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セブンスナイト ―少年は最強の騎士へと成り上がる―  作者: 清弥
2章 ―救済探す治癒の藍―
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その後とこれから

 ――また、“あの日”の夢を見ていたようだ。


「ん……ここ、は?」

「お、目覚めたかウィリアム」


 暗く淀んだ夢を見ていたウィリアムは、自分に照る光で目を覚ます。

 二度と忘れることは無い過去の泥。

 けれど、今ウィリアムにとってその“夢”はどうでも良く思えた。


「おはよう、エンテ。ここは……」


 重たい体を何とか持ち上げ、ウィリアムは周りを見渡す。

 どうやら馬車の中らしく、ようやく今になってガタガタとこの中が揺れていることに気が付いたウィリアム。


(あぁ、確か俺とエンテが禍族二体を倒した後、気絶したんだっけ)


 周りの状況を上辺ながらも把握したことで、ウィリアムの脳が時間をかけて起動したのか今までの経緯も思い出した。

 エンテが『赤の騎士』となり、火炎を纏ってウィリアムと共に戦ったのである。


「そ、お察しの通り馬車の中だ」

「どこに行くんだ? と言うより、俺が気絶してから何があったんだ?」


 異様なほど重たい体に眉を潜め、壁に背中を預けながらウィリアムはエンテに問う。

 あの後どうなったのか、どうして馬車の中に居るのか、どこに向かっているのか。

 気絶して以降の記憶が全くウィリアムには無かった。


「今は『藍の騎士』が住まう街、確か……クェンテだったはずだ、に向かってる途中。何故そこに行く原因は、お前だ」

「俺?」


 唐突に指を刺されウィリアムは首を傾げる。

 特にこれと言ってやらかした記憶もウィリアムの中には無いし、それを言うのならブランドンから『赤の騎士』を継承したエンテの方がやらかしているだろう。

 なら何故、わざわざ『藍の騎士』の元にやらかした記憶のない自身が原因で行くのだろうか。


 全く気付いた様子のないウィリアムに、エンテは大きくため息をつく。


「お前、体が重く感じないか?」

「ん……? あぁ、確かに体全体が重たい気はしてるけど」


 一体それがどうしたのかと言おうとしたウィリアムは、あることを思い出した。

 同時に、何故自身が理由で『藍の騎士』の元へ向かうことも理解する。


「“呪病(ジュビョウ)”……か」

「正解」


 “呪病”。

 それは長年戦ってきた『騎士』が良く起こす病気の名だ。

 この病にかかれば、『騎士』と成った者は『騎士の力』を扱えなくなり非常に体が重たく感じるのである。


 ほぼ唯一、禍族に対抗できるはずの『騎士の力』が扱えなくなる最悪に等しい病だが、原因はとっくの昔に判明されていた。


「二体の禍族を相手取るのに結構攻撃食らったんだろ? 十中八九そのせいだろうな」

「だよなぁ……」


 禍族と戦う『騎士』は当然、禍族の攻撃を食らうことも多々ある。

 その際に、禍族が持つ“力”が攻撃を食らった『騎士』に流れ込むことで、“呪病”となってしまう。

 つまりはこの病は、禍族の攻撃を食らいすぎた為に起きたものなのだ。


 納得し重たい体の具合を確かめようと肩を回すウィリアムに、エンテは苦笑しながら見守る。


「良かったな、現『藍の騎士』の人が“治癒系”の能力を持ってて」

「…………」


 エンテの言葉にウィリアムはぐうの音も出ない。

 本来、“呪病”とは禍族の力が抜けきるのを待つしか対策がないのだが、現『藍の騎士』は珍しい治癒の能力の使い手なのだ。

 その効果はどんな薬でも対抗できない禍族の力をも取り除く。


 だからこそ、今ウィリアムは『藍の騎士』が住まう街へ連れられていたのだ。


「それじゃあお前は俺の護衛ってことか?」

「おうよ。精々くつろいでろ」


 再度言うが現在“呪病”にかかっているウィリアムは『騎士の力』を行使できない。

 身体能力の超強化さえ出来ないので、禍族に対抗するどころか逃げる事すら危うい状態なのだ。


(なんか、癪だな)

(まぁこれもお主が見境無く攻撃を受けていたから起きた事態だ。これからは注意すると言い)


 護っていたはずの親友に護られるという事実に、若干ウィリアムは拗ねながらもバラムの至極当然の正論に頷くことしか出来ない。

 事実、ウィリアムが本来もっと気を付けて行動していれば“呪病”にかかることも無かっただろう。

 “呪病”と言えど数回攻撃を受ける程度ではかかるものではなく、何十と攻撃を受けたからなるものなのだ。


 そういう意味では、今回の“呪病”はウィリアムにとって良い薬である。

 毒も弁えれば薬となる……と言う言葉がピッタリと似合うウィリアムであった。


 意気消沈して大きくため息をつくウィリアムを見て、潮時かとエンテは別の話題へと切り替える。


「そういえば、ブランドンさんから“またな”って伝言預かった」

「……あの人らしいな」


 ウィリアムは二体の禍族との戦闘の後、そのまま気絶したためブランドンのその後は全く知らない。

 けれど、その伝言からは新しい人生への希望がありありと見えた。

 今頃戦う力を失った彼は、得意そうな力仕事をして家族と仲良く過ごしているのだろう。


「『赤の騎士』じゃなくなったんだよな、ブランドンさん」

「今は俺がその跡を継いでるからな」


 小さく、事実を確かめるように呟かれたウィリアムの言葉に、エンテは笑って自身の右手の甲を見せた。

 ブランドンとは少し違う、直刀に火炎が纏う姿が描かれた“印”が少しだけ赤く光る。


(……そっか。やっぱりエンテが『赤の騎士』になったんだよな)

(どうしたのだ、いきなり?)


 心配そうに言葉を発するバラムに、ウィリアムは頬を緩めると何でもないと心の中でそう告げた。

 見せた表情は憐れむようなものでもなく、悲しむようなものでもない。

 ただ――


「エンテ」

「おうっ」


 ――ただ、親友が夢に向けて大きく進んだことへの喜びだ。


 右の掌を挙げたウィリアムがエンテに笑いかけると、彼は悟ったように明るく笑い挙げた掌に自身の掌を打ち付ける。

 馬車の中で、一際乾いた音が鳴り響く。

 それは万雷の拍手よりも、何百の喝采よりも嬉しくエンテには思えたのだった。





「――たった一つの町に『騎士』が三人、か」


 遠く離れた地で、ウィリアムとエンテがハイタッチを交わすのを見る影がある。

 奥深くまでフードを被っている為に、その顔はおろか女性か男性か……“人間かそうでないか”すら判る者はいないだろう。

 ただ、唯一フードから表に出ている口を大きく歪めて影は笑った。


「全て片付ければ、我らの夢に向けて大きな一歩となるな」


 影は立ち上がると視界から離れていく馬車をただ見つめる。

 向かう先は『藍の騎士』が住まう街……クェンテだ。


 ――そこで何が起こるのか、それを知る者は未だ居ない。

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