「挑発の炎、宣戦の刻」
生徒たちとの実戦演習を終えた俺は、そのまま午前の授業を締めくくった。
ティナも、あの一歩を踏み出せた。それだけで十分、いや、上出来だ。
そう思いながら、俺は特別棟を離れ、本棟の職員室へと歩いていた。……そのときだった。
「……は?」
突如、足元の魔力が弾けた。
俺の周囲が強烈な光を放ち、火花を伴って――爆発した。
ドン、と乾いた音が辺りに響く。
「ガハハッ! 下位魔法とはいえ、爆破魔法をまともに食らったんだ。死んだだろ」
「おいおい、派手にやりすぎだろ。これじゃ痛めつける前に終わっちまうじゃん」
煙の向こうから、軽薄でくだけた男の声が聞こえた。
……ったく、朝から元気な連中だな。
煙を払いながら一歩前に出ると、相手の二人が同時に目を見開いた。
「な……なんで生きてんだよ!?」
「さて、どうしてだろうな」
俺は鼻を抑えながら、平然と答える。
「それと――お前ら」
肩にぽん、と手を置いてやる。
「壊した床と壁、ちゃんと自分たちで片付けとけよ?」
そのまま背を向けて職員室へ向かおうとした――が。
ピリ、と空気の揺らぎが背後から伝わる。
二人の魔力が高まった。さっきよりも、遥かに強い。
「あのなあ、お前ら」
「死ねェ! 無能力者が!」
二人が、同時に魔法を放った。
一人は炎の爆破魔法。もう一人は氷刃を伴った高位魔法。
まともに食らえば、ただの教師じゃ跡形も残らないだろう。
けど、俺は――
煙の中から、無傷で歩いて出てきた。
「ふぅ。誰の指示だ?」
俺の声に、二人の生徒の顔から血の気が引いていく。
「教師の判断とは思えねぇ。……その上にいるやつ、誰だ?」
近づこうとした、そのときだった。
ふわりと熱気が生まれる。俺の首筋すれすれに、炎で形作られた細剣が浮かぶ。
「私よ。私が指示したの」
現れたのは――やっぱり、あの女だった。
学園最上級クラス「サロン」の女王。
次期生徒会長、完璧な血筋、カリスマ、美貌、すべてを備えた生徒の頂点。
――レイナ=エルバート。
「どう? 私なりの“歓迎”のつもりだったんだけど?」
「すまんけど、俺、お前に会いたかったわけじゃないんだが」
軽く肩をすくめると、レイナが薄く笑った。
「そう……なら、失礼するわね、“無能力者”さん。
代わりに、あなたの“特別クラス”に――」
「悪いけど、そういう誘いは全部お断りだ。んじゃ、職員室行くんで」
さらりと背を向けた、その瞬間。
周囲が一気に熱気を帯びた。
気づけば、俺の足元から空間がねじれ、灼熱の炎が辺りを包み込んでいた。
「先生。さっきから、私に随分失礼じゃないかしら?」
レイナがゆっくりと歩み寄ってくる。その瞳に、微笑と――怒りを滲ませながら。
そして、再び俺の首元に炎の剣先を突きつけた。
「殺すわよ、先生?」
「トップ貴族がずいぶん下品な言葉使うんだなぁ。品位って知ってる?」
「ふふ……面白い人ね、あなた。決めたわ」
レイナが笑みを深める。
「あなたのクラス――消してあげる」
その一言に、俺は思わず口角を上げた。
「“俺のクラスを消す”か」
「何が可笑しいの?」
「いや、いい言葉だなって思ってさ。“やれるもんなら、やってみろ”」
俺は炎の刃をものともせず、彼女の方へ一歩踏み込んだ。
「一つだけ言っとく。……うちのクラス、強いぞ?」
「ふふ。なら、見せてもらおうかしら。無能力者のユウマ先生」
レイナは、あくまで優雅に微笑む。
だけど、その背後には――学園の“権力”と“暴力”が、しっかりと潜んでいた。
「その言葉、後悔しないようにね?」
「後悔するのは、どっちかな」
俺はそのまま、炎の刃を背に職員室へと向かった。
その背中に、レイナの声が追いかけてくる。
「近いうちに、あなたのクラスに“お知らせ”を届けるわ。……楽しみにしててね?」
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