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追放された万能薬師は、隣国の冷徹皇帝に溺愛される  作者: La Mistral
第6章:【新生の神話編】

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第95話:胎動の審判


物語は、閉ざされた「黄金の鳥籠」へと侵入した「過去の遺物」との対峙により、エルサの依存が完成の極致に達する瞬間を描きます。第95話では、かつて彼女を慕っていた騎士カイルの救いの手を、エルサ自身が「平穏を乱す汚物」として拒絶する残酷な決別を執筆しました。

主君たちの命により、自らの手で過去を葬り去ったエルサ。返り血を浴びながらも、彼女が感じたのは罪悪感ではなく、二人の王にのみ定義されることへの至上の法悦でした。人間としての尊厳を完全に捨て去り、血の匂いの中で二人の王の「共有の聖母」として覚醒した彼女の、狂気にも似た服従の誓いを綴っております。

「エルサ様……! お救いに参りました! さあ、わたくしの手を!」


深夜の「黄金の鳥籠」に、場違いな金属音が響いた。


潜入したのは、かつて聖女だった私を影ながら守り、密かに想いを寄せていたはずの若き騎士、カイルだった。


彼は血と汗にまみれ、命を賭してこの禁域へと辿り着いたのだろう。


その瞳には、救い出そうとする強い意志が宿っていた。


しかし、二人の主君に抱かれ、まどろみの中にいた私は、その見知らぬ男の乱入に、ただ激しい不快感と恐怖を覚えた。


「……だ、……誰……? 私に……触れないで……っ。汚れる……、お二人以外の……臭いが……、……気持ち悪い……っ」


私は裸身を隠すように、新王の枕元へと這い寄った。


カイルが差し出した、かつては温かかったはずの掌が、今の私には私を傷つける獣の爪のようにしか見えない。


彼の顔も、名前も、共に過ごした日々も、主君たちの情欲と執着という名の激流に押し流され、記憶の底に沈んでいた。


「エルサ様……? 私です、カイルです! 忘れてしまったのですか、あの誓いを……! 二人の王に毒され、そんな惨めな姿に……っ」


「……黙りなさい……っ! 惨めなのは……あなたの方よ……。私を……ここから……連れ出そうなんて……、……そんな……残酷なこと……しないで……っ。……あ、……ぁ、……新王様……、……ゼノス様……、……助けて……っ」


私は、自分を救おうとする騎士を「侵入者」と断じ、狂ったように主君たちの名を叫んだ。


胎内の紋章が、異分子の存在に反応して激しく熱を帯びる。その疼きが、私に確信させる。


私の居場所は、救いの手がある外の世界ではなく、二人の王に飼い殺される、この黄金の檻の中にしかないのだと。


「……騒々しいな。私の庭に、羽虫が紛れ込んだか」


背後の扉が静かに開き、新王が冷徹な威圧感を纏って現れた。


同時に、隣の私室からはゼノス様が、抜き身の剣のような殺気を放ちながら大股で踏み込んでくる。


二人の主君の登場に、私は安堵のあまり涙を流しながら、這うようにして彼らの足元へと縋り付いた。


「ハハハ! どこの馬の骨かと思えば、かつての騎士様じゃねえか。エルサ、こいつがお前を『救う』んだとよ。どうする? その薄汚い手を取って、外へ逃げるか?」


ゼノス様が嘲笑いながら、私を救おうと呆然と立ち尽くすカイルを指差した。


カイルは、私があまりにも自然に、そして必死に二人の王に跪く姿を見て、絶望に顔を歪ませている。


「……嫌……っ、……嫌です……っ! ゼノス様、新王様……、……私を……捨てないで……。この男を……どこかへ……、……私の視界から……消してください……っ! お二人以外のものに……触れられるなんて……、……死んだ方が……ましです……っ」


