪を掻き上げ、同性でさえもあまりに美しく震えそうになる紫眼を細めて『紫の騎士』は自らの後方に腕を差し伸べる。


「ぜひとも歓迎したいのだが、すまない。今は緊急事態だ。ついてきたまえ」

「……わかりました」


 『紫の騎士』に案内された先は、『最前線』の近くにある最も大きい建物……司令部。

 その中にある、作戦室の一室だった。

 上座に『紫の騎士』は腰掛けると空いている席へウィリアムとセレーナを誘い、座ったのを見計らって声を上げる。


「さて、ではわたしの自己紹介をさせていただこう。わたしは『紫の騎士』、サミュエル・エンドレアだ。『最前線』の司令官を行わせてもらっている」

「申し遅れました、私は――」

「――存じでおりますとも、セレーナ様。遅ればせながら、次期議長を継がれたことに感謝と尊敬の意を表します」


 セレーナに向けて軽く頭を下げる『紫の騎士』……サミュエル。

 この国での議長とはつまり国王とほぼ変わりはなく、それを受け継ぐセレーナは王女と扱いは変わらない。

 『最前線』の司令官はその危険さと重要性によって、下手をすれば国王と同じほどに権力を持つものの敬意を払わぬ道理はないのだ。


「えぇ、ありがとうサミュエル。けれど、今の私は『青の騎士』。一人の戦士として、扱ってくれることを願います」

「セレーナ様の願いならば」


 公の次期議長としての対応を持って、セレーナはサミュエルへと言葉を返す。

 どうやら次は自分の番らしいと空気を読んだウィリアムは、サミュエルの顔をしっかりと見て軽く頭を下げようとし……下げる前に、『紫の騎士』から声をかけられた。


「そして君が、『緑の騎士』にして『七色の騎士』……ウィリアム君だね?」

「はい。今回の戦い、微力ながら助力致します」

「……あぁ、よろしく頼む」


 数瞬の間を置き、頷いたサミュエル。

 それに自分が何かしたのだろうかと思案しかけるウィリアムだが、サミュエルの「さて」という声に反応してすぐさま中断する。


「事態はある程度聞き及んでいると想うが、再度わたしの口から現在の状況を説明しよう」


 頷くウィリアムとセレーナを見た後、サミュエルは言葉を続ける。


「現在、ここ『最前線』は前代未聞の緊急事態に陥っている。ここから南に位置する魔族領の端から、今まで見たことのない量の魔族軍が進行中だ。数はおよそ二万。その先頭に立つのは、自らを『七色の騎士(セブンスナイト)』と自称する魔族だ」

「――カスティ……!」


 『黄の騎士』であったワイアットを負傷させ、ウィリアムが『黃の騎士』を受け継ぐことになった原因。

 魔族の、『七色の騎士(セブンスナイト)』。


「対してわたし達側の現戦力は、衛兵が一万。『青』『緑』『紫』の『騎士』。後続で他の『セブンスナイツ』も合流する予定だが到着時間は未定だ。……正直、厳しいと言わざるを得ないね」


 防衛といえここまでの数的不利はどうしようもない。

 更に敵側に居るのは”全てを終わらせる”という伝説の『七色の騎士(セブンスナイト)』……あの存在が放つ一撃は鉄壁と言えたウィリアムの大楯すら粉砕する。

 思った以上の事態に息を呑むウィリアムとセレーナを見て、サミュエルは「そこで」と続けた。


「わたしはまず身内……つまり、味方である君たち『騎士』の力を知りたい。何が出来て、何が得意で、どう使えば良いのかをね」

「と、いうと?」


 具体的にどうするのか不明瞭な言葉に、ウィリアムは思わずサミュエルへと問う。

 瞬間、強圧。


「――――!」


 全身が震えるほどの威圧感と恐怖に、『緑』と『青』は自らの武装を呼び出し戦闘態勢に入る。

 しかし、その圧を誰が発しているのかを察して二人は驚いた表情で圧を発する人物……サミュエルを見つめた。


「試合おう。わたしと、君たちで」


 魔族と人間が睨み合う場所、『最前線』。

 最強の『騎士』との試合の火蓋が今、切って落とされる。

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