ー神話ー
「どなたか参拝しにいらした方ですか?」
「ああ、司祭様ですか?
ちょっと見学に参りました」
「そうですか、ここには何もありませんがゆっくり見学して行ってください」
奥から来たのは旧神殿を管理している司祭であった。クラウスは司祭に旧神殿に来た理由を告げ許可を得る。
「ありがとうございます。
ああそうだ。この少年は事情があって神話を聞いたことがないらしいので、創世神話と大戦の話を聞きたいんですけどいいですか?」
「もちろんですよ、それなら奥の椅子へどうぞ。
神話は少し長いですからね」
「ありがとうございます!」
クラウスは許可を得たついでに司祭に神話の話をお願いする。司祭はそれを快く受け入れ、奥の方へと案内しユーグがお礼を言う。
・・・・・
「まずは創世の話からですね。
至高の1柱たる創造神がある星を見つけた。その1柱はなんのきまぐれかその星に自然を生み出した。そして順にその星を自身の代わりに管理する3柱の神々を生み出す。3柱の神々は星に自分たちに似せた生き物を生み出す。その生き物が我ら人であり、魔物であり、精霊である。これが創世の神話です」
「ほへー、なんだか壮大な話ですね」
「まぁこの神話は基本的な話なので皆にもわかりやすいよう人に聞かせるときは簡素にしているんですよ。
もしもっと詳しく知りたいのであれば神殿の方にある神話に関する書物を読めば詳しく書いてありますよ」
「わかりました。今度神殿に行く機会があれば読んでみます!」
「ええ、神殿は誰でも歓迎しますのでぜひ行ってみてください。
さて次は大戦の神話ですね。
3柱とともにすべての生き物がお互い関わりながら営みをして幾星霜、突然ある1柱が堕天し邪神へと変わる。邪神に対抗するため残る2柱の神とこの星に生きるもの全てが立ちあがる。だが邪神となった神はそれでもなお強大で倒せなかった。海が荒れ、山が崩れ、大地も消える。幾千幾万と命が果て、やがて大いなる戦は我らが勝利で終わりを迎える。しかしその代償は大きかった。大地は荒れ果て、母なる大樹は折れ、残った命も少なかった。大いなる戦で力を使い果たした2柱は最後の力を使い命が育む大地を再建し長き眠りにつく。代わりに神々の務めは生き物が行うことになる。忘れるな、この戦を大いなる代償を。神々が起きるその日まで清く正しく生きることを。
これが神話大戦と呼ばれるお話です」
「・・・・」 〈……〉
「ハハハッ、初めて聞いたら圧倒されるだろ?
この国ではこの話は小さい頃から聞かされるからな。今ではなんとも思わんが、初めて聞いたときは同じ感じだったな」
ユーグは初めて聞く神話の話を聞き、その内容に圧倒され言葉が出なかった。その様子を見たニルスは懐かしそうにユーグに話しかける。何故かソタは懐かしむように目をつぶっていた。
「……はい、何だが凄い話を聞いたような」
「大層な話ではありますが、神話の話なので大昔のことですよ。
それに今日は初めて聞いたから、そう思うだけでこれから何度も聞くかもしれませんし。お祭りのときでは劇などで見ることもできますしね。その時はもう少し詳細に語られますから。例えば十二支様の活躍とか」
「十二支様?」
「ええそうです。干支様は大戦で活躍された十二の魔物の長たちの事です。人と協力し邪神と戦った方たちですよ。
その協力した人たちが今のテイマーの始まりとも呼ばれていますね。
それにこのドライツェン王国はその内のお一方、辰様が守護している国なんですよ。」
「テイマーの始まり!干支様も!
だからこの国はテイマーに優しいのかな?
