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追放された万能薬師は、隣国の冷徹皇帝に溺愛される  作者: La Mistral
第6章:【新生の神話編】

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第73話:【共有】二人の主君、一人の玩具

いつも『聖女監禁録』を追いかけてくださり、ありがとうございます。

前話では、産声とともに急速な成長を遂げた「新王」が、エルサを自らの魔力を濾過するための『部品』として定義しました。かつての聖女としての面影は、いまや王たちの都合に合わせて作り替えられる「装置」へと変質しています。

第73話では、青年へと成長した息子と、その父である魔王ゼノスが、一人の女を「分け合う」という、あまりに身勝手で背徳的な遊戯が幕を開けます。

「どちらに、壊されたい?」

左右から迫る二人の王。その圧倒的な熱量に挟まれ、自分という境界線が溶けていくエルサ。三人の歪な対話と、逃げ場のない緊張感をどうぞ最後までお愉しみください。

玉座の間を支配していた静寂は、傲慢な足音によって無残に踏みつぶされた。


数刻前まで幼い少年だった「彼」は、いまやゼノス様と見紛うばかりの体躯を誇る青年の姿となり、私の目の前に立ちはだかっている。


その黄金の瞳は、慈愛など微塵も孕まず、ただ効率的に獲物を仕留める猛禽の鋭さで私を射抜いた。


「……父上。この女の反応は、私に馴染んできた」


青年――新王は、私の震える手首を無造作に掴み、力任せに自分のほうへ引き寄せた。


皮膚が擦れ、指先が食い込む痛みに私は小さく喘ぐ。


「私に預けてもらいたい。この『器』の管理権を」


ゼノス様は玉座に深く腰掛けたまま、不敵な笑みを浮かべてワイングラスを弄んでいる。


その瞳には、息子への親愛ではなく、同等に近い「魔性」への冷徹な評価が宿っていた。


「ほう? 私の所有物を、産まれたばかりの息子が管理すると言うのか。生意気を言うようになったな」


「管理などという生温い言葉は使っていません。……父上の魔力を濾過(ろ過)し、私の成長の糧として、文字通り『使い潰したい』と言っているのです」


青年の声は、低く、それでいて広間全体を震わせるほどの魔力を帯びていた。


二人の王の視線が、私の頭上で激しく交差する。私は彼らの間で、ただ荒い呼吸を繰り返すだけの、名もなき部品に過ぎなかった。


ゼノス様がゆっくりと立ち上がり、私の背後に音もなく回り込んだ。冷たい指先が私の顎を掬い上げ、無理やり上を向かせる。


「エルサ。お前はどうだ? 我が息子に従いたいか、それとも俺に縋りたいか。……選ばせてやる」


「……あ、……ぁ……」


声が出ない。ゼノス様の指が、逃げ場を塞ぐように私の喉仏を愛撫する。


「はっきり言え。どちらに、壊されたい?」


間髪入れず、正面の青年が私の首筋に大きな手をかけ、耳元で低く、突き放すように囁いた。


「答えろ。お前の内側を、誰の魔力で、誰の絶望で満たしてほしいのだ。……私か? それとも、お前をここまで無残に堕とした父上か?」


二人の主君に左右から迫られ、私は逃げ場を失う。


彼らの体温と、皮膚を刺すような高密度の魔力の圧力が、私の華奢な骨格をきしませ、精神を押し潰そうとしていた。


「……っ、あ、……選べ、ません……。私は、……お二人の……」


「選べぬというのなら、答えは一つだ。……分け合えばいい」


ゼノス様が私の背中を独占するように抱き込み、青年が私の正面から、心臓の鼓動を確かめるように胸元へ掌を押し当てる。


「熱い……、です……っ! ゼノス様、若君……っ! お止め……っ」


「声が小さい。……父上の魔力に負けているぞ、エルサ。もっと私を迎え入れろ。お前のすべてを濾過し、私の一部になれ」


「くく、息子に嫉妬されるとはな。……では、俺のほうをより深く、逃げられぬよう魂の奥底まで刻み込んでやろう」


二つの、同質でありながら反発し合う漆黒が、私の細い血管、神経、そして細胞の一つ一つで激しく衝突し、混ざり合う。


「……っ、ああぁぁ! 壊れ、る……私、の……中が……焼けて……!」


私の叫びは、二人の王の愉悦に満ちた笑い声にかき消された。


嵐のような魔力の奔流が収まった時、私は玉座の足元で、泥のように無惨に崩れ落ちていた。


衣服はボロ布のように乱れ、熱に浮かされた肌の至る所に浮き出た黒い紋様が、脈打つたびに毒々しい紫色の光を放っている。


青年は、私の髪に付着した自身の魔力の残滓を忌々しげに、しかしどこか名残惜しそうに指で拭い、ゼノス様を仰ぎ見た。


「……使い勝手は悪くない。父上の魔力が混ざることで、不純物が消え、より『甘く』精製されるようだ」


青年が私の頬を土足で軽く小突く。その屈辱的な接触にさえ、私の体は快楽を求めて震えてしまう。


「よかろう。半分は、お前に権利をやる。だが、この器を完全に破壊し、終わらせるのは俺の特権だ。……お前は、せいぜい丁寧に、長く使い潰せ」


ゼノス様は、まるで共有の領土を画定するかのような冷徹な口調で言い渡した。


二人の王が、私という「一つの玩具」を分かち合う、血も涙もない契約を交わす。


私は、焦点の合わない瞳で彼らを見上げ、震える手でゼノス様の靴に縋り付いた。


「……あ、……ありがとうございます……。……私を、……お二人の……道具に……して、いただいて……」


言葉を発するたびに、意識の断片がまた一つ、闇へと溶けて消えていった。

第73話、完結までお読みいただきありがとうございました。

ゼノス様と新王。二人の王によって「共有される玩具」として契約されたエルサ。かつての聖女としての尊厳は、二人の魔力が激突する奔流の中で、跡形もなく焼き切られてしまいました。

「お前は、俺たちの影だ」

その宣告に、自ら道具であることを望むような恍惚さえ見せる彼女の姿に、皆様は何を感じられたでしょうか。

「親子二人に翻弄されるエルサの壊れっぷりにゾクゾクした!」「この歪な関係性の先が気になる!」と思われましたら、ぜひ【★評価】や【ブックマーク】での応援をお願いします!

次回、第74話。

二人の主君による「共有」は、さらに具体的な『調教』へと段階を移します。完全に自我を漂白されたエルサに、ゼノス様が命じる「最後の奉仕」とは。

引き続き、深淵へと堕ちゆく物語にお付き合いください。

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