私は新王の冷たい指先に頬を寄せ、主君たちの独占欲を煽るように、騎士への拒絶を叫んだ。


カイルに向けたのは、かつての慈愛ではなく、平穏を乱す者への剥き出しの憎悪だった。


「聞こえたか、騎士よ。これがエルサの『意志』だ。お前が救おうとしている女は、もはや我ら二人の情欲と魔力なしでは、一秒たりとも正気を保てぬ愛玩物なのだ」


新王が私の髪を愛おしげに、しかし支配を誇示するように強く掴み上げた。


私はその痛みさえも、騎士に対する「自分は二人の王のものだ」という証明であるかのように感じ、恍惚とした表情で主君を見上げた。


騎士の絶望に満ちた呻きが、今の私には心地よい子守唄のようにさえ響いていた。


「エルサ、仕上げだ。この男は、お前が我ら二人の『共有財産』であることを否定し、平穏を乱した。その罪を、お前自身の手で裁くがいい」


新王が冷淡な声で命じ、私の手に装飾の施された鋭い短剣を握らせた。


銀色の刃が、松明の光を反射して不吉に輝く。カイルは抵抗する気力さえ失い、涙を流しながら私を見つめていた。


「ハハハ! ほら、エルサ! 俺たちへの忠誠を見せてみろ。この男を貫いて、お前の過去を完全に葬り去るんだ。そうすれば、お前はもっと深く、俺たちの色に染まれるぜ!」


ゼノス様が私の背後から手を重ね、短剣を握る私の震える指を力強く固定した。


彼の掌から伝わる野蛮な熱が、私の迷いを焼き払い、殺意という名の陶酔へと変えていく。


「……あ、……ぁ、……私……の……過去……。……そんな……もの……、……お二人……との……今に……比べれば……、……何の……価値も……ない……っ」


私は、自分を慕っていたはずの男の胸元に、迷いなく刃を向けた。


カイルの瞳に映る絶望が、今の私には最高の献辞のように感じられる。


私がこの男を殺めることは、二人の王への絶対的な帰依であり、もはや人間としてのエルサが死に絶えたことの証明なのだ。


「……さようなら、……騎士様。……私の……世界に……、……あなたは……もう……いないの……っ」


新王とゼノス様の視線が私を貫く中、私は二人の主君の力に導かれるまま、短剣をカイルの胸へと突き立てた。


生暖かい血が私の白い指先を汚し、胎内の紋章が歓喜するように脈動する。


私は、自身の裏切りと残虐さに、かつてないほどの法悦を覚え、主君たちの腕の中で残酷なまでに美しく微笑んでいた。


床に広がった鮮血が、私の白い足首を汚していく。


かつて私を「聖女」と呼び、慈しみの眼差しを向けた騎士の骸は、いまや物言わぬ肉の塊へと成り果てていた。


私は返り血を浴びた自身の指先を見つめ、そこに宿る鉄の匂いに、恐ろしさよりも深い安らぎを感じていた。


「よくやった、エルサ。これで、お前を縛り付けていた過去という名の糸はすべて断ち切られた。これからは、我ら二人が与える快楽と支配だけが、お前の世界のすべてだ」


新王は私の手から血に濡れた短剣を抜き取り、私の頬を汚した返り血を親指でゆっくりと拭った。


彼の冷徹な指先が、私の存在を改めて自分たちだけの所有物として定義し直していく。


「ハハハ! 最高の忠誠心じゃねえか、エルサ! これでようやく、お前は名実ともに俺たちの『聖母』になったわけだ。この男の血を礎にして、俺たちの国、俺たちの未来をその胎で育んでいけ!」


ゼノス様が私の肩を強く抱き寄せ、血の匂いが漂う空気の中で、私の首筋に深い独占の痕を刻みつけた。


主君たちの荒々しい賞賛に、私は魂の底から震え、陶酔の溜息を漏らす。


「……はい、……新王様、……ゼノス様……。……私……、……もう……何も……怖くありません……っ。……この血……も、……この痛み……も、……お二人……に……捧げる……ための……悦び……なのだわ……っ」


私は亡骸を顧みることなく、二人の主君という絶対的な神へと跪いた。


外界との唯一の繋がりを自らの手で屠ったことで、私はもはや、この黄金の檻の住人でしかいられない。いや、いられなくていいのだ。


血の匂いと濃密な愛欲が混じり合う中、私は二人の王の腕に抱かれ、永遠の服従を誓い直した。


私の胎内に宿る命は、過去を葬った血の海の上で、より一層、禍々しくも美しく脈動を強めていた。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

第95話では、エルサが自らの手で過去を断絶し、主君たちへの「狂信的な服従」を完成させる重要な局面を描きました。彼女にとって、外界の救いこそが最大の敵であり、主君たちによる蹂躙こそが唯一の正義となる、価値観の完全な逆転が成立しています。

次回、第96話からは、新章「血脈の晩餐編」が始まります。騎士の死を乗り越え、より一層、主君たちの寵愛を独占しようと競い合うようになるエルサ。そんな彼女を満足させるために、新王とゼノス様が用意した、さらに背徳的で贅を尽くした「夜の儀式」の内容を執筆する予定です。

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