それに辰様にもいつか会えるといいな」
「それはちょっと難しいかもね。この国にずっと住んでる私たちだって会ったことないんだから。
何かで活躍したら王様が会わせてくれるかもね」
ユーグの感想に司祭が補足を入れる。その補足を聞き、ユーグはテイマーの始まりと干支という魔物の長に興味を惹かれる。
「じゃあそろそろここも退出するか、司祭様ありがとうございました。
これは少ないですけど旧神殿や孤児院のために使ってください」
神話の話を司祭から聞き、長々と旧神殿にいたことからニルスは旧神殿から出ることを告げる。その際にニルスは司祭に幾ばくか金を渡す。
「ありがとうございます。あなた方に神々のご加護があらんことを」
「ありがとうございます。司祭様にも」
そう言ってユーグたちは旧神殿を出ることに。
・・・・・
「さて、もうそろそろ暗くなるし、宿に戻るか」
「はい、わかりました。
それとニルスさん、さっき最後に司祭様に渡したお金ありがとうございました。
あれがお布施ってやつですよね。僕が神話を聞きたかったので僕が払うべきだったのに」
「いいんだよ、そこまでの額じゃないし。
ユーグ君には初めての街を楽しんでもらいたいからな。
それに明日以降はユーグ君たちだけで頑張ることになるんだから、こういうのも今日で最後だ。
よし、今夜はユーグ君たちとのお別れの会だ!たらふく酒を飲むぞ!」
「よっしゃー!明日も休むからな、今日は倒れるまで飲むか!」
「兄さん!ユーグ君たちとのお別れの会なんだからね、飲むなら迷惑をかけないようにね」
「ははは、僕なら大丈夫ですよ、皆さんが楽しく過ごせるならそれに付き合います」
「もうユーグ君たら、ホントにいい子ね。
ニルス、クラウスこんないい子に迷惑をかけないように気をつけなさいよ」
「わかってるよ、それくらい」
ユーグたちは話しながら宿屋『嵐豹』に戻っていった。
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グリムノーデンのどこかの屋敷で、2人の男性が話し合っていた。
「それでハンス、ユルゲンより知らされた例の子たちはどうだった?」
「うむ、恐るべき魔法の技量の持ち主でございましたな。
少年だけでなく、その仲間である従魔も相当の強さを持っておりました。
ただ、干支様と思われる従魔は一切試験には参加しませんでしたがのう……」
2人の男性の内、片方は冒険者ギルドグリムノーデン支部支部長のハンスであった。もう1人の方は見た目はハンス同様の壮年の男性で、ハンスの言葉遣いから冒険者ギルドの支部長より上の人物であると思われる。
「うん?どうした?」
「いえ、少年が持っておったものが少々厄介な代物でございましたのでな」
「厄介な代物?」
「わしの見立てではあれは世界樹の枝じゃないかと」
「世界樹の枝!?まさかそんな代物を持っているとは」
「ええ、どこで手に入れたかを聞いたところ、干支様と思われる従魔からもらったと言っておりましたので、恐らく本物の世界樹でございましょうな。
わしの魔纏を貫通して身体にダメージを与えるほどの威力を発揮しておりましたのでな」
「ハンスの魔纏を超えるとは末恐ろしいな。
してその少年は何か問題を起こしそうな性格だったか?」
「そのようなものではございませんでしたな。
性格は穏やかで、誰にでも丁寧に接する少年でございました。
従魔も主の命に忠実かつ自由に行動しておりましたので、関係も良好でございましょう。
それに問題が起きるのならば、あの子がというより、あの子に関わるものになるでしょうな」
「それは世界樹の枝レベルのものをあの少年が所持しているということか?」
「そのようなことはわしは確認しておりませんので何とも言えませんな。
ただ従魔が変異種で中々強さもある。それがクマ形だけでなく、ゴブリンも変異種でないにせよ相当の魔力操作技術があれば、目につきやすくなるでしょう。その主がまた少年であれば余計に」
「なるほど、先の戦争の影響で従魔の需要は増えておるからな。
馬鹿なものたちが目をつけるやもしれんか」
「まぁそのようなものたちであれば、あの少年の実力を考えれば逆に返り討ちにあうかもしれませんがな。
どういたしましょうかのう?我々の方で監視をつけておきましょうか?」
「いや、大丈夫だろう。
こちらから監視や優遇措置を取れば干支様の機嫌を損ねるかもしれん。
他の冒険者より少し目を向けている程度がいいかもしらん。
街の衛兵にもそう指示をしてあるから、冒険者ギルドの方でもそう指示をしておいてくれ」
「わかりました。
それで魔境の森への対処はどのように?」
「魔境の森か、とりあえず冒険者ギルドは支部長の判断で大丈夫だろう。
駐留している軍にも注意するようにこちらの方で言っておこう。
あとは今、奥地に入っている冒険者たちが戻って来てからまた話を聞こうか」
「ふむ、あと数日で戻ってくる予定なので、帰還次第すぐに報告いたします、辺境伯様」
明日も21時に投稿します。
しばらくの間は平日の5日間は投稿で、
土日はお休みさせていただきます。
また来週から投稿時間は平日20時に変更します。




