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セブンスナイト ―少年は最強の騎士へと成り上がる―  作者: 清弥
2章 ―救済探す治癒の藍―
34/79

元凶の出現

ストックが少し溜まったので更新いたします。

日にちを跨いだらこの前書きは消しますのでご了承をば

 振るわれる巨大な腕を見上げながら、ウィリアムは軽快なステップで躱す。

 人並み外れた力まで引き上げられた身体能力を十全に使い、5mほど飛んだ反動を地面に滑ることで失くした。


「ふぅ」


 すでにウィリアムと禍族との戦いは十分以上経過している。

 ウィリアムは禍族を倒すだけの攻撃手段を持っておらず、同じく禍族はウィリアムを殺すだけの攻撃手段を持っていない。

 故に対して双方に打撃を与えられず延々と同じような戦いを繰り返していた。


 とはいっても人間と禍族という差があるので、どちらが有利かは明確だ。

 今は全くと言って良いほど疲れを見せていないウィリアムだが、結局は人間なので体力が底をつけば戦闘続行は不可能になるだろう。

 しかし禍族はまず生物でさえ無く、体力という概念があるかどうかすら疑わしく疲れ知らずと考えた方が良い。


(過去に一週間暴れつづけた禍族がいたらしいし)


 その結果として『騎士』が各地に配属されたという経緯だと、ウィリアムはブランドンから聞いたことを思い出す。

 つまりはこと禍族に関しては疲れ知らずなのはほぼ確定だろう。


「Ah――――!」

「ッ……!」


 不意に禍族が生き物では到底出すことは叶わない声を張り上げ、巨大な腕を振り上げる。

 どうやら相手にしてもらえてないのが不満らしい、とウィリアムは苦笑いすると振り落とされる質量の暴力に合わせて回避した。

 弾け飛ぶ瓦礫を避けながら地面に足を擦り付けて勢いを殺す。


 エレベンテから凄まじいまでの鍛錬を教えられていたことにより、三週間前のウィリアムとは判断力が桁外れに上昇している。

 真っ直ぐ突き進むのではなく、状況を考えて柔軟に対応することが可能となっていたのだ。

 だからこそ、ウィリアムは無駄に動くことはせずただ攻撃を避けることに集中していた。


(とはいってもこのままじゃジリ貧、か)


 流石にウィリアムも禍族に殺されることは回避したいらしく、声を轟かせる禍族に視線を向けながら思考する。

 今のところ使える攻撃手段は自らの身体のみ。

 『騎士の力』で顕現する得物は使えず、能力も使用不可だ。


 ふとアニータの姿を思い出すウィリアムだが、すぐに首を振って考えを消す。


(今は怪我をした人たちの治癒で忙しいはずだ)


 急に禍族が出現した為に現場に急ぎ向かったウィリアムは、禍族の注意を引き付けつつアニータの元へ怪我をした人を運ぶよう住民に頼んでいたのである。

 それは怪我をした人たちを助けるためでもあるし、何よりアニータの熱くなった思考を冷ますためでもあった。

 ウィリアムはあのまま放っておけば自殺しかねないと悟っていたから。


(だからコイツを片付けるのは、今俺にしかできない仕事)


 禍族というのは『騎士』でしか倒せない……ということでは決してない。

 今までの歴史上で禍族をたった一人の歴戦の傭兵が倒したという記録もあるし、多くの衛兵が立ち向かい倒したという記録もある。

 あくまで真っ向から対抗できるだけの力を持っているのが『騎士』というだけなのだ。


 故に今のウィリアムでも倒せる可能性はあるはず。


(確か、人型の禍族は心臓部分を破壊すれば良かったはずだ)


