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スフィアフォース

「……分かったわ。できる限りの手伝いはさせてもらう。けど、その前に他のメンバーを紹介するわ」

そう言うと、長戸さんが立ち上がる。そして槌田へと視線を向けると、頷いた槌田は部屋の外へ出て行った。

「改めて、私は長戸翠。さっきも言った通りスフィアフォースの隊長よ。コードネームは『イレーサー』。能力は、記憶消去よ」

「コードネーム?」

「ええ。それぞれ、能力に合わせてコードネームが与えられるわ。作戦中は、身元がばれないようにこれで呼び合うことが義務ね」

何と言うか、すごく秘密組織だな。徹底している。やりすぎな気もするが。

「で、記憶消去ってか」

「ええ。対象者の額を掴んでその人間が保持する全ての記憶を閲覧し、その中の消したい記憶を念じることで、それを消去することができるわ。逆に言えば、閲覧から消去完了まで無防備になるから、あまり使い勝手が良いとは言えないけどね。私のことは、好きに呼んで」

「わかりました、隊長」

隊長との会話が終わったところで、その脇の男が一歩前に出る。そんな小さな動作でも、この男がよく訓練されていることが感じられる。

「……私は浜尾大河。スフィアフォース隊長補佐だ。能力は硬化、コードネームは『ハードナー』。よろしく頼む」

「分かりました、副隊長、でいいですか?」

「構わない」

そこまで終わったところで、扉が開いた。

「連れてきました」

「あら、じゃあ順番に自己紹介をお願い」

槌田の後に続いて入ってきたのは、二人。……エスパー課と、あまり規模は変わらないようだ。

最初に口を開いたのは、槌田だった。

「槌田真弓、十六よ。能力は瞬間移動、コードネームは『ジャンパー』。好きに呼んでくれて構わないわ」

淡々と述べて、引き下がる。五十鈴や杏さん、瀬上に慣れている身としては、拍子抜けだ。

次に口を開いたのは、その隣の男。髪が長めで、その奥の目つきは鋭い。

「オレは木和田恭介。年は十七、能力は複写。いうなりゃ触れた相手の能力をコピーすんだ。コードネームは『イミテーター』」

コピー、ね。その前の槌田は瞬間移動。どうも、敵に回すと厄介そうな能力だ。

最後は、黒い長髪の……男か?女か?どちらか分からないな。どうやら男みたいだが。

「自分は芦刈八雲。十八歳です。能力は透明化、コードネームは『ゴースト』。よろしくお願いします」

これで、全員の紹介が出揃った。そして、俺に視線が突き刺さる。ああ、俺もやらないとならないのか。

「柊怜。十六だ。能力は不可視斬撃。コードネームはまだ無い。呼び方は好きにしてくれ。まあ、よろしく頼む」

 「不可視斬撃、見せて貰える?」

降りた沈黙を、隊長の言葉が破る。いつの間にか扉の近くに移動していた隊長が、身振りでついて来いと示す。影のように付き従う副隊長と、ぞろぞろついて行く三人。その最後尾について歩きながら、改めて周囲を見渡した。

 どこにでもあるような廊下。強いて言うならオフィスよりも綺麗だが、商業施設ほど整ってもいない。学校や、マンションの廊下だ。床がリノリウムである分、学校に近いか。

 「あ、そういえば、まだ言ってなかったわね。君の監視役兼世話係は槌田さんだから、分からないことは槌田さんに聞いて。他の事も、任せるわ」

「は!? 私が世話係ですか?」

「ええ。お願いね。ちなみに、宿舎の部屋も相部屋だから」

今度は、俺にも理解できる話だった。理解できるが、その分驚きがやってくる事になる。

「相部屋? 俺と、槌田さんが?」

「ええ。君も宿舎に住むんだから、説明しておくわね。基本的に、宿舎は二人一部屋よ。と言っても、食堂とお風呂は全員共通だから、ほとんど寝室だけね。それも二部屋あるわ」

「いや、『だから大丈夫』みたいな言い方されても。まったく大丈夫じゃないですよね」

「そうね。寝室が共同な時点でアウトじゃないですか」

「あら、そう?けど、元々この建物って、上は普通のアパートにカモフラージュしてるから、立地が限られてるのよ。だから宿舎も三部屋しか作れなかった。浜尾君と私も相部屋なんだから、大丈夫よ」

「それは、お二人は自衛隊時代からそういうことに慣れてるからじゃないですか。私と彼は初対面で、しかもお互い年頃ですよ?」

「あら、抱き締めて連れてきたんだから、今更でしょ?」

「それは!私の能力はそうしないと他人を連れてこられないからです!」

 当事者である俺すらも蚊帳の外にして繰り広げられる口論は、木和田の一言で納まることになった。

「隊長さん、もうついてるぜ」

「あら、そうね。じゃあ、この中よ」

隊長が開いた扉の向こうは、様々な機器が並んだコントロールルーム。その奥には、真っ白な空間が広がっている。

「ここがシュミレーションルーム。その広間に、様々な映像を投影して、疑似体験が可能よ。さ、柊君はそっちに移って」

言われるまま、真っ白い空間に足を踏み入れる。完全に無音だ。

 『聞こえる?』

「ええ、聞こえますよ」

『今から出てくる的を、切り裂いてみて。切り方は任せるわ』

言うが早いか、正面、反対側の壁に近い床が開き、人型のパネルが現れる。どれも中心付近に同心円が描かれている。どうやら、射撃練習用の的らしい。

『その三つよ。じゃあ始めて』

「了解」

右手の指を二本立てる。慣れ親しんだ動作。自身の能力が起こした惨劇に吐き気を催すが、それすらも切り裂くように振り上げる。狙いは中心の一つ。続いて首元を掻き切るように右端。返す刀で左端。

 数秒後、俺の前にあった三つの的は、それぞれ思い描いた通りに切り裂かれていた。

 脳裏に、現場の写真が過ぎる。俺の記憶なのか、阿鼻叫喚の音すら蘇る。

 耐え切れずに、その場に膝をついた。……こんな風になったのは、二度目だな。

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