 不確かな存在で出来た禍族にも“核”というものがあるらしく、人型の核は心臓部分にあるらしいことをウィリアムは文献で見たことがあった。

 詰まる所そこを潰せる機会さえあれば、今の状態のウィリアムでも倒せる可能性は出てくるだろう。


「Ah――――!」

「なら、やるべきことは一つッ!」


 痺れを切らしたのか腕を横薙ぎする禍族を見ながら、ウィリアムは大きく後ろへ飛翔する。

 巨大な物体がかなりの速度で振るわれた為に起きた風を利用しながら、遠くへ飛び着地したウィリアム。

 足元にあったのは先ほどの攻撃で弾き飛んだ、舗装するため固められた巨大な石の欠片だった。


 2mほどの大きさがある石を掴みとると、超強化された身体能力を使い持ち上げる。

 何をする気だと禍族はもう一つの腕で叩き潰そうと上から腕を振るう。


「っらァ!」


 鍛えられた脚にある筋肉が膨張し、ウィリアムは一気に禍族の元へ飛んだ。

 真横に腕が通過するのを視界の端に収めながら、持ち上げた巨大な石を投げ飛ばし禍族の顔面にぶち当てる。


 驚くほどの速さで顔面に直撃した巨大な石は、そのまま禍族の体制を大きく崩すことに成功。

 その隙を逃さずウィリアムは右手を突きの形へと変え、勢いそのまま禍族の心臓部分があるだろう胸元へ突き刺した。


「硬っ……!」


 飛翔時の速度に合わせた全力の突きだが、それでも禍族を構成する正体不明の物質を越えることは出来ない。

 絶対にそのまま突き通すのは無理だと瞬時にウィリアムは考え、すぐさま右手を禍族から離すと、離した反動さえ利用して右足のキックを放つ。

 体制を崩し大きく傾いていた禍族だが、放たれたキックに耐え切れずそのまま地面に倒れた。


(……なんだ、これ)


 キックを当てたと同時に禍族の体を利用して後ろに飛び退いたウィリアムだが、地面に着地した瞬間に凄まじい吐き気を感じる。

 思わず口に手を当てあまりの気持ち悪さに屈みこんだ。


「怖い、死にたくない、止めて、殺したい、生きたい、助けて、恐い――」

(気持ち、悪い……頭の中に何かがっ!)

(ウィリアムよ、落ち着け!これは禍族の“力”がお主に流れ込んでおるのだ!)


 バラムの言葉に頷きながらも、ウィリアムは凄まじいまでの“影”に震えることしか出来ない。

 頭の中に延々と訴えられる“恐怖”や“嫉妬”などの負の感情。

 ありとあらゆる不幸を積み重ねて一つにしたようなグロさに、ウィリアムの精神は音を立てて削られていく。


 目の前に禍族がいることさえ忘れて、気持ち悪さにウィリアムは気を失い――


「ウィリアム!?“治癒よ、体を癒せ(リカバリー)”!」


 ――かける前に吐き気が嘘のように消えていくのを感じた。

 疲労感に苛まれながらも吐き気が消えた原因を、視線を巡らせることで探してすぐさまその原因を見つける。


「アニー、タ?」

「えぇそうよ。ウィリアム、大丈夫かしら?」


 フラフラと体を揺らしながらもなんとか立ち上がったウィリアムは、心配そうに眉を潜めるアニータを真っ直ぐ見つめた。

 彼女が本当に生きているのか、確認するために。


「良かった、自殺しなかったんだな」

「ッ!?な、何の事かしら?」


 あからさまに驚いた様子で視線をウィリアムから外したアニータ。

 自殺しようとしたのかとウィリアムはため息をつき、心の底から怪我人たちを向かわせて良かったと安堵する。

 すくなくとも、今から死のうなんて考えは捨てたのだから。


「とりあえずその話は後だな、今は禍族の方が優先だ」

「……そうね。ウィリアム、貴方は休んでなさい。さっきのは禍族に直接触れたことで起こる、一時的な“余物”化よ。きっと体力もかなり消耗しているでしょう?」


 基本的に余物に人間はならない。

 それは明確な意識を持っているからであり、意識を殺される心配があまりないからだと言う。


 だがあくまで“基本的に”であり、絶対にならない訳ではない。

 先ほどのウィリアムも確かに“余物”化していたのだから。


「あれは生身で触れてはならないものよ。体験したでしょう?脳に響き渡る負の感情を。あれこそが禍族を構成する物質そのものなの」

「そう、だったのか」


 脳に響き渡る様々な感情をウィリアムは思い出して顔色を悪くする。


 余りに凄まじいので、“鬱病”と同じような状態になり気持ち悪さで体を満たされるのだ。

 人間だからこそ圧倒的な負の感情に精神が耐えることができるが、そこまで知能が発達していない他の生物は耐えることが出来ない。

 だからこそ余物は殆どが人間以外で構成されているのだ。


「まず生身で戦う人なんていないからあまり知られてないけど、肌を禍族の……特に弱点に当てては駄目なのは禍族と戦うときの鉄則よ」

「っ!お、おいアニータ!」

「だから――」


 頷きながらアニータの話を聞いていたウィリアムは、彼女の背中の向こうで禍族が立ち上がり腕を振り上げるのを確認して声を荒げる。

 しかし彼女は全く気にせず、言葉を続けると同時に水之治癒(ウィルン)を後ろへ向け連続発砲。

 何かが爆発するような音がして発射された“ナニカ”は、強化されたウィリアムの目にギリギリ追いつける速度で飛び出した。


 寸分の狂いなく、発射されたナニカは禍族の心臓部分を穿つ。


「――覚えておきなさい?」

「アッハイ」


 後ろで倒れる禍族のことを全く気にせず笑顔を向けたアニータに、ウィリアムは震えがながら頷いた。


 頷きつつ改めてウィリアムは彼女が『騎士』なのだと理解する。

 彼女の“自分を殺したい”という望みから生まれ出たであろう“銃”は、か細い女性の身体でも禍族を殺したのだ。

 しかも、振り向きもせず……である。


 とりあえずこれで一件落着かなとウィリアムは安堵の息を漏らし――


「本当に『騎士』という存在の強さは異常だね」


 ――全身のアラームが鳴り響くのを感じた。


 今まで体を支配していた吐き気の残り香さえ忘れ、アニータと共に大きく跳躍して声から遠ざかるウィリアム。

 声が聞こえる方へ視線を向けて、その正体に気付く。


「魔族ッ!」


 魔族という存在は、基本構造は人間と変わらない。

 だが唯一人間と大きく違う部分があった。

 それは角だったり尻尾だったり、とりあえず人間には必ず付かないような物が生えているのが魔族なのである。


 目の前の気味悪い笑みを浮かべる男性も、額に二本の漆黒の角を生やしていた。

 赤い瞳を宿し、褐色の肌の魔族は屋根の上で座り込みヘラヘラと笑う。


「そういう君たちは『緑の騎士』と『藍の騎士』。あれ?でも『赤の騎士』は居ないみたいだ、どこに居るんだい?」


 先ほどまで禍族と戦っていたのだから、ウィリアムとアニータが『騎士』だとばれていても可笑しくはない。

 だが、何故『赤の騎士』がこの街に居たことまで知っているのだろうか。

 警戒度を最大まで高める二人に、魔族は気にした様子もなく「ま、いいか」と気味悪い笑みのままで更に笑った。


「本来は禍族を使って武力偵察しに来ただけだしね。最近『騎士』になった人間たちを」

「……生きて帰れるとでも?」


 さも当然かのように“禍族を使った”と喋る魔族。

 つまりは今回の騒動の元凶は目の前の魔族、ということになるだろう。


 ウィリアムは魔族を睨み付けて構える。

 明らかな挑発を聞いてなお魔族はその笑みを張り付けたままだ。

 魔族はニュルリと気持ち悪い動きで立ち上がると、大きく伸びをして腕を回す。


「帰れるとも。偵察に特化しているからね、ボクは」


 まるで軟体生物のように体を動かすと、「さて」と呟いて滑らかな動きで二人に一礼をする。


「お初にお目にかかります、ボクは魔族。キミたちが嫌う魔族……その一人だよ」


 全く敬意を感じられない言葉で挨拶をすると、自分の胸へと妙に長い手を当てた。


「ヘンリー・メイハン、それがボクの名だ。是非是非、覚えて行ってね?」

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